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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第十章 秋だ!糧だ!豊年満作。
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第二話 今回の犠牲になる村は


 イベント当日、とりあえず初日という事で談話室に集合となった。王都祭では完全に祭りのイベントなので各自行動だったが、今回は季節イベント。今までの2回を考えれば戦闘職も生産職も共通の認識の方が進めやすい。NPCは……まあ頼りになるし。


「割と揃ってる……というか、全員いる?」


「あ、コウさん。おはようございます。全員いますね」


「おはようクルト……なんか久しぶりだな?」


「ああ、そうかもしれないですね……最近すれ違う事が多かったですからね」


 談話室に入ると、モモ達NPCも含めて全員揃っていた。とりあえず1番近かったクルトに挨拶をしたが……最近は直接会う事はほぼ無かった。装備の修理はお互いに部屋に届けるなどで済ませられたので不都合も無かったし。同じ学生ではあっても、こちらは高校生、あちらは小学生。時間や勝手が違うのは当たり前だ。

 それに王都祭以降はまとまって動く事は更に無くなったので、この大所帯感は久しぶりだ。


「最後のコウも来たね。全員予定の10分前……快適だ」


「まあ土曜ですしね。始まる時が分かっていれば予定も空けられます」


「それで、どうしますか?全員揃っていますし、もう行きますか?」


「そうだね。目的の町というか、隣接している村は割とすごい事になってるみたいだし」


「相変わらず情報が早い……フレンドにネタバレが趣味の奴でもいるのか?」


「いやいや、ざっくり教えてもらえる様に頼んでるだけだよ」


 ショウは、あらすじみたいなものだよと言いながら、寄りかかって寝ていたベルフェゴールを背負う。道中バレない様に覆い隠す様に大盾を背負う事も忘れない。よくこの程度でバレないものだなと思うが、移動するだけなら普通にバレていないのだから大したものだ。

 全員最低限持っていくべきアイテムは揃えていた様で、すぐに外に出られた。向かうはドライタルの北、様々な種類の畑が広がる村だ。収穫祭などが予想される秋イベントにふさわしい村、掲示板でも十中八九だろうと予想されていた……前回もここだったそうだ。

 俺も様子を見に行こうかと思ったが、生憎町の売りである黄金色の小麦畑をはじめ大体の物はもう収穫されており、茶色い地面が広がっているとか。多少はまだ収穫していない農作物はあるにはあるが、まあ見せ物になるほどの物は無い。

 ただまあ、収穫祭のためなのか村の端には収穫した大小様々なカボチャが積み重ねられており、雰囲気は残っていたという……はい、過去形。

 

「はい、予想通りー……」


「これは……ハロウィンですかね?」


「こうも怪しい雰囲気を出されたらね……」


「村があった場所も飲み込まれてますね。大丈夫なんでしょうか?」


 着いた訳だが、畑そのものに大した異変は無かった。そう畑そのものには無く……問題は村だ。

畑の近くには森があり、そこを起点にするかの様に薄紫色のもやが畑の大部分を覆っている。もちろん中心部にある村ももやの中で、もやの先はは1メートル先見えるかどうかも怪しい。かくも怪しい雰囲気の大規模なもや……まあハロウィンと予想するのは難しくない。別の可能性も普通にあるけど。


「はあ、スクショ撮っておいて良かったわ……元に戻るよね?」


「戻ると思うけど……どうなんでしょう?」


「分っかんないな……とりあえず町か?」


 夏イベの教訓を生かしたアゲハは、カボチャの山を事前に撮っておいた様だ。いつもの通りの残念な光景に肩をすくめてはいるが、ダメージは少なそうだ。

 このイベントは春イベ、夏イベと同じく大雑把なストーリーがあるらしい。夏イベはプレイヤー全体進行だったが、今回はパーティ……団体進行だ。俺達のメンバー内容やらレベルやらを考慮すると同じ仕組みだった春イベより遥かに難易度は上がっていそうだ。まあイベントで流石に進行不可能になる事は無いだろうし……選択肢を間違えなければ大丈夫なはずだ。大それた事をしたモモもいるし。


「多分そう……いや、プレイヤー集まるし……もしかしたら進行は飲み込まれた村かもね?」


「マジか……で、どっから入るんだ?どこからでも良いのか?」


「それは無いだろうねぇ」


 NPCの為なのか、基本的には口に出さない様にするスタンスのせいなのかいまいち判断が付きづらいが、今まで静かにしていたモモが口を開いた。

 モモ達が言う事が本当なら、あのもやへと突入する道は1つだけ。そしてモモ言う事は大体当たっているのでそこを探す事になる訳だ。


「ちなみにそれはどことかは……」


「ん、んー……」


「良し、じゃあやっぱり町に行こう。すぐに分かるかもしれないしね」


「そうだな」


「……ケチですね」


「あ"?」


「お姉様達……」


 後ろで言い争いが始まりそうになっているのは無視しよう。ウリエルの仲裁が上手くいくことを祈るばかりだ。


「僕達が役に立つ機会はあると良いんですが……」


「直接的かどうかはなあ……まあ進めてみれば分かるだろ」


 生産職が表立って活躍する事はあるかもしれないし、無いかもしれない……というふわふわした事しか言えない。

 とりあえずはもやの中へ入る手段なのだが、それはすぐに分かった。町に入り、近くのNPCに聞くと、プレイヤーがみんなそこへ入って行くと目撃されていたらしい。

 イベントが開始してから2、3時間は経っている。入る場所は見つかってもおかしな事は無い……これは正規手段なのだろうか。


「ズルっぽく感じるのは気にしすぎでしょうか……」


「気にしすぎだと思うよ?」


「そうかなあ……」


 アゲハは気にしすぎだとクルトに言うが、若干俺も思っている様な。先駆者はどうやって見つけたのやら……NPCか、それ以外か。判明した意味探る気は無い。

 もやを見てみると分かれたモモ達と合流し、住民に教えられた場所へと向かう。


「最初の所からは死角になってただけで、普通にプレイヤー集まってるね」


「少し探せば良かったのか……」


「ああ、確かに違うね」


「何がだ?」


「あそこだけ……分かりやすく言うなら色が違う。水系統の魔法が使える奴なら分かると思うよ」


「ああ、魔法……」


「私は魔法を使っている訳ではありませんよ」


「何も言ってないって」


「顔がそう言ってました」


「そうです、ね……」


「コトネさんまで!?」


 水系統と聞いてクローナを思い浮かべてしまったのはしょうがないはずだ。コトネさんまで言うとはそんなに分かりやすく顔に出ていただろうか。


「じゃあ早速入って行こう」


 何があっても良いように、ショウを先頭として慎重にもやの範囲へと足を踏み入れる。辺りに溜まっていたプレイヤーの話ではもやの中へと迷う事無く出入り出来るとの事だが、普通に迷いそうだ。前のショウとすぐ後ろのコトネさんの姿は見えるのだが、それ以降は見えない。はぐれてはいないだろうけど不安になる。立ち込めているのが薄紫のもやというのも不安を掻き立てる要素なのだろう。

 2分程歩き、やっと明るくなってきた。そのまま歩くともやは少しずつ腫れていき、辿り着いたのは飲み込まれたと思しき村だった。


「最初が村か」


「プレイヤーが見当たりませんね?」


「全域かはともかく、この村は別なんでしょうね」


「春イベは村の周辺だったっけ」


 とりあえず情報を集めない事には何も進められないと、手分けをして村人に聞き込みを始める。

 困惑はあれど、思っていたより悲観的では無かったのが不思議だったが、その疑問はすぐに晴れた。

 曰く、俺達が入ってきたもやの場所ならば村人も普通に出られるらしい。万が一に備えて避難は出来るわけだ。このよく分からない状況から逃げられるというのは少なからず安心できるという事だ。

 村の外の様相は変わり、見た事も無い不思議な木々による森、それも数種類あるとか。村一つはあまり深く入っておらず、またこれまた見た事無いモンスターも出た様で村に引きこもっているそうだ。


「大元の、もやの原因も分からないってさ、森の方から来たって話で、あっという間に飲み込まれたってさ」


「森の方……入った場所からして、あっちですね」


「……まああの塔だろうな」


「目立ちますね」


 大分離れているだろう村からでも見れる尖塔。あれが無関係という事もあるまい。次は周辺の捜索だ。


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