第九話 実力は十分……というかこっちのチームワークが
チャナの正体は『盗王』ホマスだった、以上。
もちろん驚いている。ウィンドウ確認したら表記変わっているし、髪や目の色まで変わっている。一体どうやったのやら……まあスキルなのは間違い無いだろうが、それにしたって色々驚愕だ。
「久しぶりだね、カリファ」
「ああ、久しぶりだ。気づかなかったよ……あの時の借りを返そうじゃないか。さっき倒しておけば良かった」
「おお、怖い」
「何やったんだ……」
「多分装備だか何だか盗まれたんじゃない?」
「いつの間に」
サツキさんが横にいた。口ぶりからして常習犯っぽいので、カリファ相手に何かするとすればジョブの通り、何か盗んだのだろう。
「レイヴンさんとかも、盗まれた事あるからね……大体後で返却されるんだけど」
「そりゃ凄い」
「あ、コウもありがとね!無事ここまで辿り着けたよ。まさかカリファが待ち構えてるとは思ってなかったから」
「あー、結果的に手助けした事になるのか……1つ聞きたいんだけど、チャナやら何やらの偽装ってジョブスキルか?」
「そうそう。結構制限はあるから、なったこっちとしては割とシビアだよ」
「そうなのか」
プレイヤーネームの偽装は大分強力なはずだけど、仕様ならアリか。とりあえず疑問は解けた。このまま見過ごすかどうかは別として、プレイスタイルの1つである事は理解できた。
「さあて、遺言はそれで良いかい……!?」
「うはあ、血の気多いなあ……」
「あんたのせいで、しばらくクランの連中からネタにされたんだよ……!」
「あー、それは……ご愁傷様?」
具体的な経緯は知らないが、それ程までにしてやられたのか。カリファは色々蘇ったのか、怒り心頭といった感じで、武器を切り替えていつぞやクワガタを一刀両断した超大型の大剣を取り出した。まさか、それをこの広いとは言えない教会の中で振り回すつもりじゃないだろうな?
「い、いやちょっとそれ……!」
「ひ、避難ー!」
「速っ。本当に生産職……いや俺もやばい!」
「【オーヴァードライブ】!!」
物凄い爆音と共に衝撃が教会の中を満たす。建物自体は7割程が吹き飛び、もちろん俺も、先に行動したサツキさんも煽られて吹き飛んだ。
「チャナ……じゃなかった、ホマスは大丈夫なのか……?」
「個人的には大丈夫じゃない事を祈るけど……まあ生きてるんじゃない?あ、ほら」
サツキさんが目を向けた先には、匍匐前進で瓦礫から這い出すホマスの姿が。その体には傷らしい傷も無く、流石と言えなくもない。まあ装備の白さゆえに埃が目立つのと、避けた後の絵面がアレなので何とも言えないが。
「うーん、マント邪魔だね、しまおうかな」
「それで良いのか……」
「この大きさのマントって結構動きづらいんだよね……まあ目的は達成したし、そろそろお暇しようかな」
「目的……あ、そういや俺の分まで回収したって事だよな?」
「そうだね!到着した順番でロックが解除する仕組みだったんだけど……何とか全部盗み出せたよ!」
「そこはちゃんと怪盗らしいのか……」
何とか自分の分だけでも取り戻したいが、確実に逃げ足は速いだろう。拘束出来れば良いのだが、生憎手段が無い。
「ゲホッ……やっぱり生きてたかい。コウ、そいつはPKじゃ無いけど、倒してもペナルティ無いよ」
「え、マジで?」
「あ、うん本当本当。ホマスは確か何件かNPC相手にもやらかしてるから、そこは同じ扱い……本当だよ、こんな事で嘘つくと、レイヴンさんにクビにされちゃうし」
サツキさんまでいうのなら本当なのだろう。そこについては知らなかったな……後で関係無さそうでも細かい仕様は確認しておこう。
とにかく、合法的に攻撃出来るならありがたい。倒してしまえば、何かしら落ちるはず。
「そらっ!」
「わっ、2対1!?流石に不味いから逃げないと……とうっ!」
おれが投げたナイフを短剣で弾き、ついで迫るカリファの大剣を跳ぶ事で回避した。落ちた時がチャンスだと構えたが、ホマスは空中でもう1度跳び、まだ残っている教会の屋根へと乗った。
まさかホマスも【空走場】みたいなスキルを……と思ったが、一瞬キラッと光ったので恐らくワイヤーか何かだろう。あんな物を仕掛けているとは。
「ハハハ、では皆様さようなら……って、え!?」
「逃すかよ……!」
流石にここで逃げられては堪らない。カリファに見られるのはこの際しょうがないとして【空走場】を発動、俺達から距離をとって調子に乗り始めたホマスへと迫る。設置したワイヤーを利用するならともかく、何も無い所で空中を走って来た俺に対して驚いたのか、ホマスの動きが止まる。その隙をついて、羽交締めにする事に成功した。
「捕まえた……!」
「あ、ちょっ……」
「良くやった!【ディケイブースト】!」
「うわ!?」
瓦礫を足場にしてこちらへと向かって来たカリファが俺諸共ホマスを両断しようと迫る。流石にホマスと心中は嫌なので避けるが……拘束が緩くなってまた逃げられた。
「何で逃げるんだい!?」
「俺諸共攻撃するな!」
「ええ、そこは男気をだね……」
「それ男気関係無い「今の内に!」し……ほら、こうなる!」
俺から逃れたホマスは地面へと飛び降り、またもや逃げようとした。しかし、この場にはもう1人いたのを忘れている。ホマスの動きが急に止まり、何があったのかと思うと、右足に何やら白い物体がくっついて動きを封じていた。
「逃がさないよ……!色々ありすぎて全然割に合わないからね!」
「ちょ、これ全然取れないんだけど!?」
「特別性だからね。そもそもモンスター用だし!1個50万!財布が寒くなる!」
「高いな!?」
「割に合ってないだろ……いやでもナイスだよ、サツキ!」
2人でホマスへと迫る。ホマスは苦心しているが、未だトリモチ的なそれは取れる気配が無い。効果は凄いが、果たして50万の価値はあるのか。とりあえずホマスの動きを制限出来ている事に変わりはない。
「覚悟しな!」
「何かこっちが悪役っぽい……」
「こ、これは……しょうがない。使いたくなかったけど……【万変套】!」
「うおっ!?」
「面倒な!」
ホマスの体が煙に包まれる。そのままカリファの大剣と俺の刀が煙に包まれたホマスへと向かうが、その感触は違和感しかなく、斬った物はホマスではなくマネキン人形だった。
「何だこれ」
「ふう、危なかった……」
声の出所を探ると、10メートルぐらい離れた所に立っていた。くっついていた靴もすっかり人形に置き換わっている……スキルなのは間違い無いだろうが、制限が分からん。そもそも就いているプレイヤーは何人いるんだか。
「次から次へと……手品かい?」
「結構お金かかるから、あんまり使いたくないんだけどね……まあこれで今度こそ逃げられる」
「やあっ!」
「流石に2度目は無いよ」
サツキさんが白い球をホマスに向かって投げる。だが、予測していたのかホマスはナイフを投げてそれを阻止した。白い球は破裂し、地面へと虚しく張り付く。
「じゃあ今度こそさらばだ!とうっ!」
ホマスが地面に何かを叩きつけて、白煙を発生させる。教会で起こしたのと同じ物らしく、視界が完全に白に染まってしまった。
白煙が晴れた頃には、ホマスの影もかたちも見当たらなかった。
「あー、またやられた。いつか、確実に仕留めないと……」
「物騒だな……」
「ああ、そうだ。続きするかい?」
「しない!」
「ねぇ、ホマス本当に全部盗っていたみたいだよ」
「完全に無駄骨になったな……」
祭りに参加しただけなのにこうなるとは。まさかの何の収穫も得られなかった。
その後はまた続々とプレイヤーが来たのだが、半分は事情を説明すると帰っていった。残りの更に半分はカリファを視認した途端、逃げる様に帰っていき、半分は変な文句を言ってきたり、恨みがあったのかカリファへと攻撃し始めたりした。まあその方々はもれなくカリファに倒されたが。
とりあえず、残念な結果で終わった2日目。先行きが不穏だ。




