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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第九章 記念の祭り、各々らしく
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第十四話 金の貸し借りはきっちりと


 イベント5日目、今日はオークションが開催される様だ。オークション自体は1日中行われるそうだが、予想される価格帯や出品物のジャンルによって時間帯が分かれている。

 午前中は主に金持ち向けで、貴金属や美術品が出るそうだ。まあ大体NPC用で、参加するプレイヤーは極小数だろう。掘り出し物はあるかもしれないが、それを探しに見に行くという程興味は無い。

 実際興味があるのは午後、特に夕方の方だ。午前中とは違い……と言ってもいくらでも値が吊り上がるオークションだ、庶民向けと言える訳でも無い。

 しかし予想される落札額はそれよりも低い筈で、高価なポーションやアイテム、ドロップ素材、装備、アクセサリーなどが出品される。そして夕方辺りから開始されるのは装備とアクセサリーだ。何が出るのかは今の時点では分からず、お目当ての物は無い。

 まあ見に行く価値はあるはずなので、しかも金ならある。1点や2点ならどうにでもなるはずだ……オークションというものを甘く見ていなければ。

 そういう感じの今日の予定だが、それまでは相変わらず暇なので町の中を見て回っている。コトネさんは今日はリアルの方で用事があるらしい。

 今日の屋台やらはアトラクション系が多く、射的など縁日で見る様なものばかりだ。ただリアルで見る事が出来るタイプは大体プレイヤーは禁止だ。当たり前だな、ステータスが違いすぎる。射的はあんまり変わらないが、そこはDEXとかそこらが関係するのだろう。

 プレイヤー向けのものは普通より遥かに難易度が高くなっていた。1回やってみたが、100メートル先にどうやって当てるんだか。刀使ってるやつが大した事を出来るはずもなく、損と言える程ですらない少額を店主に寄付するのみに終わった。


「何かねぇかな……あれ」


 気分転換に買った、青色の見た目の割にまあまあ美味いジュースを飲み歩いていると、町に設置されたベンチに座って女性プレイヤーが目に入った。

 項垂れているだけならまだしも、雑多な物に囲まれているせいで目立っている女性、それだけなら横目で見るぐらいで済むのだが、知り合いであれば少し話しかけてみようという気にもなる。


「どうしたんだ?」


「あ……コウ。久しぶり」


 プレイヤーの正体はタイガ、クエストが被って協力する事になった事がある『銃王』だ。幅広い種類の銃を操り、実質無限弾という効果のエクストラスキル持ちだ。銃士系統のクランリーダーもやっているらしいが、その辺はあまり詳しくない。


「いやあ、射的とか屋台を巡っていたら出禁になっちゃって……」


「そりゃあ、こんだけ景品取ったら出禁に……巡っていたら?」


「うん、1軒目取り尽くして、近くだと止められるから少し離れた所の2軒目3軒目ってやってたら、4軒目にはもう話が回ってたらしくて……そういう系の全屋台出禁になっちゃった」


「全部かよ……」


「あ、別の町の所もそうなってるみたい」


 国全域でか。話が回る前に荒らされた3軒のひとは可哀想に……全て取られたのなら結構な被害だ。それはこの物の量も納得だし、こうして暇を持て余しているのも納得だ。


「というか、『銃王』が荒らすのはマナー的にどうなんだ?」


「やだなあ、スキルは使ってないよ?プレイヤー用の割に結構簡単だったから……ちょっと調子に乗っちゃった」


「ソウカ……」


 俺は別に飛び道具が苦手な訳ではないはず……まあ慣れない物だったからな、うんしょうがない。タイガは素で全部景品取ったのか、あの手のものは取れないようにしている物もあるはず……それはリアルの話だからこっちがどうなってから分からないっけ。

 一緒に戦った時は大火力の銃器ばかりだったから技量を量る事はあんまり出来なかった。4次職でクランリーダーはやはり伊達ではない。


「……ここで会ったのも何かの縁って事で……これあげるよ」


「え、いや」


 そう言ってタイガが渡してきたのは、白熊のぬいぐるみ……この物の山の中から何故これをチョイスしたのか。ぶっちゃけいらないので遠慮したいが……まあくれるというなら貰っておこう。そもそもこうして出しているという事は入りきらないのだろうし。


「……じゃあありがたく」


「まあ知り合いの女性プレイヤーでもNPCにでもあげなよ。それただのぬいぐるみだし……何でこれプレイヤー用の景品だったんだろうね……?」


「さあ……」


 趣味ではないから、誰に……アゲハにでもあげるか?いやコトネさんもぬいぐるみ持ってたから……あー……まあ簡潔に経緯を説明すれば誤解も起きないかな。それで拒否されるならどっかにしまっとけば良いんだし。


「はあ、これからどうしようかな、1日暇になっちゃったし……コウはこれからどうするの?」


「え、夕方のオークションまで彷徨いているだけだけど」


「ああオークション……夕方は確か装備とかだっけ?中身分からいんだよなあ」


「そうそう」


 それを聞くと、タイガは何やら考え込み始めた。参加でもするつもりだろうか。

 それにしても、1日暇になったという事は、出禁にならなかったら更に荒らして回るつもりだったのか? その実力だと、出禁にしたのは英断だな。


「……良し、じゃあ私も行こうかな。ついて行って良いでしょ?」


「え、オークションなんだから別々でも……」


「こっち誘う人もいないし、リアルでやる事も無いんだよー、良いでしょー?」


「特に面白く無いぞ?」


「良いよ良いよ。じゃあ夕方……あ……運ぶの手伝って?」


「……流石に入りきらないな。持つしかないか」


 何気無しに一緒にオークションに行く事になってしまった。それはまあ良いとして……大量の物を運ばされる羽目になったのは如何なものか。後で会うのに見捨てるのは出来なかったので結局運んだけど。

 タイガのクランホームの前まで景品の山を運び、時間は移る。王都をぐるりと回ったお陰で、あと15分ほどで目当てのオークション時間となった。タイガとの待ち合わせはオークション会場の前、出品される品のジャンルがジャンルだけに、同じく待ち合わせをしているのかプレイヤーの数は多い。


「あ、コウ〜」


「いた……え」


 タイガの声がしたので振り返ると、タイガは1人だけではなく、もう1人男性プレイヤーがいた。俺より身長は高く、精悍な体つき、赤系の短髪だが……熱血系という感じでもない。名前は……メルケルか。


「ああ、初めまして、メルケルです。サブクランリーダーをしています」


「どうも、コウです。えっと?」


「自分がついてきたのは簡単に言うと見張りですね。タイガはクランの資金に手を出した事がありますので」


「え」


「ちょっとちょっと、外聞が悪いでしょ!?翌日にはきちんと返せる確実なアテがあったし、ちゃんと返したでしょ!?」


「そもそも手を出してはいけない物ですが」


「そりゃそうだ」


「むぐぅ……」


 そんな事があったとは……それは見張りもつくな、オークションなんていくらでも金が飛んでいくんだし。

 1人増えた経緯については理解したので、とりあえず会場へと入る。入る時に配られた

紙には出品される品の特徴が簡単に書かれていた。席に座りながら、目ぼしい物が無いか眺めていく。


「ポーション……効果は凄いけどなあ……勿体無くて使わないだろうなあ……」


「あ、このレアドロ、銃弾に使えるやつ……!こっちは冷却に……意外と多い」


「そのぐらいならフィールドで手に入れてください、あなたなら簡単に狩れるでしょ?」


「お金で解決した方が速い!」


「金欠になっても知りませんよ……」


 ついてきたタイガの方が興奮している……メルケルはもしかして苦労人ポジなのだろうか。先行き不安だな。

 しばらくすればオークションが始まり、次々と物が落札されていく。人気が無いのか、底値の物もあれば、数百万で落札された物もあった。俺はリストを見た結果、特に目ぼしい物は無かった。散財にきたのになあ……クルトとアゲハが優秀なせいだ、あと庶民気質。

 そしてタイガの方は銃に使えると分かると次々と入札していっている。潔く諦めていたのもあったが、トータルとしては…….考えたく無いな。


「さあ、次がメインだよ……!」


「え、メインがあってこれまでを!?」


「ちょっといくら使ったと思ってるんです!?いくらリーダーでも足りないでしょ、最低金額1000万ですよ!?」


「だ、大丈夫……でござろうよ」


 口調が怪しくなっている……やばいんじゃ無いだろうか?メルケルは憐れなもの見るかの様な視線をリーダーであるタイガに……当然か。

 このオークションはオークションのイメージらしく、声を張り上げる方式だ。ちゃんと意志を持って発言すれば多少声が小さくても認識される謎方式なので大丈夫だ。


「1350!」


『1400!』


「ぬぐぅ……1450!」


「大丈夫か、これ……」


「さ、さあ……」


 値はどんどん吊り上がっていく。そんなに古ぼけた感じの銃身の様な物に価値があるのか……メルケルは分かっている様だ。


「そんな価値あんの?」


「喉から手が出る程ではありませんが……リーダーの気持ちは分かります」


「そ、そうか……」


「ええい、1800!」


『2000!』


「ぴゃ!?た、足りない……」


「自業自得ですよ……」


 争っているのはあと4、5人程おり、更にには上がっていく。タイガは雰囲気的にこれで脱落かな。銃士系統も迷宮のお陰で少しずつ人気が出ているお陰かな。


「お、お金!お金ちょっと貸して!」


「駄目ですよ!?こうなるからついてきたんです!」


「む、むむ……!じゃあコウ!お金貸して、お願い!何でもするから!」


「はい!?」


「ちょっと!」


 タイガのいきなりの要求には大分驚いた。切羽詰まっているのは明らかで、どうしても落札したい様だ。それなら今まで使うなよという事で終わるのだが……この場合、散財したい俺としてはなあ。あと何でもとか言うんじゃないよ。


「ま、まあ多少なら……」


「ありがとう!よっしゃ、2400!」


「……大丈夫ですか?」


「まあ2000万ぐらいまでなら……」


「お、お金持ちですね……」


「色々あって……」


 ホマスの一件の金は早く使い切りたい。ここで貸してしまえば一応無くなる事になる。


「3400!」


『3500!』


「3600ぅ!」


『……』


『他に、他にいらっしゃいませんか!?それでは……3600で落札です!』


「よっしゃあ!ありがとうコウ!愛してる!」


「やめろやめろ……!」


 多感な高校生に抱きつくんじゃない……!抱きついてきたタイガを急いで引き剥がす。メルケルも手伝ってくれ、すぐに離れた。

 これから俺に1600万を返さなくてはいけない事を分かっているのだろうか。


「結構な金額になりましたね……私が言うのはお門違いなんですか、ご容赦を……」


「まあこっちは使い切りたかったから返済を待つぐらいは」


「ありがとうございます……リーダーまだ欲しい物があるとか言いませんよね?」


「無い無い!これで終わり終わり!やった〜!」


 落札出来た喜びで若干ハイになっている。しばらく待たないと元に戻らないか。

 400万程余ったのでどうしようかと考えていると、いつぞやリストで見たポーションの番となった。どうせならと入札してみたら、ぴったり400万で落札できた。

 タイガのテンションに釣られていらない物を……400万のポーション……色んな意味で使えねぇ。

 オークションが終わった後、タイガに1600万を貸して終了。落札した物を抱いてタイガはご満悦そうだ。


「いやあ、本当にありがとね、ふふふ……」


「い、いや別に……」


「個人で借りてるから良いですが……最悪切り捨てますのでどうぞご自由に」


「ええ……」


 冗談……あ、メルケルの目は本気だ。大丈夫かな、タイガ。まああげても良い金で、金額的にそれだと不味いから貸してる扱いにしているだけだ。請求しなければ……しばらく大丈夫か。オークションで散財は出来たが、経緯が大分特殊だった。


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