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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第九章 記念の祭り、各々らしく
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第十五話 第2王女と交友関係


 ついにというか、あっという間に最終日。今日は特に主な催しは無いようだ。まあこれまでと同じく、屋台やらは変わっているらしいので見に行くのは当然アリだ。

 屋敷の中には久しぶりにほぼ全員がいた。アポロさんも最終日ぐらいは……という事で、案内出来るショウと回るとか……様相多少変わっているのに案内とは?

 そしてほぼ全員というのは、コトネさんがいない点である。昨日の用事が長引いたとかで、午前中一杯はログイン出来ないとか。リアルの用事でゲームの時間が取れない事は普通なのでそこまで律儀になる事でも無い。まあ丁寧な人だからな、美点だし。


「あ、今日は夜に締めの花火があるらしいよ。かなり大規模みたい」


「そうなのか、そりゃ豪勢だな……花火はまだ見た事無かったな」


「こんな時でも無ければ打ち上げるものじゃないからね」


「まあ見に行くかな……モモ達はどうするんだ?」


「あ?あー……気が向いたら2階からでも見るさ。少し用事があって疲れてるからねぇ」


「そうか……また天使関係じゃないよな?」


「あー違う違う。そっちじゃないし、用件は終わったからね」


 そっちじゃない……悪魔かな。終わったというなら、ケリはついているという事なのだろう。それならまあ……大丈夫かな。流石にまた短い間に2連戦とかはやめてほしいので、予兆ぐらいは欲しいものだ。予兆はあったと言われると否定出来ないけど。


「じゃあまた屋台でも巡って行くかあ」


「そうだね、じゃあ僕達も行こう」


「そうですね、行きましょう」


「ちょっとマスター、ずり落ちる……」


「はいはい」


「……」


 ショウとアポロさんも出る事にしたらしい。いつもの如く1人くっついているけど。あの大盾で誤魔化されているのはなんか凄いな……そりゃ人が背負った盾の内側なんて誰も注意深く見ないか。

 王都は広く、表通りを通るにしても多少道を変えれば新鮮な感覚が得られる。これまでは基本的にフィールドに出る最短の道しか通らなかったし、この5日間で回り切れるほど狭くもない。様相が毎日変わることもあり、飽きる事は無い。まあ回りきれないのは多少勿体無いけど。

 そこらで買った、ちょっと生きていた時の姿を考えたくない感じの肉が材料の串焼きを食べながら歩く。美味いのが厄介だな。


「すみません、落としましたよ」


「え、はあ、人違いじゃ…….は?」


 歩いていると後ろから声をかけられた。落とし物なんてプレイヤーはしないし、持っている串焼きのゴミを落としてもいない。人違いだと言おうと振り返ると、声の主は一言で言うと祭りで少しおしゃれをした可憐な女性のNPC……しかし、良く考えると声に聞き覚えがあり、なおかつ目つきを悪くしてメイド服を着せれば……はい。


「メ、メイドさん?」


「流石に気づかれますか……まあこの程度の偽装ではしょうがありませんか」


 やはりメイドさんだ。一瞬目つきが元に戻り、格好は違うのに見覚えのある感じに。偽装……確かにメイド服のみだったから、こっちの方が違和感ある感じに……それは今は別にいい。


「格好はともかく……どうしました?」


「とりあえず、こちらへ……」


 一本道をずれて、人気の無い方へ。一体何があったのだろうかと思ったが、またシャーロットがいなくなったのかと思いつく。こんな祭りの日にアレだなと感じざるを得ない……一応事件の可能性も否定は出来ない。しかし、用件はシャーロットの事では無いようだった。


「ジェシカ様をご存知ありませんか?」


「ジェシカ?シャーロットじゃなくて?というか誰……」


「……この国の第2王女にあらせられます」


「……それは、失礼をば……えっと?」


「もうすぐ会議のお時間なのですが、中々現れないのでシャーロット様より探しに行けと」


「なるほど」


「探し始めた折、あなたを見かけまして……あなたの事でしたらもしかしたら、と」


「人を何だと思っているんだ……会ってないよ」


 第2王女かあ、一昨日のコンテストで審査員をしていたから外見は知っている。名前は知らなかったのでしょうがない……普通知っているもんか。

 それにしてもその王女様は何処にいるのやら。


「そうですか……では商会でしょうか。いくらジェシカ様でも、この時間まで図書館にいる訳は……コウ様、出来れば探しに行っていただいても良いでしょうか。もちろん報酬は支払います……シャーロット様が」


「それは別に良いけど……図書館に行けば良いのか?」


「はい、いるとすれば奥の方にいらっしゃいます。出来ればその後王城に連れて来てもらえれば」


「分かった、王城な」


「ありがとうございます。商会とは反対側なので……こちら、身分証の様な物です。これなら図書館に入館でき、ジェシカ様の所在を教えてくれるかと……それでは」


 そのまま裏道の奥に入り、消えていった。メイドさんなら普通に間に合いそうなものだが……なるたけ早い方が良いのだろう。護衛とかいないのだろうかと思うが、知らせる役がいないためにこうなっているのだからしょうがない。渡された物は小さな金属板で、何やら細かく書かれている。メイドさんが言うなら大丈夫だろう。

 串焼きのゴミは一旦しまい、小走りで図書館へと向かう。入った事は無いが、道自体は知っている、というか、でかい建物の為に付近まで行けば迷う事は無い。


「探索者の方ですよね、入館証はお持ちでしょうか?無ければ発行致しますが……」


「ああいや、人を探しに来ただけで本を借りに来た訳じゃ……あ、これ」


 中に入ると、館員の女性に声をかけられた。そりゃこんな規模の図書館なんだから入館証ぐらい居るよな……でも利用しに来た訳でも無く、割と急ぎめの用件で発行する暇は無い。早速メイドさんに渡された身分証が役に立つ。


「これは……もしかしてジェシカ様をお探しですか?」


「はい、もうすぐ会議とかで」


「そ、そうですか。では……本来ならばご案内しなければならないのですが、生憎ここを離れる訳には行かず……ジェシカ様は……書いた方が早いですね」


 そう言って館員の女性は軽くメモを書いてくれた。確かに口頭で説明するには複雑な道順……この図書館どれだけ入り組んでいるんだ。軽い迷路な気がするのだが。覚えている館員の人も凄いが。

 とりあえず書いてくれたメモのお陰で迷わずに進める。地下に相当する場所で、明かりは人工的な物しかなくなった。更に進むと、突き当たりの所で安楽椅子に座りゆったりと揺れながら分厚い本を読んでいる少女がいた。この前見かけたのと同じ顔、本人で間違いなさそうだ。


「あの、すみません」


「あらここに人が来るなんて珍しい……どちら様?」


「シャーロット……様のメイドのナタリーさんに依頼されて来た探索者のコウと言います。会議のお時間が迫っているとの事で頼まれたのですが」


 館員にも見せた金属板を渡し、簡潔に経緯を述べる。もちろん伝わった様でこちらを怪しむ事は無かった。金属板のおかげが大半だろうけど。

 しかし怪しまれる事は無かったが、不思議な顔をされた。テーブルの上に置いてあった懐中時計を手に取り時間を確かめており、首を傾げている。


「会議はあと1時間程の筈ですが……?」


「え、いや……迫っていると聞いただけでして……」


「ちょっとジェシカー?もう会議じゃ無いのー…….あれ?」


 もう1人現れた。魔女の様な格好に腰に下げた剣、右腕で本を抱えている。表示されているプレイヤーネームはローズ……夏イベで会った人だ。


「あら、確かショウのリアフレだかの契約者の……コウ。どうしてここに?」


「そっちこそ……いや面倒だな」


 どうやら知り合いらしいので、こちらの用件をざっくり話す。シャーロットというか、王族との付き合いがあるのは知っている様で、すぐに納得してくれた。ローズの方はどうやら昨日ジェシカから聞いた時間に近づいても移動する気配が無いので、確認しに来たとの事だ。話している感じ、仲の良い友人の様だ。少し違うが、俺達とシャーロットみたいなものだろう。普通にあり得る話だ。


「あら、1時間間違えていましたか。それは大変ですね、急がないと」


 ゆっくりとした動作で本を片付け始める。本を丁寧に扱うのは良いとして、急ぐ気が全く見られない。


「あーもう、私がやっておくわよ……コウ、ジェシカを頼むわ」


「まあこっちはクエストみたいなものだし。じゃあ行きましょうか」


「はい、お願いしますね」


 ぽやぽやとした感じでついてくる……大丈夫かな、もしかして天然キャラ?

 王城の前まで着くと、タイミングが良かったのかメイドさんが現れ、そのままジェシカを回収していった。報酬の金額は10万……まあこんなもんかな。臨時収入だ……モモ達に何か買って帰るかな。






 夜になり、そろそろ花火が始まろうかという時間になった頃、コトネさんがログインして来た。確か午前中で終わるみたいな話だったけど……大分伸びた様だ。


「ま、間に合った……コウさん!花火を見に行きましょう!」


「んえっ……いやここで見られるらしいし……」


「私は良い場所を知っています!」


 そんな昔の翻訳サイトに打ち込んだ結果みたいな……疲れている影響だろうか。まあ良い場所があるならそっちの方が良い。モモ達を誘ったら疲れているから断られた。ショウとアポロさんはまだ帰って来ていないし、クルトとアゲハはレイヴンさんに誘われて生産職の打ち上げに参加しているとか。

 まあこれまでと同じく2人で行くしか無いのだが……コトネさんはそれで良いのだろうか。2人で良いのやら?


「こ、ここです……」


「少し落ち着いたら……ジュース飲む?」


「ありがとうございます……」


 臨時収入でみんな用に買っておいたジュースを差し出す。そこまで疲れる距離を移動した訳では無いが……まあ精神的なものかな、大分急いだし。

 コトネさんに連れられて来た場所は地形の関係で1段高くなっている場所で、都合良い事に俺達しかいないのでゆっくりと見物できる。


「あ、始まった」


「凄いですね」


 始まった花火は大規模と呼んで差し支え無く、様々な色、形の花火が空を覆い尽くしていく。ちゃんとしたリソースを用意すればいくらでも大規模出来るからなあ……ゲームならではだ。空を覆い尽くさんばかりだが、雑多ではなくバランスが取れている。祭りの締めとしては見事としか言い様が無い。


「コ、コウさんあの……」


「どうしました?」


「えっと、その……ですね……」


 花火に照らされて若干分かりづらいが、こちらを向き、頬を赤らめている。何かを伝えようとしているみたいなのは分かるが、歯切りが悪い。

 何かシチュエーションからして告白みたいだな……はは、アホみたいな考えだ。さて何かな……空の容器、なるほど。


「みんな用に買っておいたんで、いくらでもどうぞ」


「……アリガトウゴザイマス」


 体感的に喉は乾くだろう。その飲み物を買った場所は先日青いジュースを買った場所で、今日はまともな色の物がいくつかあった。もちろん味はとても良かった。


「オイシイデス」


「そりゃ良かった」


 花火は輝きを増し、王都を照らす。これでこのイベントも終わりだ……6日間の割に色々と……チッ、ホマスの事思い出した。やっぱりアレだな、賞品送って来たのがイラッとくる。どうにかして一泡吹かせられないものか……何処にいるかは知らないけど。


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