第三話 見知ったドロップ
「不思議な形をした木ばかりですね……」
「まさにファンタジー的な……」
「ちょっと違うけどミステリアスに近いね」
村から出て、畑から魔訶不思議な森に変わった場所を探索している。うねり変わった幹や、他のフィールドでは見られない可笑しな形をした葉、様相としては童話の世界に入り込んだ様な感じだ。
今の所モンスターには遭遇していないが、出ないという事もあるまい。限定というだけで普通のモンスターなら良いのだが、変な特性でも持っていたら厄介だ。注意しなければならないので、どんどん突き進むという事もできない。
「ああ、またありましたねこのキノコ」
「今度は何だ……?」
「大丈夫だと思いますけど……大丈夫でした」
「やっぱりコウの運が悪いだけじゃない?」
「何でだ……?」
モンスターと同じく、フィールドに何のアイテムや素材が無いというのもおかしな話で、ここでは形こそ普通だが色がオレンジと水色のストライプという明らかに食用不可な見た目のキノコが生えていた。
鑑定で確認したところ、特に大した記述が無かったので採取しようとしたのが間違いだった。そもこんな見た目、イベントで発生した物のはずなのに記述が「見た目は凄いが、特に変哲の無いキノコ」で終わるはずが無いのだ。触れた途端、麻痺状態になりコトネさんに回復してもらう事態となったのだ……俺だけ。
モモに聞いても、魔力由来じゃないから知らんと言われてしまったし……同じ前衛のアポロさんも問題無かった点からして、低確率の外れを引いたという事だろう。
「まあコウが最初だから、チュートリアルという可能性もあるけどね」
「そういう事にしておいてくれ……」
「それにしても、あの塔まで遠いですね」
「明らかに外から見たもやの範囲以上だからね……空間が拡張されているとか?」
「それに近いだろうけどねぇ。幻覚もいくらかは混じってるかな……」
「おや、口に出す割には珍しくはっきりしませんね?」
「何でも分かるわけじゃないさ」
「幻覚って大丈夫……あ、距離感の狂いとか?」
「錯覚という方が正しいかもしれないねぇ。まあ今の所支障が出るような気配は無いよ」
「それだけでも分かるとありがたいですね」
キノコの群生地があったので、クルトが入手しておきたいとの事で小休憩にした。まだ大した時間も経っていないが、待つだけも暇なのでいくらか考察しておこうという話になったが……まあ不思議空間という事しか分からない。
モモのお陰でここがやけに広い事の理由は知れた。錯覚を解除するのはどうやっても無理らしく、また可能だとしても下手に正すのは不味いとの事だ。それ自体は納得出来るので置いておくとして……相変わらずモモは頼りになる。普通だったら分からずじまいか、レベルの高い近い系統の魔法職がいて分かる事だろう。
「お待たせしました!結構量がありまして……」
「いやいや別に。何かの役に立つかもしれないし」
「じゃあ塔に向かおう。広いと言っても、もう少し歩けば着く距離だ」
村からは大分小さく見えた尖塔は、今や見上げる程だ。大きさとしては100メートルは確実に超えており、細さの割に中々の規模では無いだろうか。あれを登るのは面倒そうだ。
それに近づくにつれて詳細な見た目も分かってきた。等間隔に扉の様な物が配置されていた。あれでは開けたら当たるのでは無いかと思ったが、よくよく見ると、窓なのかもしれない。装飾や形からして誤解した……不思議な作りだ。
「あ、見えてきた」
「あそこが入り口……でも鎖で塞がれていますね?」
「斬ってみるか?」
「そうだね、お願い」
塔へと辿り着いたは良いが、肝心の入り口は巨大な鎖が塔自体に巻きつくかの様に塞いでいた。人が通れそうな隙間はあっても、どうやら魔法的な要素がある様でびくともしない。
魔法であっても、物理的に存在するので【貫牙剣】で斬れるのでは無いか、明らかに正規の方法では無いが、試してみる価値はあるはず。
「【貫牙剣】、からの……【抜刀】!」
「……びくともしないね」
「ちょっとショックだな……」
予想通りといえば予想通り。しかし、今まで大体の物は斬ってきた【貫牙剣】を使っても傷1つつかないというのは中々に来るものがある。まあちゃんと手順を踏んで鎖を解けという事なのだろうな。
「とりあえず周りもおかしいから、そこも調べないと」
「そうですね、4色ですね」
「はっきりと分かれてますね……」
このもやの中の空間は、やはり塔が中心だった様で、森の様相が塔を起点として4つに分かれていた。今まで通ってきた森は紫が混ざった灰色の葉、他の3つは朱色、灰色、黒に近い濃い赤色だ。その葉を付けた木もまた違う特徴をしており、異なる領域だという事が分かる。
「探索するにしても、どうすればこの鎖が解けるのか……いや解いて良い物なのかな……」
「今の所そうするしか無いですからね、原因も未だに判明していませんし……」
「行くしかない……いや【空走場】で登ってみるか?」
「ああ、なるほど。それなら全体見えるしね」
「じゃあ行ってくる……【空走場】」
空中に足場を作り、塔の側面に沿って上がって行く。よく見れば多少凹凸があるので、経験があるプレイヤーならばそれなりに登れる気がするな、一歩間違えれば真っ逆さまだが。
塔の側面にある窓に触れてみるが、何処も開く気配は無く、そもそも開くのかすら分からない。
そのまま登り、塔の天辺へと辿り着きはしたが……尖塔の為か、特に何かスペースがある訳でも無く、過程をすっ飛ばして得られそうなヒントは無かった。
「何も無しか……そりゃそうか。ここが変な空間なんだから、この塔の中もおかしな事になってるよな」
イベントにソロで挑むプレイヤーはあまりいない。俺達の場合は割と大所帯になっているが、普通のパーティでもこの天辺辺りでは移動するのに支障が出る。もやの中と同じく、空間がおかしくなっているのは予想出来るので、外側からは何も情報を得られないのは当たり前と言えば当たり前だ。
肝心の周りといえば、森は綺麗に4色に分かれており、入ってきた村も確認できた。
そして高所から見て判明したのは、森にそれぞれ1つ空いたスペースが確認できた。中心には動いている何かが確認出来るので恐らくボスキャラ……大体流れが分かったな。
ここで得られる情報を全て得たと判断し、下へと戻ろうとしたところ、下にいるみんなが10体程のモンスターと戦闘をしていた。様子からして苦戦はしておらず、多分降りる頃には全て倒されている気がする……が、急いで損は無いはずだ。
「大丈夫か?」
「あ、戻ってきた。アポロさんが全部倒したから誰もダメージ受けてないよ」
「いきなり森から出てきまして……色ごとにモンスターの種類は分かれていたので、それぞれ決まっているのでしょう。強さも予想以上に弱かったのですが……これを見てください」
「え?」
アポロさんが渡してきたのは、人狼というか、人型の狼のモンスターからドロップしたと思われる素材だ。見た目に異常は見られない……鑑定しても普通のドロップ素材……あれ。
「あれ、これ本当にドロップ素材?」
「そうです。ですが、これは別の狼系のモンスターのドロップ素材です」
「なんだこれ……」
「他のもそう見たいだよ……ゾンビっぽいのは螺子、全部見覚えのある素材だね。来てない2方向が気になるけど。後はみんなカボチャ頭……それは良いか」
イベント素材ならともかく、別のフィールドにいる似た様な系統のモンスターの素材が落ちるとは。しかも2、3種類ある様で、関連性が全く分からない。分からない事だらけだ。
とりあえずこちらも登って判明した事を話し、情報をまとめる。
「とりあえずそのボスらしきモンスターを屠れば良いんですね」
「屠るって……まあそうだと思うけど」
「分かりやすくて良いですね、ええ」
「物騒ですね……場所は見たんですよね?」
「ああ、一応ざっくりメモったし」
「じゃあ順に巡ってこうか……このメンバーだと、素直に倒せるかな?」
やたら手強そうにはなっていそうだ……勝てないという事は無いにしても、1日では周りきれなそうだ。




