第二十三話 遭遇、そして邂逅 一
「はあ……はあ……体勢がきつい」
今俺は崖を登っている。あれから数日、新装備のために素材集めで東奔西走しており、今は崖にしか生えないアイテムを集めている。コトネさんはリアルの都合で今日は一緒ではない。ここはドライタルとフィーアルの間にある山で、今述べた通り崖にしか生えないので飛ぶ手段がない俺はこの通り崖を登るしかないのだ。魔術士系統なら風系統の魔法で飛ぶというか、吹っ飛ぶことができるので着地方法があるなら大分楽になるだろう。ボルダリングとかやったことないからめっちゃきつい。ステータスのおかげで足を踏み外したりして落ちたりはしていないがこういったことに慣れていないからいかんせん効率が悪い。
「これで……10本目……!」
更に言えばこのアイテム、群生しないためほとんど1ヶ所に1つしか生えていない、ごくたまに2つ3つ生えているらしいが……ごくたまにである。いやあ、これでやっと半分集まった。さてまた上に……ああもう終わりか、次の崖を探さなくては。
こうして探検してみるとコントローラーで操作するオープンワールドゲームのキャラクターの凄さが分かるな。プレイしている時はスタミナゲージにいらついたりしていたが実際やってみるとよくそんなに登れるなと思わざるを得ない。仕様のおかげでほぼ凹凸がない場所も登れるしね。こっちはリアルさのおかげで、映画のワンシーンみたいな手にかけた部分がボロッと落ちるみたいなこともあるので気が抜けない。崖に吹きつける風もあるので転落死もさぞかしリアルだろうなあ……経験したくねえ。さっき俺と似たような目的だろう、少し離れたところの崖を登っているプレイヤーを見かけたが、滑ったのか、踏み外したのかは分からないが数十メートルを落ちていったのが目に入った。遠目だったので彼か彼女かは知らないが冥福をお祈りしておこう。
いやー、時間がかかった。あと1本というところで崖を登りきり、また次を探さなくてはいけなかった。一度ログアウトし、昼飯を挟み再ログイン。昼飯はレバニラでした。美味しかったけど食感がいまいち苦手なんだよなあ、美味かったけど。
今度はこの山に出現するモンスターの素材集めである。王都手前のフィールドに出てくるモンスターより強いが、俺もまたレベルが上がっているので複数体に囲まれなければ問題は無い。この装備を買った時とは違いちゃんと生産者であるクルトとアゲハと相談して装備を作るのでせっかくだから全く妥協のないものを作ろうとしている。しかし妥協をしないということはそれだけ難易度が上がるということであり、また必要な素材も量も種類も多くなる。よって先程の崖に生えているアイテムや今のようにモンスターを大量に狩る必要があるのだ。え、アポロさんに貰った大量の素材?極一部は使うよ、というか使えるみたいだよ。大部分はクルトによるとレベルが上がった今でも結局使うにはまだレベルが足りないみたいで、しょうがないから屋敷の自分の部屋に置いている……そういえば屋敷の防犯どうしよう。そも必要なのか?NPCとかはそりゃ必要だし、通るときに私兵みたいなのがいる所も見かけていたし。門番って用意できるのかな、雇えば可能だろうがちょうど良くいるのかは分からないし、雇ったからといって安全性がなあ……だったらクルトに防犯装置的なものを……そもそもあるのか?うおっと、今考えることじゃなかったわ、あぶねー。油断してたせいで横からモンスターの攻撃かすったわ。あと一歩前に出てたら頭かち割られてたな。話を戻すと今回の素材集めの量の多さはコトネさんの分も含めているからでもある。量が増えるしジョブが違うため必要な素材の系統も変わってくるため余計に手間だが、結局は必要なことだしそもこういうゲームは時間をかけてこそだ、つまりは疲労はあれど普通に楽しい。
え?所持金は数千万あるんだから市場とかで全部ではないにしても、割と揃うんじゃないかって?……需要があるらしく1つあたりが結構高いんだよ。というか貧乏性なのか貯めたわけじゃないけど所持金が急激に減っていくのに抵抗がある。金は使うことしか使い道がないのでしょうがないのだが、そのまま貯めたくなるんだよなあ。さて、素材集め素材集め……よし、ドロップした。確率微妙に低いから数倒さないといけないんだよなあ。いやあ、これで今集められるものは集められた。ここからもう1段階加工したりと工程は残っているがスキルに頼らない工程は手伝えるのでやることはあるが、1段落といった所だろう。
大分山の奥側に進んできたが、この辺やけにモンスターが少なかったんだよな。山の主的なモンスターでもいるのか。まあ、近くで戦闘音とか聞こえたりしているからなんかのパーティとかと被ったのだろう。こっちに来ないと良いなと思いつつドロップした素材を拾うため近づこうとするともの凄い勢いの雨が降り始めた、ただし弾丸のような、というかほぼ弾丸レベルだった。
「あ"ーー!!!」
レアドロが粉微塵に!なんとか気づいて後ろに下がれたからダメージは無かったものの動くことができない素材君(?)は見事に粉微塵となってしまった。誰だ周りを確認せずに広範囲攻撃した奴はぁ!?せっかく数揃ったのにまた倒さなくちゃいけないだろうが!レアドロだから1体じゃ済まないんだよなあ……よく考えてみると俺を標的にしたっていうよりかは、射線上に俺と素材があったっていう感じだったな。何かがこっちに近づいてくる音がするので身構えていると、逃げるのように出てきたのは1人の女性だった……ただし山羊のような角の生えた、だが。あと右目黒白眼。ミリタリー感のある丈の短めなジャケットにシンプルなズボン、色は全体的に黒、というかほぼ黒だ。確かこの大陸純粋な人間しかいないはず?……プレイヤー?いや、それにしては何か違う気がする。
「ああ?なんでこんな所に人間が……ちっ」
「死ね、『ボルテックスラテラル』」
うお、凶悪そうな渦潮横向きバージョンみたいなのが木を薙ぎ倒してこっちに。回避、回避。女性も俺とは反対側に避けている。もう色々起こりすぎて素材の恨みがどっか行きそうだ、どういう状況?
「これで死なんか、面倒な奴め」
さっきの攻撃を放った張本人であろう、声的に多分男がこちらに歩いてくる。少し癖のついた金の長髪に金のラインが入った真っ白な神父服の様なものを着ている。背中には等間隔に並んだ4対8枚の細長い光のエフェクトがある。なんだあれ……羽?あ、天使か?つまり女性の方は暫定悪魔になるのか。これどっちが正義でどっちが悪……違うわ、どっちがプレイヤー側になるのか判別する方法ないかな。ゲームを問わず色々な創作物では天使が敵側で描かれるものも普通にある……というか敵側が多かったりするからな。逆に悪魔は味方ではない事も多いし、加勢できるのかも不安な所だ。このゲームの場合は天使と悪魔はどういう立ち位置なのか……あれ、天使と悪魔で合ってるよね?
「しぶといな、大人しく死ねば良いものを。おかげで余計な目撃者まで……しかも外来種ではないか面倒な」
おっと羽虫を見るような目でこちらを見てくるよあの天使。さっきから思ってたがイケメンなのに性格の悪そうだな、イケメンなんてそんなもんか(偏見)、まあ多分悪いんだろうけど。目撃者を無くしたいならお前が消えればいいんじゃねえか?あれ、そういえばプレイヤーって設定的には神がうんたらかんたらで遣わしたとかじゃなかったけ?こうなると思ってなかったから大して覚えてないわ。あー、考えることが多すぎる。もういいや素材恨みやら第一印象の悪さやらがあるから天使死ね。といってもどうしたものか、一応警戒されてるから隙がない?