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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第八章 天は高く、奔走せよ
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第二十六話 簒奪者に応報を 六


「【忍耐(ガブリエル)】!」


「正念場ですね」


「一段と気を引き締めないとな」


 やっと第2段階になったと言うべきか。本領を出させずに倒せないのなら、さっさと出させてしまえば良い。初対面の頃は少し傷つけただけでブチギレて使ってくれたんだけどなあ。早くやって欲しかった。

 とりあえず、ここからは段違いに変わるから相手が小物臭かろうが、気が抜けない。


「『マレノストルム:アクートゥスカタラクタ』……!」


 先程よりも遥かに規模を増した水で出来た攻撃がこちらへと飛んでくる。地面を削りながら向かって来た攻撃を空中に逃げる事で避ける。モモとクローナは魔法で対処し、コトネさんの方にも来ている攻撃はウリエルが補助に回って何とかなった様だ。


「うわっ、多い多い!」


 しかしそれだけでは終わらない。避けたはずの攻撃が無数に分岐し、軌道を変えこちらへと追って来た。付近の分岐した攻撃全てがこちらへと向かって来たので、数がやばい。剣で弾きながら、体の向きを無理矢理動かしてダメージが最小限にする。最小限って言っても、結構きっつい。モモとクローナは魔法だし、ウリエルは蒸発させてるわ……便利そうで良いな。コトネさんはいつの間にかおぶさっている。翼邪魔な気がするけど大丈夫なのか?

 それにしても、前はこんな攻撃してきたっけな?手加減……いや、そんな性格じゃないだろうし、普通に仕様かな。

 さて反撃といきたいが、ガブリエルの方も防御膜も更に規模を増しており、小さい要塞みたいになっている。あれに近づくのか。モモの魔法もウリエルの炎も届いていない。


「あ、そうだ」


 『反剋』が対象内かを確かめていなかった。正気じゃないクローナの時は使えたんだから、ガブリエルの時も使えて欲しい。続く攻撃を避けながら『反剋』を使うと、予想通り判定内だった。


「よっしゃ!『反剋』!」


 対応する刀を取り出し、ガブリエルを接近する。『反剋』が使えると大分心強い……やっぱり火力だ火力。


「馬鹿め……!」


「【抜刀】!」


「なっ!?」


 何も考えず突撃してきたと勘違いしたのか、ガブリエルは派手だが雑な攻撃を放ってくる。もちろん威力も高いのだろうが、『反剋』付きの今なら斬り払える。

 ガブリエルは難なく自分の攻撃を打ち消された事に驚いていたが、すぐさま次の攻撃を放ち、同時に自分の防御をさらに固め始めた。だがまあ……自分の視界まで塞がっているだろうに。


「【刺突】!」


 ガブリエルが作った水の防御膜が弾け飛ぶ。俺に向かってきた攻撃はモモによって凍っている。モモが魔法で出した水を紛れ込ませる事によって制御がどうたらこうたら……それに加えて時間をかければ数秒凍らせる事は出来るらしい。

 防御を壊され、攻撃も無意味になったガブリエルは水の足場を作って上へ逃げようとする。しかし、ウリエルが放ったレーザーの如き炎の熱線でそれを貫いた。水の足場は容易く崩れ、ガブリエルが体勢を崩す。

 ガブリエルは俺による追撃を恐れて、操作出来る水をかき集めて俺の方へと津波を発生させる。確かに逃げるにしろ『反剋』で穴を開けるにせよその時間で距離を取れるだろう。しかし、大分焦っているのかもう1人残っているのは気づいていない。


「さてカシエル、覚悟は良いですか?」


「ッ!?貴さ……!」


「終わりです」


 後ろから接近していたクローナがガブリエルに向かって大剣を思い切り叩きつける。操作出来る水が無いガブリエルは、その一撃をモロに食らった。地面はひび割れ、赤いエフェクトが飛び散る。

 俺に向かってきた津波や周りにあった水は一気に蒸発した。熱くは無いが、水煙が凄くて何も見えん。と思ったら、モモが風系統の魔法で吹き飛ばしてくれた。

 水煙が晴れた先には、倒れ伏しているガブリエルと、大剣を地面に刺したクローナがいた。完全に決着だな。全員そこへと集まっていく。


「……ガハッ……」


「……はあ、ざまあないね。どうだい今の気分は?」


「く、くそ……悪魔、如きが……!」


 忌々しいとばかりに、ガブリエルがモモを睨み付ける。しかし今までよりもその視線は弱々しく、命が風前の灯である事を感じさせる。最後までキャラ性は一貫してたな。


「……さて、今なら出来るんじゃないかい?」


「そうですね。やってみましょうか」


「何するんだ?」


「神器を奪う……いや、取り戻すのさ」


 あー、出来るんだ。モモによると、普通はできないらしいが、ガブリエル……もういいか、カシエルの時はミカエルの力、今はカシエルが死にかけている上に本来の持ち主であるクローナが奪うのだから可能だと考えた訳だ。

 あるべき所に収まるし、実質強化だろう……クローナがあの地下にいたままカシエルを倒すとどうなるのだろうな?


「さて、カシエル」


「っ!や、やめろ、これは私の物だ!」


「元々私の物ですよ……」


 クローナが膝をつき、カシエルの体に手を当てる。そして手が光ったと思うと、周りから水が溢れ出した。どちらが操作しているのかと一瞬身構えたが、モモとウリエルが動じていないので恐らく問題は無いのだろう。

 その水は辺りで渦巻いた後、クローナの元へと集まり、消えていった。


「……ふう、ようやく戻ってきましたね」


「な、ああ……返せ……返せ……」


 カシエルは壊れたかの様に虚な目で返せと呟き続けている。これで正真正銘ガブリエルでは無くなったのだから、本人のアイデンティティーが皆無だ。カシエルという名前があるのに、どれだけガブリエルに拘りがあったのやら。全く興味は無いけど。


「それにしても、何かちょっと違ったな?」


「え……確かにそうですね?操作自体は鈍っている分を抜けば、問題無いのですが……何故でしょうか?」


 クローナが再び出した水は光の加減が少し黒っぽい。差分と言ってしまえばお終いなのだが。


「堕天の影響でしょうか?」


「地下の時は真っ黒だったけどな」


「不具合が無ければ良いんじゃないかい?」


「……そうですね」


 気になりはするが、どうにもならなそうなのでクローナは諦めた様だ。思っていた感じと違うから色々と複雑なのだろうが……それはそれ、しょうがない。仕様は悪用出来ても抗えませんってな。


「……あれ、それじゃあクローナさんの事はガブリエルさんとお呼びした方が……良くない感じですね」


「良くないと言いますか……」


「ここ長い間ガブリエルはカシエルだったからねぇ……」


「お姉様の名前なのに……こいつのせいで……」


 こいつて。まあ分からなくもないけど。ちなみにウィンドウに表示されているパーティメンバーには、「クローナ・ガブリエル」になっている。それで良いのかとつっこみたいが、それは置いておいて、本人達がこれを自覚していないという事は、これは無視して良いのだろう。俺のネーミングが継続ですか。


「じゃあとりあえず……あれ、まだ息がある……?」


「返せ……返せ……返せ……!!」


 カシエルの様子が何かおかしい。即死で無いだけで、確実に死ぬレベルのダメージのはずだ。もう息絶えていてもおかしくないはずなのに、存在感が増している。

 すかさず首を断てられれば良かったのだが、それはそれで危険と感じたので全員距離を取る。

 そしてカシエルの周りから見覚えのある黒い水がゴポリと湧き始めた。


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