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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第九章 記念の祭り、各々らしく
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第十九話 下のミスで割を食う


 山場は越えた訳だが、まだ全てが終わった訳では無い。ホマスが盗み出せていなければ、俺達が何人雑魚を片付けても意味が無いのだ。

 とりあえず合流する為、3人で拠点へと戻る。流石に道中は平和なもので、乗り込んだ屋敷から離れればすぐに静かになった。


「あれ、いませんね?いつもなら飄々と戻って何か飲んでいるんですけど」


「ホマスらしいな……そうするといないのが怖い事になるんだが……どうしたんだ?」


 ベータがコテンと首を傾げる。まあ心当たりがあったら、わざわざ口に出さないわな。こちらは事前情報と違った事があった訳だし、あちらも何かあってもおかしくない。失敗してない事を祈るばかりだ。町が大変な事態になっていないから最悪の事態にはなっていないと思うけど。

 5分程待つと、ドアを開けて誰かが入ってきた。手つきがおぼつかない感じだったので一瞬身構えたが、その正体はホマスだったので事なきを得た。ベータなんか座っていた椅子を投げようとしてたし。

 ただ違和感というか、ホマスはやけにボロボロだった。自己主張が激しい白い装備は薄汚れ、所々が裂けてもいる。ホマス自身もいつものふざけた感じも余裕も無く、疲労困憊といった有様だった。プレイヤーなのに肩で息をしている時点で相当だ。


「何があったんだ……」


「えっと……どうされました?」


「ちょっと……あー、アルファ!!聞いてた情報と違うんだけど!?何であんなにトラップあるのさ!?多めに持っておいたはずなのにアイテム足りなくなるし!最終的には根性で解除するしかなかったんだけど!?」


「あ、そちらもでしたか……」


「え?そちらも?」


「こっちは人数は大体合ってたけど、2人で足りるぐらいに雑魚かったんだよ」


「えぇ……何それ…‥どうなってんの?」


「さあ?」


 ホマスの方は色々と大変だった様だ……まあその有様の時点で目に見えてわかる。謎が多すぎるクエストだ。

 それはともかく、目的の物は無事盗み出せた様で、ホマスが取り出したのは圧力鍋みたい形の物体だった。危険物なのに雑においた時はヒヤヒヤしたが、多少雑に扱っても問題ないらしい。


「ま、まあ目標は確保できたので良いですけど……」


「ギルド行こう、ギルド。流石に色々聞かないとやってられないよ……こんな事初めてだし。ほらコウも」


「ギルドって……俺が行っても大丈夫なのか?」


「あー大丈夫……だよね?」


 アルファが確かめる様にベータに向くと、こくりと頷いた。この2人の力関係はたまに分からなくなるな……いや2時間も関わっていないのに言える立場では無いのだが。

 ギルドへ行くのは結局問題無い様で、3人について行く。ギルドの入口はノインケルにもあるらしい……入口とは?


「詳しい事は僕も知らないんだけどね、空間を各町で繋げてるとかそんな事でも無いらしいんだけど……何処でも一緒なんだよね」


「何だそれ……まあそれっぽいけど」


「私達も知りませんねー……便利なので良いんですけど」


「それでもって、別の町に行ける訳でも無いから不思議なんだよね」


 ますますもって意味が分からない。ゲームの不思議構造にケチをつけても始まらないのだが、仕組みぐらいは知りたいものだ。

 そんな雑談をしつつ、ノインケルの裏路地をグネグネと曲がりながら進む。最終的には突き当たりに着いた訳だが、そこには見かけは変哲の無い木の扉があった。こんな所にある時点で怪しい事この上ない。


「ここだ。じゃあ入ろう」


「あ、あなたはホマスさんの次でどうぞ。万が一があるので」


「万が一って……怖いなあ……」


 直前で不吉な事を言うのはやめてほしい。躊躇する理由は無いので、入るのは入るけど、もう少し安心できる要素が欲しい。

 中は、これまた特に何か変哲がある訳でも無く、酒場っぽい構造の空間だった。こう、西部劇にある様な感じの。いくつか置かれた丸テーブルのどれにも人は座っておらず、カウンターの方に妙齢の女性がいるだけだった。それっぽいなあ。


「あら、ホマス。仕事はちゃんと出来たかい?」


「『盗王』になったのに失敗なんかしてられないよ」


「そちらさんは……新顔じゃ無いね。協力者かい?連れてくるのは構わないが……」


「分かってる分かってる。用件は分かってるでしょ」


「ああ。間に合わなくてね。望む回答は用意してあるよ」


 多少なりとも気心は知っている様で、カウンターの女性とホマスは気安く話している。こちらは置いてけぼりだが、まあそういうのは慣れているし、察するにクエストの情報がおかしかった理由は分かるようだ。

 俺としてはそれさえ分かれば後は特に……報酬貰って終わりだな。クエスト経緯からしても、俺が深く知る必要は無い事柄ばかりだ。

 そういえば、後ろから入ってきたはずのアルファとベータがいない。意識を向けてなかったので、普通に奥に入って行ったのかもしれない。せめて挨拶ぐらいは……NPCだし、そこまで気にする必要は無いっけ。


「とりあえず、ブツを出しな。処理は早い方が良い」


「あー、そうだね。ほら」


「うわっ」


 ホマスが先程も見た危険物をカウンターの上に取り出す。そこまでは良かったというか、女性が何処かにやるのかと思ったら、横からぬっと黒子が生えてきた。普通に格好そのままの黒子だ。

 生えてきたと言っても、死角で屈んでいただけかもしれないし……想像すると何かアレだな、役割的にはおかしく無いのに。


「ああ、びっくりするよね。回収と処理はあの人がするんだよ」


「そうなのか……」


「んじゃ、頼んだよ」


 黒子はこくりと頷き、足音一つ立てずに奥へと引っ込んでいった。移動は普通に歩く様だ……カウンターに隠れていたのは一体。


「そうだ、僕にここの事聞かれても表面上の事しか答えられないからね。僕も知らないし」


「え、大分長く活動してるんじゃないのか?」


「ハハハ、ホマスは慣れてきたとはいえ、まだヒヨッコだよ。いくら探索者で成長が早くてもね……」


 俺の疑問に対し、答えたのは女性の方だった。よくよく考えてみれば、サービスが開始してからまだ1年、多少ゲーム的処理があるとしてもリアル寄りなので1年近くではヒヨッコというのも当然だろう。そもそもこの系統のクエストがポンポン受けられる訳では無いだろう。


「それで、何であんなに情報が間違ってたのさ?事前調査もミスとかいう問題じゃ無いと思うんだけど」


「それが、ミスなんだよ。新人がやらかしたんだ」


「はあ!?大体何があるぐらいを調べる程度の簡単なクエストでこんな決定的な!?」


 わあ、人的ミス。いや欺瞞情報とかの方がまだ納得できる……ホマスが言う簡単は分からないが、流石にここまで間違える事はあるのだろうか。


「少し前にウチに入った探索者がいたんだけどね。多少慣れてきたから少し難易度を高くしたんだけど……まだ早かった様だね。多少の引っ掛けにもかかるとは……」


「えー、ちょっとコツ掴めば簡単じゃん……」


「やっぱり探索者でも差はあるね。あんたは要領良すぎだよ」


 女性はやれやれという風に息を吐く。ホマスの言う簡単は簡単では無いな……それはそれとして、ただ難易度間違えただけのミスか。クエストの発生過程によっては、こんな事もあるのか。面倒ではあったけど、勉強になった……役に立つかは分からないけど。



「えー、次からは気をつけてよ……割とやばかったし」


「まあこちらのミスでもあるからね、多少手当は出すさ。さて、ほらホマスと協力者さんの報酬さ」


 女性がカウンターの下を探り、2つの布袋を出す。大きさに差はあれど、どちらも思っていたより大きい様な。


「あれ、コウのも大きくない?」


「迷惑料さ。こういうのに関わるのは初めてだろう?流石に最初がこれは可哀想さ」


「ああ、なるほど……どうも」


 そういう訳か。ちゃんとした理由で多くなるなら文句は無いし、ありがたく受け取っておこう。


「じゃあホマスはちょっとお残り。協力者さんはもう良いよ、そこの扉から出るだけで良い」


「あ、じゃあね。またあったらよろしく〜」


「いや2回も3回もやりたく無いわ……じゃあな」


 雑ではあるが、ホマスに挨拶して扉をくぐる。フレンド登録はそのままだし、何かあった時には連絡も取れる。

 外に出ると、入った時と変わらない裏路地だった。ただ振り返ると、不自然な木の扉は無かった……本当にどういう仕組みなんだか。ちなみに、覚えている限り道を遡ってみたところ、グネグネと曲がる事なく表通りに戻ってこれた。道も含めてか?


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