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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第八章 天は高く、奔走せよ
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第二十七話 簒奪者に応報を 七


 周りから吹き出した黒い水はカシエルを包み、どんどん膨らんでいく。見覚えがありすぎる黒い水……ここでそうなるか。


「これは……早く話なんかせずに止めを刺しておくべきだったねぇ……」


「後悔先に立たずだけどな……クローナの時よりやばくないか?」


「お姉様はああなっていたのですか……?」


「自覚は無いのですが……中々に嫌な雰囲気ですね」


 止めに関しては今更考えても仕方ないので、思考を切り替える。今はどうせ変身シーンだろうから攻撃してもダメージは与えられないだろう。そもそも届かないし。リアルさが売りのこのゲームでも、それは普通にあるからな。


「今の内に残りの回復を……」


「ああ、ありがとう」


 MPポーションも飲んで、回復に努める。戦闘時間はそこまででも無かった上、終わった時に『反剋』は切っておいた。そのおかげでMPもSPも余裕がある。

 【空走場(アハルテケ)】はクールタイムだが、数分耐えるしかない。【貫牙剣(アウラ)】使わないでおいて良かった。『反剋』も判定があるのは続いているから、火力の心配もいらない。連戦にしてはまあまあ良い状態では無かろうか。


「おーい!」


「皆さん……!」


 微妙に長いカシエルの変身シーンを待っていると、こちらに駆けつける2人が。丁度良いというか、タイミングが良すぎて見計らっていたんじゃないかと思いたくなる……邪推はよしておこう。


「急いで来たけど……どういう状況?」


「カシ……ガブリエルは倒したけど、クローナの時と同じ様な感じに……まあ強化されちゃった」


「まあ大体分かるけど……倒して良いやつ?」


「良いやつ良いやつ」


 ショウ達の話も聞くと、途中でシャーロットとメイドさんの2人に会ったらしい。

 コトネさんから大怪我したと聞いていたからショウだけでも護衛した方が良いと最初は思ったらしいが、それはメイドさんが固辞し、こちらへ向かってくれと言ったとか。

 フィールドに留まっているから2人の安否はまあまあ心配だが、メイドさんは何故かピンピンしているし大丈夫だろう。

 何より、アポロさんが来てくれたのが心強い。ベルフェゴールもいるなら消耗した以上の戦力増加だ。


「ほら起きて、ベル」


「はーい……何あれ?」


「ガブリエルだってさ」


「ええ……?」


 ベルフェゴールも戸惑っている……そりゃそうか。ショウの言う事は素直に聞くだろうから、扱いは一任しておけば余計な問題は起きないはず。


「そういや、僕どうする?」


「……コトネさん守ってれば良いんじゃない?」


「まあそうだよね……」


 ヘイトを稼いだ所で、どうにかなるものだろうか。大量の水を使った大規模攻撃が多かったのだから、強化されるだろうこの後は更に規模が増すに違いない。そうなるとショウに標的が向いたところで巻き込まそうだ。ショウ自体の機動力も高くないし。

 黒い水の塊は、今はグニグニと動いていてスライムの様だ。ただ大きさが数メートルと、スライムにしては巨大だが。


「いつになったら動くんだ……?」


「結構時間が……あ」


 思ったより時間がかかるなとやきもきし始めると、黒い水の塊は破裂した。思わず身構えたが、攻撃がすぐに来る事は無かった。

 塊があった中心部には人型の何かがいた。それの服はカシエルが着ていた、血塗れのままだった。しかし異様なのは肌はもちろん、髪や顔全体に至るまで真っ黒だという事だ。陽の光が当たっても凹凸が分からないほどだ。グラフィック設定間違ってるんじゃと思ったのは自然な事だと思う。探偵物の犯人……いやあれは目があるしな。こっちは髪も翼もあるし。斬った片翼があるのは……そこまで不思議な事では無い。

 雰囲気は見た目の不気味さを除けば落ち着いたものだ。声も発さないのは口があるように見えないだからだろうか。


「……私もああでしたか?」


「いやあんたは最初からそれだよ」


「そうですか、良かったですね」


「お姉様方、来る様ですよ」


 ウリエルに注意され、2人は前を向く。全員自分の武器を構え、カシエルの攻撃に備える。

 カシエルは特に何かを発する事も無く、号令をかけるかの様に上げた左手を下ろした。すると、黒い水が20メートル近い津波となってこちらへと向かってきた。


「うわ……」


「これは流石に……」


「あー、マスター達こっちに寄りな」


「え?」


 モモに言われ、大人しくそちらに行く。全員が寄った事を確認すると、強固そうな結界を張った。


「確かにそれは固いですけど足りないんじゃ……?」


「まあ見てな……ほら」


「久々ですね……ウリエルもよろしくお願いします」


「はい!」


 ショウは結界の魔法を知っている様だが、確かに耐え切るには心許無く感じる。どうするのかと思ったら、クローナとウリエルがそれぞれ神器を操作して、結界の表面に水と炎を張っていく。水と炎が打ち消し合わずに混ざっていく様は中々に興味深いが……もしかして合体技?


「うおっ」


「凄い……」


 3人による結界が完成すると同時に、津波がこちらに到達し、地面を揺らしながら削っていく。

 しかし、結界は振動や衝突する轟音は鳴れど、罅1つも入らずに津波から俺達を守り切った。


「凄いな、これ」


「今みたいに多少猶予が無いと使えない上に消費もまあまあ、何より狭いから使い時があんまり無いんだけどね」


「ああ、わざとじゃないのか」


 確かに動きづらくなる程に狭い。範囲を狭くすると効果が上がる的なアレかと思ったが、これが最大なのか。ざっくりだが、その条件なら確かに使うタイミングがなあ。入れる人数も少ないし。

 話している間に黒い水は引いた。カシエルは既に自分の頭上にこれまた巨大な水の球体を作っており、次の攻撃の準備を始めている様だ。


「見た目の割に動作が素早いな……」


「とりあえずこっちも攻めないとって……うわあ」


 水球を膨らませていたカシエルだったが、突然右脚が溶ける様に地面に落ちた。それに伴って水球の体積も3分の1程が減った。

 それでもカシエルは動じず、水球を膨らませ続けている。よく見ると溶けた右脚も少しずつだが元に戻っている様だ。


「思ったより崖っぷちなのか……?」


「死にかけなのは間違い無かったですからね。もしかすると1撃でも当てれば倒せるのでは?」


「1撃ですか……空中にいるのが厄介ですね」


「なら吹き飛ばせば……あんたなら上手くやるだろう?」


「そうですね。モモさんなら制御の心配はいりませんし」


 物騒な話……あれ、話しているのはアポロさんだけど俺も対象に入ってない?あ、クローナも……【空走場(アハルテケ)】のクールタイムは終わっているが、その方が近づくのは早いんだよな。まあモモだから大丈夫か。


「とりあえず誰かが、1撃当てるという事で」


「了解……え、どのタイミングで?」


「じゃあ今。そろそろカシエルも動きそうだ」


「が、頑張ってー」


「お前……!」


 モモが結界を解き、風系統の魔法で俺含め4人をカシエルへと吹き飛ばす。タイミングが雑すぎて酷い。それにショウだけ何もしない事になったし。コトネさん?いや散々回復してくれたし。

 カシエルの方は水球の準備が出来たのか、そこから無数の槍を作り出して発射してきた。


「ここは私が」


「お願いします……コウさん、私を」


「え、ああなるほど、【空走場(アハルテケ)】」


 こちらに来る水の槍をウリエルが矢面になって迎撃する。その間に俺がスキルを発動して踏ん張る足場を作り、アポロさんを更に上へと上げる。クローナは迎撃したウリエルのフォローをする様で、カシエルの攻撃には加わらない。アポロさんは上から、俺は下からという感じか。


「『黒炎』『反剋』……【極刀】」


 上から再び降ってくる槍を気にも留めず、アポロさんははカシエル目掛けて刀を振り下ろす。

 しかし、その刀は変形したカシエルの両腕によって受け止められていた。もちろん変形したとはいえ、その腕は無事では無いが、受け止められたというのがやばい。アポロさんはそのまま落ちていき、カシエルも俺を視認し、攻撃に移ろうとしている。

 カシエルの脚が剣の様に鋭く尖り始めたが、瞬間、カシエルの動きが鈍り始めた。思わず下を向くと、ショウにおぶさり、だるそうにカシエルの方に手を伸ばしているベルフェゴールの姿が目に入った。これが例のデバフか!


「これならギリいける、【貫牙剣(アウラ)】……【滝割り】!」


 一段と力を込めて足場を蹴る。カシエルの脚が脇腹を抉るが、プレイヤーならこの瞬間の中では大した効果は無い。カシエルの腕が動いた様に見えたが、それを無視して刀はカシエルの胴体を斜めに切り裂いた。


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