第五話 キャラ濃いめ
王都祭2日目。昨日あの後クルト達の屋台へと向かったのだが、思っていたより繁盛していた。その為話しかける余裕が無さそうなので諦めた。話ならこのイベントが終わった後にでも聞けるし、繁盛するのは喜ばしい事だ。
今日はシャーロットが若干洩らしていた催しが行われる様で、昨日の夕方に参加を希望するプレイヤーは大広場に集まる様にと通達があった。なので俺とコトネさんは大広場に向かっている。何故2人なのかというと、この催しは結構な規模を動き回るという事で、生産職のクルトとアゲハ、AGIの低いショウは不参加。そこまで戦闘が起きる事は無いともあり、アポロさんも参加しないからである。
ついた大広場は、他のみんなの様な事情に加え、プレイヤーのみという事もあり昨日よりは人が少なかった。
「詳細はまだ分かっていませんけど、どういう感じになるんですかね?」
「まあ動き回る……各町のとか洩らしていたし、夏イベと似た様な感じかな?」
「それ程過酷じゃないと嬉しいですね……」
「まあプレイヤー向けとはいえ、祭りの一環だから大丈夫だろうけど……」
そこまでややこしい事は考えないと思うけどな。そうして数分待つと、告知されていた時間になった。誰が説明するのやらと考えていると、壇上に立ったのはシャーロットだった。
『あーあー、うん、聞こえておるな?良し良し。よく聞こえないと不味いからのー』
昨日王子も持っていたアイテムで声の調子を確かめている。説明を聞くた為に周りのプレイヤーも静かにしているので、声がよく聞こえる。昨日聞き逃しても別に支障は無いが、今回はよく聞かないと不味いしな、良かった。
『さて、改めて第2王女のシャーロットじゃ。今回は探索者が来た事で更に賑わっているから良い限りじゃ。ズィーベルトンにあったアップルパイも絶品での。思わず6つも平らげてしまった……後で従者に叱られたがの』
とりあえず祭りに関しての世間話が始まった。まあこういう場はそんなもんだろうと、本題に入るのを待つ。
シャーロットは割とプレイヤーに人気な様で、話のウケが良い。スクショを撮っているプレイヤーもちらほら見かけ、そういえば重要NPCだったと思い出した。中々会える人物じゃないよなそりゃ。脱走の避難場になってるのがおかしいんだ。
シャーロットの方はそこまで話を長くする事も無く、そこから二言三言付け加えて本題に入った。
『さて、それでは説明に入ろうかの。まずは気になる報酬じゃが、1番に辿り着いた者達には賞金として1000万G、更に秘蔵の武具を3つ与える。2番手には……』
思っていたより大判振る舞いだ。金はいくらあっても損は無いけど、今は十分に足りている。だが武具はとても気になるので、モチベーションは十分だ。
賞品は3番手まであり、当然というか、賞金は1番手がダントツだった。武具は2つ、1つと減っていった。イベントの中の催しとしては破格じゃないか?
『そして1番大事なルール説明じゃの。まずはここを初めとして、ツェーンナット以外の9箇所の町を巡ってもらう。もちろんここ王都も入っておる。探索者の中にはツェーンナット近くの町には行っておらん者もいるじゃろうが……それは諦めてもらうしかないの。最終目的地については町を巡り終わった後分かるようになっておる。もちろん不正は出来ない様になって……どこまでが不正かは自分達で確かめてほしいのじゃ』
割と情報が少ないな。とりあえずは進めば良いのだろうけど、順番はあるのだろうか。思わず夏イベに似てると言ってしまったが、当たらずも遠からずだ。ナーフ版といった所かな。
『ああ、重要ななのが1つ。招待状を持っておるよな?まさか捨てた者はあるまいな……それを取り出してもらえるかの』
シャーロットがそう言うので、俺とコトネさんも持っていたそれを取り出す。昨日の今日で無くしたり捨てたりする馬鹿はいないだろう。イベントの為にわざわざ送られてきた物なのだから。
『……手元にあるな?では、何処でも良いが、まあ端にでも自分の血を付けてくれるかの』
「血かよ」
「ナイフナイフ……」
よく分からないが、とりあえず適当にナイフを取り出して指を切る。エフェクトなので微妙に分かりづらいが紙の端に擦り付ければ血と思われる赤色がついたので大丈夫だろう。コトネさんも問題無く出来ている様だ。
そしてこれで紙がどうなるのかと思ったら、字の書いていない空いたスペースに何やら文字が浮かび始めた。
「AP-56……?というか夏イベの奴じゃね?」
「少し違いますけどね……私はHB-06でした」
「で、何なんだろうな?」
周りのプレイヤーも同じ様な事になっているらしく、辺りが騒めき始めた。これが最初のヒント的なもなのだろうか。
それにしても、そういえば最近似た様な感触の紙を触った覚えがあると思ったら夏イベだな。同じ要素を流用……したのは多分運営では無く、NPCの方だろう。関わりが出来たのは知っているから、恐らく方法を教えてもらったか、外注的なやつか。このぐらいなら別にワンパターンと言う程でも無い。そもイベントの主題じゃないんだし。
『あー、静粛に。静かにしてもらえるかのー』
シャーロットがそう言うと、数秒後にはまた静かになった。この分からない状態で聞き逃したくはないからな。
『とりあえず文字が浮き出たじゃろ?それは行き先を示すものではなく、ペアを作る為のものじゃ。この中には同じ文字の者が1人いる筈じゃから、その者と進めてもらうぞ。もちろん替えは効かんし、数組で固まるのもアリではあるが……おすすめはせんの。あ、大体のペアが揃ってからスタートじゃぞ』
強制2人1組か……奇数の場合は……まあどうとでもするのだろう。という事は、コトネさんとは別口だな、まさかこうなるとは。シャーロットは組んでも良いとは言っていたが。
「どうします?」
「……それぞれ頑張りましょう。おすすめしないという事ならそうした方が良いでしょうし」
「そうか、じゃあ」
「はい、負けませんよ!」
「そりゃこっちも頑張らないと」
コトネさんと別れ、ペアを探す。シャーロットが説明を言い終わったところで、騎士団員が出てきて、アルファベットが書かれたプラカードで誘導し始めた。すぐさま自分の紙に書いてあるのと同じ所へと向かう。相手は誰だろうか、レベルやジョブはともかく、相性が悪くないと良いのだが。
「56番〜、56番〜」
「あ、俺だ、ほら」
「あ、すぐに見つかった。歌った甲斐はあったかな?」
「歌……?」
歌というよりはアナウンスみたいな……俺とペアになる相手は女性プレイヤーだった。動きやすそうな軽装に小物入れが複数付いている……盗賊系かな。
「見えてるだろうけどボクはチャナ、ジョブは『兇手』、よろしくね〜」
「コウだ、ジョブは『刀王』、あーよろしく……」
「4次職!それは運が良いね、良かった良かった」
「まあ戦闘には基本ならないらしいけどな」
「相手のレベルが高いのは良い事だよ……まあボクが言う事じゃ無いけどねー」
そう言ってパーティの申請を送ってきたので、素直に受ける。レベルは62か。盗賊系ならAGIは高めだろうし、動き回る分には問題無いか。回復はポーションで賄えば良いし、これは中々良いのではないだろうか。口調に特徴はあるけど、ロールプレイだろうが素だろうが、話やすそうで助かる。
10分後、大体のペアが揃ったと判断したのか、シャーロットが話し始めた。
『……まあ大体良いかの?それではそのペアで進めてもらうぞ。それで最初のヒントじゃが……もう言っておる。場所じゃからな、分かりやすい様にしたはずじゃ』
ここで1番大きく周りが騒めき始めた。そりゃそうだ、何処でそんな事を言っていたんだか。
『それでは『セフィロシアス・レース』、スタートじゃ。健闘を祈っておるぞ!じゃあのー!』
詰め寄られるのを危惧したのか、シャーロットは脱兎の如く去っていった。逃げるのはあんなに速いのか……そりゃ脱走も が上手いはずだわ。それにしても『セフィロシアス・レース』ね……国の名前そのまんまか。いや国を回るならそれっぽいか。というかどうするんだこれ。
「うん、じゃあ行こうか」
「え?いやヒント……」
「ああ、分かってる分かってる。少し移動してから説明しよう……説明という程でも無いけどね」
分かってるんかい。




