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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第九章 記念の祭り、各々らしく
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第四話 特に大した事も無く


 そしてイベント開始日。祝日なので、十分に楽しむ事が出来る。

 イベントが始まる訳だが、今までとは違い最初からこうでした、みたいな事にはなっておらず少しずつ町の様相が変わっていった。NPCは前々から準備していたはずだが、設置が始まったのは1週間前から。まあファンタジー世界設定なのだから瞬く間に専用の建造物が建っていった。高レベルの生産職は突貫工事みたいな作業できちんとした建物を作るから驚いた。

 まあそれはそれとして、今日の王都は祭り一色といった雰囲気になっている。流石に屋敷がある地区は変化があったりはしない。何故か城の一部は飾り付けられているが……どれだけ金をかけているのやら。城の規模で目に見える程の装飾は大分凄い。

 一般区画は屋台やら何やらが設置され、大賑わいである。プレイヤーが開いているものの中にはリアルのお祭りで見る様なものがちらほらと見かけられる。射的もあるが……今のステータスがあればこの程度なら当てられる気がする。まあ『銃士』の本領だから何かしらの対策はあるんだろうな。

 飲食関係の屋台はもう営業しているが、他のものは祭りの開催が宣言されていないのでまだだ。大広場で行われるそれはもうすぐ始まるが……暗殺とかの展開を想像してしまうのは悪い性かな。流石にそんな碌でも無い事を運営も考えないはず。このぐらいのイベントなら真っ当にやってくれるはずだ。


「それで、モモ達は本当に良いのか?」


「ああ、特に用事も無いしねぇ」


「私とウリエルは後で見に行きます……まあ物見遊山程度ですが」


「そうか……まあ行くのは自由だしな」


「マスターはしっかりコトネをエスコートしていくんだよ?」


「あ?ああ、そりゃあまあ……」


 プレイヤーやら王都外から来たNPCやらでごった返すんだろうし、それぐらいの事はするつもりだ。連絡すれば何処にいるかは分かるから程々に気をつければ大丈夫だろう。目的地が分からず彷徨うならまだしも、プレイヤーが迷子という事は基本的にあり得ない。その辺はNPCに言える事じゃないし、普通に返事しておく。


「じゃあ行こうか、コトネさん」


「はい、よろしくお願いします!」


「いや、そんな丁寧にならなくても……」


 このイベントは各自自由行動となっている。アポロさんは多少見て回るらしいが、とりあえずはといつも通り狩りに行った。ショウはショウで何やらやる事があるとかでベルフェゴールを連れて行った。クルトとアゲハは都合がついたとかで出店を開くらしい。後で見に行ってみようということになっている。初めて会った時の様になっていなければ良いのだが。

 祭りの開始が宣言される大広場へと2人へ向かう。


「凄い人ですね……」


「満員電車の中みたいだな……」


 プレイヤーNPC問わず大広場には大勢の人が詰めかけており、熱気が凄い。騎士団と思われるNPCが混沌とならない様に人を誘導しているが果たして効果があるのか。そんな中でまともに動けるはずもなく、コトネさんとはぐれない様にするのが精一杯だった。

 大広場の一画には一段高くなっている場所があり、恐らくあそこで色々とやるのだろう。人の波に流されながら数分すると、そこに何人かの着飾った人物達が上がり始めた。

 好青年に見知った感じの男……王様だな、あれ。あ、シャーロットも来た……騎士団長は後ろに控えるのか。随分と真面目な雰囲気……そりゃそうか。こうしてみると王族だなって実感する。

 好青年は1人いると聞いた王子だな……う、イケメン。性格も良さそうだ。確か王女は3人いるはずなんだが、1人足りない……そこまで気にする事は無いのか?後は王妃だけど……全員勢揃いするのはあんまり無いよな。そもそもこんなはっきり近くに登場するのもフランクというか。

 王子が一歩前に出て、手に持った何かに向けて話し始めた。恐らく拡声器的な何かだと思われるのだが……何も聞こえない。周りの人の声、特にNPCの声がうるさすぎて何も聞こえないという状態だ。こういうリアルさはいかがなものか。いや王子の拡声器の問題か?運営さーん。流石に壇上の周りの人は聞こえている様で、声を出す様な事は無い。まあこちらには何の関係も無いけど。

 そして王子が話し始めて数分、姿は見えるので見ていると何やら声を張り上げたと思しき仕草を見せた後、そこを中心として歓声が上がり始めた。多分開催を宣言したとかそんな感じだろうが……俺の周りの人だって聞こえてないはずなのに何故か歓声を上げている。絶対ノリだろ。

 王族の皆様は壇上を降りて去っていく。それと同時に人も瞬く間に大広場からはけていき、息つく余裕が出来た。


「はあ、やっとマシになった」


「結局何を言ったのか分かりませんでしたね……」


「それはまあしょうがない……とりあえず予定通り回ります?」


「そうしましょう!」


 通りにいる人の数は多いが、祭りなら納得できる程度だ。1回モモに付き合って行った朝の市場ぐらい。何よりさっきと違って多少自由に動く余裕がありそうだ。

 まあこれだけ人がいると騒ぎは起きるというもので、祭りが始まってから1時間も経たずに衛兵や騎士団員に連行されていくNPCやプレイヤーわちらほら見かけた。NPCはともかく、プレイヤーは何をやらかしたのやら……騎士団も大変だな。騎士団長も過労で倒れたりしなければ良いのだが。

 2人で屋台を見ながら歩いていく。大体は飲食関係だから特による事も無い。そうして行くと、顔見知りを見かけた。丁度客もいないみたいなので話しかけてみる事に。


「サツキさーん」


「んー……?ああ、クルトくんとこの。久しぶりだね〜」


「屋台出してたんですね」


「そうそう、暇潰しにね。まあ並べているのは性能が微妙な奴だから、初心者もしくはNPC用だけど」


 確かに鑑定してみると、並べてあるアクセサリー類はどれも微妙だ。王都に来たばかりの頃なら役に立ちそうだが……今はなあ。それにしても『鍛治士』はこういうのもいけるのか、幅が広いな。


「もう1人はもしかして彼女さん?お1つどう?」


「えっ!?」


「いやリアフレ……そういうの不味いですよ?」


「んーでも……まあ良いか。じゃあ祭りなんだから1つ買ってかない?」


「ええ……まあ良いか」


「良いんだ、よっしゃ」


 急に対応が雑になったな。どうしたらカップルに間違われるのだか……2人でいるのがいけないのか?それぐらいならいくらでもいそうなものだが。

 とりあえず金ならある……言い方がアレだが、実際そうなので1つ2つ買っても何の支障も無い。箪笥の肥やしになるだろうけど……あ、そうだ。


「コトネさん好きな物選んで良いよ」


「え、でも……悪いんじゃ?」


「いや、1つ2つぐらいなら特に。この中でまだ良さそうな物はコトネさん向きっぽいし」


「そうですかそれなら……良ければコウさんの選んだ物を……」


「ええ……」


 選ぶのは良いのだが、どうしてこうみんな名付けやら品選びやらを俺に任せるんだ。センスが無いってのに……とりあえず無難無難……それっぽい……これだ!


「じゃあ、これで?」


「ん?このブローチ?へぇ」


「え、何?」


「いや別に……良かったね」


「はい!」


「……?」


 俺から代金を受け取ったサツキさんは、俺が選んだ品をコトネさんに渡す。


「それで良かった?」


「はい、ありがとうございます」


「じゃあね〜」


 良いなら良いのだが。サツキさんの屋台から離れ、先へ進む。確か少し行ったらクルト達の屋台があるはず……そこでも何か買わされそうだな。


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