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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第九章 記念の祭り、各々らしく
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第十一話 嬉しくない贈り物


「お、驚いた……」


「ふふん、大成功じゃの」


「何やってんだ……というかどうやって、多分メイドさんだろ?」


「当たりじゃ、ナタリーの気配遮断に妾を巻き込ませたのじゃ。これだけ騒がしければ何とかなるとは思ったが……大成功の様じゃの」


「王女様がそんなくだらない事をするなよ……」


 いたずらでするレベルの技術じゃ無かろうに。心なしかメイドさんも嫌そうな顔を……いや心なしじゃないわ、普通に嫌そうな顔をしている。絶対いくら何でもこんな事をする為の技術じゃないって思っている感じだ。まあ顔を見れないシャーロットは気づくよしも無い……見たとしてもスルーしそうだが。

 シャーロットはメイドさんに抱えられた状態を止め、何処からか持ってきた椅子を俺とマモンの間に押し込んで座った。寛ぐのはいつもの通りか。


「あー、この度は……」


「ん?ああ、イプシロンか。別に良いぞ、そもそもこの前も大した挨拶しとらんかったし」


「……そういえばそうでしたね」


「それにしても、お主の所は相も変わらず食費が凄そうじゃの」


「あはは、それはもう……ですが、お陰でこうして関われていますから」


 席が近いという事もあって、イプシロンさんがシャーロットに仰々しい挨拶をしようとしたが、その前に止められた。俺は……いつもの如く今更か。


「そういや、今来て大丈夫なのか?マモンの所のお嬢様とかが来てるって聞いたけど」


「ああ、そういうのは明日からじゃの。億劫じゃが……必要な事じゃからな。今は貴族同士で色々しておるんじゃろ。妾はそれさえこなせば自由になるから、祭りを楽しめる!」


 縁が無くて実感が無いが、ちゃんと貴族というのは存在するらしい。いやまあ、領主だって貴族だし、王族なんてその最たるものだろうから、縁が無いというのは違うけど。貴族のアレコレも普通にあるみたいだし、そういうクエストもあるのかな……ありそうだな、イプシロンさんが微妙な顔をしている。

 まあ基本は関わらないものだし、覚えておくのは話の種レベルで良いな。とりあえずシャーロットは合法的にここにいるというのは分かった。メイドさんいるし。


「そうだそうだ。今日のアレ、流石に分かりづらいんじゃなかったか?」


「うん?最初の事かの。あれはお主らのせいじゃぞ、妾はちゃんと聞けと言ったからの」


「え、あー……確かに言ってたは言ってたと思うけどな……」


 うん、言っていたが、それで聞くかどうかは……阿漕な契約みたいな話になってるな。契約書にサインしたから守ってねみたいな……自己責任扱いになるのは微妙な所だが。


「それならホマスの件は?」


「もちろん聞いておるぞ。お主ら3人に対して見事に掻っ攫っていったそうではないか。愉快じゃの」


「こっちは全然愉快じゃ無いんだが……」


「まあルールとしては妨害は禁止では無い。もちろんそう簡単に盗まれないようにそこそこ頑丈にしたが、それでもそこそこじゃ。誰かはともかく、こういう事態は想定内じゃ」


「ええ、マジでか……」


 そもそもカリファは他のプレイヤーを薙ぎ払っていたしなあ。真っ当な不正を対策するなら衛兵の1人や2人見張りにつけるだろうし。正当に行き過ぎたという事なのだろうか。


「まあ怪盗とピーケーが遭遇して結構な戦闘をするのはとんでもない確率じゃったけどな!」


「そりゃそうだ……まあまんまと出し抜かれたのが悪いか」


「そういう事じゃの」


「凄い事態だったんですね……あ」


「こんな時に来客か?珍しい」


「じゃあ出ないとな」


「それでは私が行きましょう」


「え、あ、頼みます」


 メイドさんが素早く応対に向かってくれた。一応メイドさんも客のはずなのだが……まあ出来るメイドはありがたいという事で。ちょくちょくテーブルの上の物を取って食べていたのは客としてはともかく、メイドとしてどうなのかと思ったが。

 戻って来たメイドさんは、人を連れてくる事なく、大きめの箱を2つ抱えていた。


「何じゃそれは?」


「コウ様とカリファ様へのお荷物だそうです。差出人の名前はありません……心当たりはありますか?」


「いや無いけど……というか、カリファまで?」


「ああ?私がどうかしたかい?」


「ちょっと!服が伸びるでしょ!?」


 名前が出たのに反応してカリファがこちらまでやってきた。レヴィアタンの服を掴んで引きずって来たのは……まあ無視しておこう。


「宅配サービスなんて久しぶりに見たよ。使う人殆どいないし」


「そんなのがあったのか……」


「探索者はほぼ使わんからの。そもそも、それぞれの町の中でしか届けられないのじゃから……動き回る探索者向きでは無いものじゃ」


 じゃあほぼNPC用か。他の町まで届けてくれるならともかく、1つの町の中、それに宅配なんだから定住してないプレイヤーには意味無いわ。そもそも届ける物が無い。

 ではこうして届いた荷物は何なのだろうか。ここに住んでいる訳でもないカリファにもあるとは。まあ心当たりが1つ出来たけど……どっちにしろ怪しい事この上ない。


「とりあえず少し触ってみましたが、変な仕掛けは無く、ただの箱自体は普通の物でした。配達中に何かあると困るでしょうし、開ける事、多少の衝撃ぐらいでは問題無いでしょう」


「そうなのか」


「ナタリーがいて良かったの」


「まあ普通にありがたいな」


 屋敷のメンバーでそう言った事が出来るのはモモぐらいで、事前にメイドさんがしてくれたのは助かった。流石にこんな所で何が入っているのか分からない物を開けたり放置したくは無い。開ける事自体に危険が無いと分かれば開けてみるしかない。


「何が入ってあるんでしょうか……?」


「いやあ、面白いサプライズだね」


「他人事だと思って……」


 実際には普通に他人事のイプシロンさんやショウは面白そうにしているので腹が立つ。というかカリファも見てないで一緒に開けるんだよ。死なば諸共だ。

 木箱を開けると、中に入っていたのは1つの布袋だった。草臥れていたりはせず、それに中々良い生地を使っていそうな感じだ。


「何だこれ」


「まあ危険物……では無さそうだね?」


 よく見ると、布袋の口の部分に紙が差し込んである。それを恐る恐る取り出して開くと、文章が書いてあり、下にはホマスという差出人の名前が書いてあった。


「あいつか……!」


「よく見るとこれ、賞品じゃの。大きさからしてコウのは2位、カリファのは4位みたいじゃ」


「まあ1位のはホマスだとして……3位はサツキの方かねぇ」


 中身はまとめて盗まれたはずの賞品。律儀に返してきたようだ。まあ自分がちゃっかり1位の物を貰っているのは……当然の権利と言えるかもしれないが、若干イラっとくる。5位まであるはずだからそれも貰っているんじゃ。

 手紙の内容は要約すると、無事盗めて満足したからみんなの分は送るとの事だそうだ。サツキさんの分も今頃届いているんだろうな。


「譲渡禁止とも言っておらんから、普通に交換権利は使えるの。安心せい」


「うーわ、素直に喜べねぇ……」


「顔面に叩きつけてやりたいんだが……居場所が分からない」


「ぶ、物騒ですよ……」


 結構な物を手に入れたのだが、過程が過程だ。素直に受け取るのは色々複雑だ。

 憐れまれたのか、シャーロットがポンポンと背中を叩いてくる。チョップをかましてやりたくなるのは精神的に余裕が無いからだろう……そも大人気ない。

 賞品については落ち着いてから考えれば良い。交換に期限は無いようだし……金についてはどっかでパーっと使おう。一々思い出すのは面倒臭い。とんだオチがついたもんだ。


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