第二話 嵐の如く
「ただいま留守にしております!」
「いるじゃないか!閉めさせないよ!」
「ああほら、ドアが壊れるよ……!」
つい反射的にドアを閉めようとしてしまったが、それは予測していたのか即座に反応したカリファによって阻まれてしまった。
カリファはもちろん、俺も今はSTRがそれなりにあるのでドアがミシミシと音を立てたところでイプシロンさんに止められた。確かにこうなっている時点で抵抗が無駄なのは分かっているんだが……厄介な事になってきたなあ。
「とりあえず……入っても良いかな?」
「ああはい、どうぞ……」
「へえ、噂通り良い所に住んでるじゃないか」
「それはどうも……というか、よくここまで来れたな……大丈夫なんです?」
「まあ偽装させてたし、身分は僕が保証したから……何かあると僕の責任になるけど」
「思ったよりザル警備ィ……あ、レヴィアタンの契約者って」
「もちろんアタシさ」
「そうですよねー……」
まあ分かってたけどね。イプシロンさんがPKを王都の中、しかもこの地区に連れてくる危険を犯す程だ。厄介な事になってきたなあ(2回目)。
とりあえず、どうしようもないので2人を中へと入れ、談話室へと案内する。
「あ、やっとコウ戻ってき……わあ」
「え、えっと……カリファさんでしたっけ?」
「ショウに、確かヒーラーの……それにしてもレヴィはどうなっているんだい?」
「うう、助けてマスター……」
レヴィアタンはこの短い間に十字架に磔になるというよく分からない事になっていた。ベルフェゴールのデバフが続いて動けなかったのだろうが、何故十字架……と思ったら、モモの魔法によるものらしい。どうやったのか細かい装飾もされており、随分と手のかかった悪戯だな。頑丈そうになっているのもあって、下手に抜け出そうとすると周りの物が壊れそうだ。レヴィアタンの配慮に遠慮無く漬け込んでいる。クローナもウリエルも特に何かをする訳では無く……うーん、末っ子。
「あれらが、天使ねぇ」
「あっ、そうだった」
そういえば秘密にしていた事だったっけ。カリファも契約者になったのだから、知られても問題は無いはずなのだが……何処となく不安になるのは何故だろうか。
「とりあえず座っても?あとこの惨状をどうにかしてくれるとありがたいんだけど」
「……まあ一通り遊んだから良いか」
「ほら、ベルフェゴールも」
「……はあい。今度は静かにしてよね」
「わ、分かったわよ……」
「今度は突っ走るんじゃないよ」
「もうアスモデウスに言いたい事は言えたから良いわよ」
先に来たのはやっぱりそんな理由だったのか、面倒な。
とりあえず荒れた部屋を直して途中まで口を付けたお茶を飲む……うん、冷めてる。
「まあ、これで5人目が見つかった訳だけど」
「後は憤怒と傲慢か」
「そういえばカリファはどういう経緯だったんだ?秘匿してた訳じゃないだろうし」
「ああ、契約は1週間前だねぇ。王都じゃないけど、こっそり町に入った時に見つけてね」
裏通りでコソコソやっていたら、目立つ風貌なので接触したらしい。ただレヴィアタンの方はPKというか、指名手配されているカリファの評判を知っていたらしく、逃げ出した様だ。それはそれで面白いと鬼ごっこが始まり、途中で衛兵に見つかって騒動になったらしいが何とか撒き、レヴィアタンを捕まえ白状させたらしい。
「それで悪魔とかの情報を知ったのか……」
「そうだね、中々に愉快だった」
「逃げても逃げても追いかけてくるんだもの……恐怖だったわ」
「あはは、面白い事になってたんだねぇ」
「笑い事じゃ無いわよ。本当に怖かったんだから……」
随分とまあ、大変な目に遭っていた様だ。レヴィアタンは観念したという感じの表情なので、怖かったのは本当だろう。悪魔を恐れさせるPK……本人が本人だからなあ。
「盗賊集団の頭目に狙われるなんて運の尽きだわ」
「一応プレイヤー……探索者しか相手にしないんだけどね?」
「そも人の物を奪うのはどうかと思うけど?」
「ごもっともだけど……悪魔が言う事かい?」
「そんな事言われても……」
最初の印象はアレだったけど、大分常識的な感じだな。
そういえば対応する大罪に相応しい行動をする悪魔は割といない。それっぽいのはベルフェゴールとベルゼバブぐらいだし、他3人は……片鱗があるかなというぐらいだ。悪魔らしい悪魔ってなんだろうな。
「とりあえずはあんまり言いふらさないと助かるけど?」
「そのぐらいは分かってるさ。そういう面倒事はごめんだし、流石に大手クランを1つならともかく、複数は流石に……いやそれもスリリングで良いかもしれないね?」
「嫌よ!?ただでさえ追われる身なのに、昼夜問わず命を狙われるなんて!」
「流石にしないさ……多分」
「本当に嫌よ!?」
確かにスリリングだし、カリファなら選びそうな感じがする。俺は絶対にそんなスリルは味わいたくないけど。
まあ、レヴィアタンの状況はともかく俺達のプレイ環境が面倒な事にならなければ好きにしてもらって構わないけどな。レヴィアタンのご冥福をお祈りしよう。
「それじゃあ面通しも済んだし、お暇しようか」
「もうかい?」
「いやいや、ここまで連れてくるのも大変なんだよ?この後はワテル達にも会ってもらうんだから、あんまり時間はかけられないし」
「そういえばそうか……なら連絡してもらってまとめて会えば良かったんじゃ?」
「それも考えたけど、やっぱり関係者を全員集めると目立つから……それぞれ別の用事っぽく見せたいんだよね」
「なるほど」
確かに不特定多数に目立ってバレる可能性はあるか。それ対策なら別の方法がある気がしないでも無いが、イプシロンさんはこうしてカリファを紛れ込ませるのを楽しんでいる節もある。難易度も見つかった時の責任も大きいのは本当だろうけど、それはそれとしてゲームか。
「はあ、環境だけでも何とかしないと……あ、アスモデウス!今度会ったら、痛いっ!」
「あー、はいはい、勝負ね勝負」
「くぅ〜……覚えてなさいよ……!」
モモに指をさし、喧嘩を売ったレヴィアタンだが、移動しながらのせいなのかテーブルに脛をぶつけ、悶絶しながら去っていった。最後まで残念な……実力はあるだろうからまあ、あるよな?
「台風一過だったね……」
「そうだな……まあ重要事だし、事件にはならなかったから良いけど」
「ああ、マスターちょっと良いかい?」
息を吐くと、今度はモモから話があるようだった。このタイミングなら世界観関連か?だけどまだ5体目、若干特殊らしいルシファーを除いても6体揃ってはいない。とりあえず聞くか。
「レヴィアタンの事だけどね、普段は気が抜けるけど色々な意味で手をつけられなくなるから気をつけな」
「あーそういう……そんなにか?」
「イメージ出来ないだろうけどね」
クローナとウリエルも心当たりがあるのか頷いている。まともそうに見えて実は……という感じか。まあキレたらやばそうな奴はショウの膝で眠っているベルフェゴール然り、いるけど……覚えておこう。知ってるのと知らないのとでは扱い方が変わってくる。




