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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第十章 秋だ!糧だ!豊年満作。
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第一話 秋の異名は多い


「ぶへぇ」


「それ、こんな場でする顔じゃ無いと思うよ?」


「流石に疲れたんだよ……見ている奴もいないし」


「それは……そうみたいだね」


 だらけきった体勢で辺りを見回しても、クラスメイトはこちらを見ている感じはしない。頭を机に突っ伏していたり、近くの友達と話していたりとわざわざこちらを気にする余裕は無いだろう。

 それもそのはず、今回の定期テストはやたら範囲が広かった。前回の倍は無いにしても、覚える量はほぼ倍と言っても差し支え無い。その為備える苦労も倍どころか3倍以上にもなる。

 こうして死に体になるのは平凡な人間からすれば必然だ。それでも余裕のあるこいつは何なんだか。


「何でお前はそんなに余力があるんだよ……」


「いやいや、流石に今回は僕もそれなりに時間を取ったよ?赤点になったら困るし」


「お前が赤点を取る未来が見えねぇよ」


「あはは、それで終わってみてどうだった?」


「まあ……6、7割?赤点取らないのは当たり前として、ギリギリだとゲーム止められるし」


「なら良いじゃない」


「良いってな……」


 そりゃ6割取れれば安全圏、凄く良い訳ではなくとも、この先に支障が出る心配は無い。しかし、良い点数を取るに越した事は無く、終わってみればもう少しやり様があったと思わざるを得ない。まあ中学の時からずっとそうなんだけど。

 それに今回は一際努力した訳だが、それ以外にもこのテストを乗り切れた理由がある。


「琴音さんに勉強手伝ってもらったんだって?」


「そうだよ。マジでありがたかった……女神か何か?」


「へえ……家?」


「何言ってんだ、図書館に決まってんだろ」


「アッハッハ」


「それ、何の笑い?」


 自分も勉強しなければいけないのに、手隙とはいえ見てもらえるとは思わなかった。しかもあちらから誘ってきてくれるとは……やはり翔斗や西田さん側の人間。当たり障りの無い範囲で勉強法も教えてもらったのにこの差は……やる気と慣れかな。

 それにしても何故誘ってくれたのだろうか?池田もいるならともかく、2人だけとは……ああ、秋イベ対策か。告知は来たけど実際何をするのかはいつもの通り分からないし。組む相手ならウリエルや西田さんがいるだろうけど予備も必要だよな。


「そういえば、去年の秋イベはどうだったんだ?この辺りなら流石にあっただろ?」


「うん、秋イベからあったよ。まあみんな慣れていないから大変だったけど。似た様なゲームをした事があっても、仕様もクオリティも違うからね……」


「そらイベントは更に勝手が違うだろうな……俺も翔斗がいなかったら効率落ちてただろうし」


「はは、どんどん感謝してね」


「そこまでじゃないわ」


 感謝するにしても、翔斗の言い方だと平伏してみたいな感じだ……そこまでの感情は当たり前に無い。


「具体的な内容としては、収穫祭とオクトーバーフェストを合わせた様な感じで……葡萄のモンスターのレイドだったよ」


「意味分かんねぇな……そもそもオクトーバーフェストって、ドイツの……ビールのやつだろ?」


「イメージとしてはそんな感じだよ……ビールじゃなくて葡萄……まあワインだったんだけど、そうなったのは未成年もプレイするからじゃない?主軸のアイテムだし、所持するのもあんまり良くないからとか」


「それはまあそうだろうな……ノンアルコールだろうがアウトだし。ワインって言っても……どうなんだ?」


「ああ、それはちゃんと酒精があるものもあったよ。ただ設定上だけで、飲んでもただのブドウジュースだったよ。ビールよりはマシって事だね……トリモチさんがこんなんで作れるかーって叫んでいたけど」


「あー……」


 そりゃあ、アルコール含めてワインなんだから、ただのブドウジュースの味じゃまともな物が作れるとは思えない。トリモチさんなら想像して整えるぐらいは出来そうに思えてくるが……それを許せる人では無いのだろう。

 モチーフにしたイベントがちょっと全年齢ゲームには無理があったのでは無いのだろうか?ぶっちゃけ子どもビール的な物でも……あー、やっぱり一応名称が普通のビールなのは不味いか。それで言うとワインもそうだが……やはり見た目か。


「飲むとただのブドウジュースなのに、材料にするときちんとワインとして振る舞うみたいでね、トリモチさん以外も生産職は阿鼻叫喚だったみたいだよ」


「そりゃやばい……というかそれ実装したのか……味のデータを分ければ……どうなんだろうな?」


「さあ、そこは流石に僕も……とりあえず、最初のイベントだけあって、手探りな感じがしたよ」


「そういう感じかあ……参考にはならなそうだな」


「内容も被せてくる事は無いだろうしね。秋なんだから、真っ当にハロウィンとか来るかも」


「ハロウィン……無難も無難だけど、分かりやすくて良いな」


 ゲームの秋のイベントと言えば大体ハロウィンだろう……そんな気がする。もちろん前回のイベントのモチーフになったという収穫祭やオクトーバーフェストも有名だが、ファンタジー要素のあるゲームではハロウィン一強の様な。仮装はともかく、怪物はエネミーとしてとても出しやすい。


「まあ収穫祭の要素が入っているのは確定だけどね」


「告知に書いてあったな……もう1回見るか」


『〜新イベントのお知らせ〜


探索者の皆様、10月17日より新イベントを開催いたします。

お題は季節にちなみ、「秋」。

ドライタル北部にある農村が舞台となります。

収穫シーズンは過ぎておりますが、季節にちなんだ物が目白押しで御座います。

様々なアトラクションが飽きさせない体験をお約束させることでしょう。

実り豊かに繁る風景を是非お楽しみ下さい。

探索者の皆様の旅路に幸多からんことを』


「……まあ一捻りありそうだな」


「いつもの事ですからね……」


「わ……いつの間に」


「琴音さんは今お忙しいので」


 テストの後の諸連絡やら何やらを邪魔しない様に話していたので、時間が経ち教室の中は既に人がまばらだ。他クラスの西田さんがここにいるのもそのためだろう。

 琴音さんが忙しいというのは……魂の抜けかけている池田の再起動に手間取っているのだろう。飴を差し出してあやしている……赤ん坊か。


「百合は本当にいつも……今回はもう少しかかりそうだね」


「その様ですね……話を戻すと……ハロウィンでしたか?それが作物に関わるというのは無難ですね」


「一捻りって言っても、そういう感じかっていう予想外過ぎるものは来ないしな」


「まああと数日あるし……気長に待とうか」


「それもそうだ」


 準備する様な事も物も無い。好きに行動しよう……とりあえずは池田をどうにかしなければいけないのだが。琴音さんと扱いに慣れている翔斗に任せるしか無いけど。


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