第十話 帰っても騒がしい
残念な形で終わった訳だが、まあこれ以上拘ったところで仕方ないので、屋敷に帰る事にした。ホマスの行方は探りようが無い。
元より、ホマスのお陰で辿り着けた様なものなので、もしペアになっていなければその他大勢で終わった話だ……取り返す機会があるなら挑戦したいけど。
そして屋敷への帰り道。気になる事が現在進行形で1つ。
「……何でお前がいるんだ?」
「こっちに用があるんだから良いだろう?」
そうカリファが斜め後ろについてきている事である。というか、用があるとかそういう問題では無いと思うのだが。しかも、今いる所はフィールドやただの町の中では無く、屋敷のある地区だ。PKが普通に歩けているのが問題だ。
「PKは町の中に原則入れない……いや今更だけども。流石にここは……」
「前にも入っただろう?」
「あれはイプシロンさんが……」
「アハハ、流石に覚えていたか。まあ真面目に話すと、王女様から通行許可証貰ったんだよ」
「許可っ!?」
続けてカリファが説明するには、レヴィアタンの契約者になった訳だが、普段はフィールドを根城にしているから連絡が取りづらい。もちろんそれはNPC視点の事だが、確実にあるであろう天使との決戦においては確実な連絡手段が欲しい。もちろん国側の人員が犯罪者扱いのPKと会うと面倒なので……ここに来れる様にしたという訳だ。許可と言っても、カリファ(とレヴィアタン)限定で、しかもその許可証はこの地区限定のもので、王都に入る事自体は衛兵と追いかけっこをする事には変わりないらしい。
カリファはNPCは襲った事は無い……らしい。指名手配なのはフィールドを半ば占拠してNPCから見れば少々不思議な生態をしているが同じ人の探索者を襲っているからだ。そして都合の良い事に、そんな事情だからか一般NPCにはカリファの顔はあまり知られていない。それはこの地区に住んでいるNPCも同じ様で、こうして歩けるという訳だ。
「もちろん騒ぎを起こしたら没収だし、イプシロンやらが大勢殲滅しに来るからね。大人しくするしかないさ」
「……それはそれで面白いとか思ってないよな?」
「んー……流石に根絶やしにして来るだろうからねぇ……流石にしないかな」
「それなら良いけど……何でついて来るんだ?」
「だから用があるって言っただろう?レヴィアタンがおたくの屋敷にいるんだよ」
「はあ!?」
2度目の衝撃、知らぬ間に何でいるんだか。全く聞いていない……屋敷に何人かいるはずだし、ショウもそろそろ戻っているはず。特に連絡が来ないという事は客としているはずなのだが……とりあえず向かわねばなるまい。まあ大丈夫なんだろうけど。
屋敷の方へと急いで帰ると、談話室では無く、食堂の方が騒がしかった。そちらへ向かうと、祭りを半ば無視したアポロさん含め屋敷のメンバーと現在判明している悪魔全員、その契約者、後はベルゼバブに料理を配膳している……ミモザさんがいた。
カリファの目的のレヴィアタンはモモに何やら捲し立てているが、当の本人はそれを意にも介さず誰が買ったのか祭りで売っている菓子やら何やらを食べている。前と同じか。
「あっ、お邪魔しています。厨房をお借りしていまして……」
「ああいや、それは別に良いんだけれども……イプシロンさんは何故ここに?」
「僕もさっきの催しに参加したんだけど、遅れをとってね。どうしようかと思っていたら、色々集まっているらしいとショウくんにお呼ばれしたんだよ」
「お前が元凶か」
「やだなあ、折角の祭りなんだからみんなで騒いだ方が良いでしょ?というか、レヴィアタンは勝手に入ってたよ」
「あ、そうなのか……まあ良いや」
屋敷が壊れる様な事にはならないだろうし、ショウの言う通り祭りなのだから大勢で騒ぐのはしょうがない……それはそれとして連絡は欲しかった。流石に悪魔も大集合しているのは驚くわ。
少し敏感になったのも、個人的に苦手なカリファがいたからだろう。PKに道理を求めるのはどうかと思うが、ルールを決めている以上変な事をしないのは分かっている。
というか、1番問題があるのはPKより悪魔連中の方なんだよなあ。満足出来ずに料理が切れたらベルゼバブ、モモに突っかかっているレヴィアタン、うるさくし過ぎるとベルフェゴールだ。マモンも割と未知数なんだよな……あれ、思っていたよりカオスな様な。
まあベルフェゴールは最初から騒がしければそれはそれで寝られる様だし、誰か1人暴れたぐらいなら抑えられるかな。何かあれば請求すれば良いし……まあ想定はこのぐらいで良いかな。集まったメンバーがメンバーだから不安なんだよ。
とりあえず近くの空いている席に座る。そこはコトネさんの隣……いやまあ、そこしか空いてなかったんだけれども。カリファはレヴィアタンの方へと向かって行った。
「あ、お疲れ様でした。良ければこれを……」
「ああ、ありがとう……あ、美味い美味い、前より美味い」
「そうですか、それは良かったです」
「生産職はおまけで作れる物も案外馬鹿に出来ないからね。鍛冶士は調理道具も作れるし」
生産職はまさしく趣味といった感じだな。ジョブの範囲で最大限作れる様になっているのは当たり前と言えば当たり前だが……痒い所に手が届くのとは少し違うかな。戦闘職はやる事が決まっている分自由だ。
「そういえばコトネさんの方はどうだった?」
「私はペアの人が同じ後衛職の人で……お互いに聞き逃してもいたので他の人について行くだけでした……」
「あー、聞き逃したのは俺もだしなあ……あそこまで行けたのはやっぱりあいつのおかげか……癪だけど」
「あ、話は聞いてるよ。2人ともホマスにしてやられたんでしょ?」
「耳が早いっすね……」
「君達に説明されたプレイヤーの中にはポールスターのメンバーもいたからね」
イプシロンさんは笑ってはいるが、目が笑っていない。ホマスに一体何を盗まれたんだか……返却されたそうだけど、盗まれたという事実は変わらないからなあ。
「おう久しぶり。ここ空いているよな?」
「ん、ああ。モモの方は良いのか?」
話していたら、マモンが来た。右隣は空いていて、誰かが座る予定も無いので断る理由も無い。
「いや、姐さんはレヴィアタンの相手に忙しくてな……下手に邪魔して噛みつかれるのは困る」
「そうなのか……お嬢様から離れて大丈夫なのか?」
「お嬢はな……出来れば離れたく無いんだけどな……今王城だから俺は入れねぇんだよ」
「そ、そうなのか」
入れないとは。悪魔だからか、未だに服に着られてる感が凄いのが理由なのか……どっちもどっちだな。
それにしても、あのお嬢様が王城にいるとは何か起こるのかな。いや普通に祭りに来たので挨拶という事もある。マモンが深刻そうじゃないから大丈夫だろう。
「妾じゃ」
「うわあ!?」
「きゃっ!?」
「良し成功じゃ。良くやったナタリー」
「……はい」
いきなり真後ろ、それも至近距離から声をかけられれば驚くというもの。思わず振り返ると、メイドさんに両脇を抱えられたシャーロットがいた。いや能力の無駄遣いよ……心臓飛び出るかと思った。




