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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第九章 記念の祭り、各々らしく
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第十二話 人助け?


 イベント3日目。今日は4日目と合わせて2日間にかけての催しがあるらしい。詳しくは知らないが、音楽系のコンテストとか何とかだそうで、俺には直接関係無い話だ。

 音楽といえば吟遊詩人系統のジョブが思いつく。まあジョブ指定という事は無いらしく、一応誰でも参加自体は出来るそうだ。だが、吟遊詩人系統には、聴かせるジョブである以上、鳴らす音に補正が付く様でクオリティは高くなる訳だ。それ以外のジョブは……まあ余程の事が無いと記念参加みたいな感じなのだろう。

 そんな感じの2日の日程なのだが、どうしようか。音楽は聞かない訳では無い……が、大体流行ってたりアニメの主題歌ぐらいなものだ。ここでわざわざ聞く程かと聞かれると怪しいところだ。ここでレベル上げに行くのも何か勿体無いし……うーん。


「あのコウさん、少しよろしいですか?」


「え?うん、大丈夫だけど……」


 談話室のソファに寝転がりながら今日明日用のパンフレットを眺めていると、コトネさんが話しかけて来た。手には同じパンフレットが握られている。一体どうしたのだろうか……人数限定の物でもあったとか?


「あの、今日もしお暇でしたら、開催されるコンテストを観に行きませんか?もちろんずっとでは無くて、間に他の場所を回ったりとか……」


「ああ、そういう」


 まさかのお誘いが来た。特に断る理由も無いが、興味があまり……暇なのは目を見えているし、断るのは変だな。途中で寝たりしなければ不快感を与える事も無いはず。他興味ありそうな奴でも誘えば変な事にはならないだろう。


「大丈夫だけど、どうせなら他の……他……あれ?」


「皆さん出掛けてますよ」


 確かに屋敷に誰もいない。そういえば談話室に1人もいないというのは珍しい。興味があまり無いと言っていたはずのモモ達も外に出ている様だ。何か目ぼしい物でもあったのだろうか。


「2人で行きましょう」


「ああ、はい……」


 コトネさんの圧が若干強い様な。もっと大人数で行きたかったのだろうか。共通のフレンド……暇そうな人がいない。NPC……そもそもそんなにいないわ。


「それで、会場に行くの?場所は……パンフレットに書いてあるか」


「そうですね、けど複数あるので……」


 どうやら下調べは十分に済んでいるらしい。コンテストは今日はNPCに加えてプレイヤーも多く参加するらしく、まずは予選を行う様だ。この王都にある4つの小広場と大広場で分割し、審査員と投票により行うとか。時間帯とか複数投票とかで色々ありそうなものだけど……そこはいつもの魔法でどうにかなるとか。後は夜に予選の結果発表、明日に決勝が別の町にあるコンサートホールの様な場所で行われるそうだ。2日やるのは知っていたが、やはり随分と大掛かりだ。


「じゃあ、観れないものもあるのか」


「はい、そうなんです。でもですね!シャーロットさんから『奏王』で有名なプレイヤーが出る場所を聞いていまして、そこに行きましょう!大体の順番も聞いているので、他の場所も回れます!」


「情報漏えーい……」


 果たして王女のする事なのか。いやまあ、調べれば分かる事なのなら別に良いのだけれども。シャーロットの推定やらかしについては置いておくとして、それなら予定を立てて動く事が出来る。予選はピンキリだろうし、どうせ聞くなら上手いものを聴きたい。


「じゃあその周りをうろつくという感じで……?」


「そうですね、一昨日はその付近には行ってませんし、楽しめると思います」


 そういう事なら暇を潰せそうだ。早速屋敷を出て、目的の広場の方へと向かう。

 コトネさんが聞いた時間までは余裕が大分あるので、付近の屋台やらを巡る。そこは一応メイン扱いの大広場の近くだ。シャーロットでは無い王族の1人が挨拶をするとかだが……まあ興味無いのでスルー。

 この辺は日が変わったせいか、何故か薬品系が多く、あまり見かけない物が多かった。珍しいので買うには買うのだが……こういうのは使う事は無いんだよな。コトネさんもインスピレーションを刺激されたのか、詳細に見て回っている。

 そうなると時間が経つのは早いもので、あっという間に予定の時間に近くなった。買ったポーションをしげしげと眺めていたコトネさんに声をかけ、大広場の方へと向かう。その場所はメインだけあって中々に大勢が集まっており、プレイヤーもそれなりにいた。もちろん音楽を聴く場なのであまり騒がしくは無い。


「思っていたより本格的だな……」


「予選と言えど、という事でしょうか」


 屋外としても、中々に舞台やらの設備がちゃんとしている。

 席は無いかと辺りを見回すと、演奏者の近くでは無いが、2人は余裕で座れそうな場所があった。


「良かったですね」


「どうせなら座って聴きたいし」


 今演奏しているのはプレイヤーで、経験者なのかクラシック(おそらく)系の曲を結構上手く弾いている。その後はジャズ系、アニソンのアレンジもあったりと中々にジャンルが雑多である。審査員はNPCみたいだが、審査できるのだろうか。


「……中々順番が来ませんね?」


「もう終わったという事も無いだろうし……シャーロットが嘘をついたというのも無いか。飲み物でも買ってくるかな」


「じゃあ私も……」


「あー、コトネさんは出来れば席を。売っている店はすぐそこだし」


「あ、そうですね。分かりました」


 飲み物を売っている屋台はよく見るとミックスジュースしか売っていなかった。まあ人が並んでいるから大丈夫だろうと思い、2人分を買う。コトネさんの所へ帰ろうとすると、空いている席を探しているのかキョロキョロと頭を動かしている女性プレイヤーがいた。プレイヤーには珍しく息を切らしているので、余程急いで来たのだろう。目的はコトネさんが言っていた人だろうか。


「どうしよう、もう時間無いし……」


「あの、空いてる席知ってますけど」


「え?」


 俺とコトネさんが座っていた長椅子はもう1人ぐらい座れそうだった。多少の善意でと声をかけたが、何かナンパっぽくなった様な。大丈夫かな。


「え、あー……本当?」


「そこまで近くないですけど。それでも良いなら……」


「……じゃあお願いしようかな、時間無いし」


 女性は俺が持つ2つの飲み物を見た後そう言った。お節介成功、変な事にならずに良かった。女性を連れてコトネさんの所へと戻る。

 よく見ると、女性は拳に包帯の様な物を巻いている。装備なのは間違いなく、拳士系統なのが分かる。女性で拳士は珍しいな。

 今更だが、表示されているプレイヤーネームはツカサだった。


「あ、コウさんお帰りなさ……その人は?」


「ああ、席を探していたみたいで」


「あ……そうなんですか」


「ごめんね、ちょっと座らせてね」


「はい、良いですよ」


 ツカサさん、コトネさん、俺の順番で座る。買ったジュースをコトネさんに渡し、聴く体勢を戻る。うん、3人座ってもキツくないな。


「はあ、これで間に合うわ……」


「やっぱり、『奏王』の方ですか?」


「うん、そうね」


 その人はやはり有名な様だ。ショウ辺りも知っているのだろうか…….知っていそうだな。

 そして、その噂のプレイヤーの順となった。まるきり漫画で見る様な吟遊詩人の格好だった。ただ持っている楽器はバイオリンに近い物だが。その男性は弦に弓をつがえ、演奏を始めた。


「おお……」


「はあ……」


「うん、調子良いみたい……!」


 これまで演奏した参加者とは大違い、辺りはその人の演奏に飲み込まれた。これが『奏王』のジョブのおかげなのか、その人自身の技量によるものなのかは分からない。しかし、その人の演奏に圧倒されているのは間違いない。

 というか、素人が凄いと分かる時点で色々凄い(語彙力)。

 演奏は3分程。終わると数秒、辺りは静まり返っていたが、すぐに割れんばかりの拍手で騒がしくなった。


「凄いですね……」


「ああ、思っていたより凄かった……」


「良かった良かった……あ、2人とも席ありがとうね。今度何かお礼するよ」


「いやいや、ただ空いていたのを教えただけなんで……」


「私は何もしてませんし……」


「まあまあ、私かしたいだけだから」


 とりあえずフレンドになる事自体は良かったのだが、そのままツカサさんは去ってしまった。お礼と言われても大した事はしていない。あちらがしたいだけというなら、あまり深く考えない様にしておこう。

 その後は少し残って聴いていたのだが、流石に『奏王』の演奏に1歩では済まないレベルで劣っていた。流石に比べるのはアレなのだが……楽しく聴く事が出来なかったので、席を立つ事にした。


「こんな弊害があるとは……」


「予選とはいえ、大トリにするべきでしたね」


 その予選、夜に発表された情報によると『奏王』が無事勝ち残ったらしい。当たり前といえば当たり前か。明日は決勝だけど……チケットがいるみたいだし、観るのは無理そうだ。


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