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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第九章 記念の祭り、各々らしく
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第六話 雑に雑に


 王都祭2日目、国主催の『セフィロシアス・レース』がスタートした。スタートしたと言っても、何か大掛かりなものがあった訳では無く、シャーロットによるさらっとした宣言によるものだった。規模の割に雑としか言い様が無いが……始まった以上ツッコむ訳にもいかない。

 そして次の目的地に行く為のヒントなのだが、既に言ったと言うのに全く心当たりがない。このレースでペアになったチャナは分かっているそうで、とりあえず大広場から移動している。移動しているのは他のプレイヤーに聞かれたくないという理由で納得出来る。しかし、このチャナのプレイヤーは初対面の時の印象のせいか、胡散臭く感じるので、本当に合っているのか不安な所だ。まあ分かっていない俺が言える事では無いのだが。


「それで、どういう事なんだ?」


「んー?いや……もう少し離れてからにしようか。まだ参加者っぽいプレイヤーも多そうだし」


「そうか……?」


 離れるだけというのに、随分と堂々した歩きだ。何か確信している様な……まあ素直についていくしかない。よくよく考えれば、賞品は欲しいが、この場合楽しめればそれで良いんだし。

 チャナは会って1時間も経っていないのにこんなにフレンドリー……性質なのかロールプレイなのか。

 更に進み、祭りの中でも殆ど人のいない裏路地へと着いた。


「ここなら良いかな〜」


「そろそろ教えて欲しいんだが……」


「うん、そうだね……じゃあここでクエスチョン!何でボクはここまでコウを連れてきたんでしょうか!?」


「……さ、さっきまで初対面だったよな?殆ど話してないのによくはっちゃけられるな……肝太すぎない?」


「よく言われるね!まあでも、顔出してるのに個人情報バラさずにふざけられるからしょうがないよね!」


「それ、一歩間違うと迷惑プレイヤーまっしぐらじゃん……」


「アハハ、まあロールプレイだよ。楽しくやらないとね……これに時間かけるのもアレだから言っちゃうけど、他のプレイヤーに聞かれないようにというのもあるけど、こっちの方が近いからってのもあるんだよね。まあ誤差と言えなくもないけど」


「近い……次の町か」


「そうそう」


 割とちゃんとした理由だった。そりゃ目的地が分かっているなら離れるにしてもそっち側に行った方が無駄な時間が少なくて済む。

 チャナに関しては、ロールプレイ相手なら慣れればどうという事は無くなる。余程ウザくならなければ、大丈夫だろう。基本これっきりの関係なんだし、そうそう問題が起こる事も無い。


「じゃあ次の場所は?」


「それだけど、王女様が最初に話してた雑談の内容覚えてる?」


「え、パイがどうとかって……え、マジで?」


 まだ午前中だと言うのに、離れた町にどう言ってどう食ったんだか、メイドさんがいれば何とかなりそうだな……ぐらいにしか思っていなかった。まさかあの何でもない雑談が関係あるのだろうか。


「王女様は、次の場所へのヒントはもう言ったって言ってたんだよね。それであの時場所に関する事はそのアップルパイの事しか言ってなかったんだよね。しかもやけに具体的に。個数はともかく、街のどの辺りにあるかまで」


「あー……そう言われると言ってたなあ……」


「最初に不自然でない程度にしつこく聞こえるか聞いていたしね」


「確かにそれがヒントっぽく思えてきたな……」


「いやあ、最初から最後までちゃんと聞いてたボク偉い!褒めて!」


「ワー、スゴイ」


「雑……!」


 ほぼ聞き流していた俺が言える事では無いが、若干ウザい。チャナが聞いていなければ行き先は分からなかった訳なのだが、それはそれとしてだ。

 それにしても、あんな雑談がヒントとは……いつもの雑談が仇となったかな?それは無いと信じたいけど。とにかく、チャナのおかげで次に進める訳だ。


「それで具体的な場所だけど、ズィーベルトンのミルト通りにあるアップルパイの屋台だね。6つ食べたって言ってたけど……そこは関係あるか分からないね」


「じゃあそこに行けば良いのか」


「そうじゃない?まあこれで外れてたら爆笑ものだね!ちょっと探偵風に言ってみたけど全然推理になって無いし!アッハッハ!」


「爆笑っていうか、赤面ものじゃ……早速行くか?」


「そうだね、ほら、こっち来といて良かったでしょ?」


「うーん、まあそれは」


 王都の外に出て、ズィーベルトンへと向かう。道中でイベントとは何の関係も無いモンスターと戦闘になった。相手自体は特に普通のモンスターで、挨拶がてらチャナが相手になった。リアルで体操でもしていたのか、機敏かつ柔軟な動きでモンスターの攻撃を避け、状態異常付与の武器などで被ダメゼロで戦い終えた。戦う様は中々映えたもので、ペアとしてはとても良いと再認識した。

 ズィーベルトンに着くと、目的の屋台はすぐに見つかった。付近でアップルパイを扱うのはそこだけなので、周りの人に聞けば1発だった。そこは特に変哲の無い屋台……あったら困るか。


「じゃあ早速」


「え、いきなり?」


「行かないとどうにもならないからね、運が良いのか丁度プレイヤーは並んで無いし。すみませーん」


「ああ、いらっしゃい。何個にする?」


「……じゃあ、6つで」


「ふむ……」


「?あっ、どうすれば良いかな……これで良い?」


「ああ良いよ。6つね、おまけも付けとくよ」


「ありがとう」


「毎度ありー」


 注文に考え込んだ店主に対し、チャナが招待状を提示した事で無事恐らく次のヒントを獲得する事が出来た……見た目パイだったけど。というか、俺何にもして無いな……雑魚モンスター倒しただけだ。


「そりゃ、判別するのに招待状必要だよね、偶然同じ注文するかもしれないんだし」


「あ、これ代金の半分」


「どうもどうも。さて……離れてからにしようか、プレイヤーいっぱい来た」


「了解」


 とりあえず人のいない場所へとさっさと移動する。


「1番のり……って事は考えづらいから、丁度隙間だったのかな?とりあえずヒントを……パイだね」


「パイだな……どうするんだ、これ」


「んー……あむっ」


「オイ!?」


 オマケとしてもらった8分の1パイをチャナは頬張った。いきなり何をと思ったが……チャナはすぐに口から紙を取り出した。


「やっぱりね。フォーチュンクッキー的な感じだ……パイだけど」


「びっくりした……説明してからやってくれないか?」


「ごめんごめん。基本ソロだから、思いついたら即行動なんだ」


「まあ当たっていたから良いけど……中身は?」


「えーっと……町の名前と物しか書いてないみたい。まあまたNPCに聞けば良いかな」


「詳しい場所は書いてないからなあ……というか、完全に戦闘の無い夏イベだ」


「それはまあ、良いでしょ」


 次の町へ向かい、目的の物の場所を聞く。基本は同じなので、繰り返していくうちにその作業もスピーディになった。戦闘は起きないにしろ、同じ目的の2人組と鉢合わせしたりとまあまあ面倒な事にはなったが……3時間もすればツェーンナット以外の全ての町を回る事が出来た。


「ふう、ここまでくると流石に疲れるね……」


「まあ急がないとな……俺達がどのぐらいの位置にいるか分からんけど」


「問題の最後だけど……」


 ヒントは貰った。しかし、場所を示す様な事は全く書いていない。まあそう簡単に済むはずもないか。


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