第七話 待っていたのは
「さてこれは……パッと思いつくものが無いね……」
「どういう事なんだか……」
最後に渡された紙に書いてあったのは「既に示されている」という文言。夏イベと違い、最後まで分かりやすい……という事は無かった。戦闘が無い代わりに一捻りするぐらいはするよな、そりゃ。
示されていると言われても、どの様に示されているのだか分からないので察しようが無い。謎解きは不得手なので、このぐらいのものでもどう解けば良いのやら。今まで調子良く進めて来れたのに、ここでストップだ。
「うーん、示されているという事は、今までの行動や手に入れた物で何とかなるはずなんだけど……まあ色々見ていくしかないか。そっちが持ってる物も出してくれる?」
「ああ、分かった」
この一連で手に入れた物は、9枚のヒントの紙、それを手に入れる為に買った食べ物やら彫刻やらだ。参加するのに必要だった招待状も含めればまあまあ数はある。
改めて見てみても仕掛けがあったのは招待状ぐらいで、ヒントの紙も買った物にも大した仕掛けは無い。強いて言えば、謎の彫刻は赤べこみたいに首らしき部分が動く様になっているぐらい。それを仕掛けと言うのは流石に。並べて見ても、何か関連性があるとは思えない。
「うん?」
「どうした?」
「ああいや、特に何も……さてどうするかな……あ、移動しよう」
「え?ああ……」
表の通りにプレイヤーが増え始めた。ヒントの紙を貰ってすぐに裏路地に入ったので、このままではこっちにプレイヤーが来るのも時間の問題だ。
とりあえずこんな所で謎解きをしている場合では無いので、広げた荷物をしまい、移動する。町の端来れば、プレイヤーどころかNPCもいない。
「……うん、鑑定でも不自然な点は見当たらないね。招待状は……番号を示すだけなのかは分からないけど」
「盗賊系で良かったな……物理的な仕掛けも分かるんだろ?」
「うん、特に何も反応しなかったけど」
「じゃあこの紙はただの紙ってか」
「想像だけど、最後だけあって、場所はフィールドの何処か……村でもないと思う。外の方がプレイヤーも争いやすいしね。それで順番に来たんだから、付近のフィールドのはず。まあこれについては可能性低いんだけど……あー、大した事思いつかない!」
「いやまあ、俺よりは思いついてるし……正攻法で解かないと駄目だよなあ」
イベントの言っても、NPC主催なのは揺るぎない。シャーロットが考えたのかは知らないが、プレイヤーがどうなるかはともかく、NPCが安全に設置出来る所に無いと色々と不味い。
「うん。えっと、地図地図……」
チャナが取り出したのはこの国の物理的な地図だ。ウィンドウにもあるのだが、彼女はそちらの方が分かりやすいと思ったのだろう。ツェーンナット辺りは大分曖昧になっているけど、そこは今は関係無い。
「次がここ……」
「書き込んで大丈夫なのか?」
「まあちょっと値が張るけど……まあ余裕余裕」
「……後で半額払うわ」
「役に立ったらで良いよ。まあそれでもと言うなら役に立たなくても貰うけど!」
「そ、そうか」
若干ふざけながら、チャナは書き込みを続けていく。あー、考えてみると何にもしてない、道中モンスター斬っただけか。
「……さて、これで全てチェックを入れた訳だけど」
「大広場を始めとして……よく屋台の位置関係とか覚えてるな。町の中ぐらいしか覚えてないわ」
「まあこのぐらいはね」
チェックしたと言っても全て町の中なので何か浮かび上がるといった事はない。点と点を結べば……どう結ぶんだろうな。
「巡った順番に結ぶのとかは?」
「ああ、ざっと頭の中でやったけど、よく分からない図形になったよ。せめてそれっぽい感じになってくれれば考えようもあるんだけど」
「マジか……」
「でもヒントの紙や、買った物に何の変哲も無い以上、方向性はこれで合ってる筈なんだよね……さあて、どうするかなあ!?」
ふざけた口調で頭を掻くチャナだが、頭の中はきっとフル回転している事だろう。一応俺も考えてみているが、大したひらめきがやって来ない。
「あいうえお順、アルファベット順……設定的に無いかな。そもそも場所を示す感じにも、形にもならないし」
「しりとり……普通に成り立たないか。終わるやつ2つあるし」
「あとは……うーん……頭文字?」
「順番は無いって……」
「いやそうじゃなくて、関連性的な……ああ、無理だった」
それはそうだ。関連性と言っても字面には無いし、数字を元にしているとしても、それは順番の話だ。こういう事に不向きな頭を絞っていくが、大した考えはいまだに思いつかない。
「……じゃあ、やっぱり買った物になんかあるのかなあ……?」
「チャナが調べたはずだろ……まあ仕掛けじゃないかもしれないしな」
「スキルを使って調べただけだから、細かい所は見てないからね」
再度道中で買った物を取り出し、地面に広げる。やはり特に関連性は無く、何か書いてあるということも無い。ただのお土産品みたいな物だ。
「最後に、最初に買ったアップルパイ……王女様はこの大きさのパイよく6つも食べたよね……」
「……大食漢なんだろ」
まあ家に来てよく食べているのは間違いない。それは言う必要の無い事だが、それにしてもこれ6つとは食い過ぎじゃないだろうか。メイドさんに叱られるのも分かる。
「やっぱり買った品物は関係なかったり……あ、意外といけるかな?」
「どうした?」
「ちょっと待って……」
チャナが何か気づいた様で、そのまま考え込み始めた。こちらとしては察しようが無いので素直に待つ事にした。
数十秒後、謎は解けたと言わんばかりに笑みをこぼし始めた。
「それで?」
「うん、合ってた合ってた。これで違ったら訴訟ものだよ。いや、ちょっと考えれば分かるものだったね」
「そりゃあ良かった」
無事最後のお題は解けた様だ。これならどうにかなるというもので、最後の最後でギブアップという事態にはならなそうだ……俺何もしてないのは今更だ。
「ちなみに内容は?」
「移動しながら話すよ。結構時間経っちゃったからね」
チャナの言う事は最もなので大人しく従い、出した荷物を片付け、走り出したチャナについていく。向かう先は恐らく王都だと窺えるが……?
「灯台下暗しか?」
「いや王都内じゃないよ。その北西にね、廃村があったはずだから……そこ」
「廃村?」
「うん、まずアップルパイを買ったのはズィーベルトン、7番目の町で6つ買った。アップルパイは6文字だから6番目の「イ」を7番目に……って言う具合にね?」
「ああ、なるほど……だからあの変な置物とかも無駄に数買ったのか」
「そうみたいだね、数指定された時点で気づけば良かったよ。まあそうして出た答えが「おうとほくせいだん」。王都の北西、「だん」は……多分壇かな。小さいけど教会あったはずだし」
「一応筋は通ってる訳か、凄いな」
「もっと褒めて良いよ!外れてたら赤面どころじゃ無いけどね!」
「……じゃあさっさと向かうか」
「そうしよう!」
「うーん……」
「どうした?」
「いや、解くのにまあまあ時間が経ってるから、プレイヤーの1人ぐらい見かけてもおかしくないはずなんだけど……」
「1番乗りは考えづらい、まさか……ハズレ?」
「それが1番あるけど……流石にね」
王都から出てしばらく経つが、人っ子1人見かけない。
ハズレだった場合物悲しい感じになるが、それはまあしょうがない。問題なのはプレイヤーを1人も見かけないという点で、まさかお仲間がいないという事も無いだろう。
そして、1番不審な点は、前方に土煙が上がっており、戦闘音が聞こえる事だ。
「嫌な予感がするな」
「しかもあれ、大した集団じゃないよ……」
戦闘にはならないと言っていたはずなのに……まあフラグだったのだろう。それにしても、集団じゃないのはおかしい様な。
とにかく、そこに向かうしか無いので、攻撃が来た場合に対処出来る様に切り替える。
そして戦闘音のあった場所に着き、目に入ったのは……倒れ伏す何人かのプレイヤー、それを見下ろす大剣を持ったカリファ、その後ろの木の影で様子を伺っているサツキさんだった。何だこの状況。




