第二十五話 簒奪者に応報を 五
「それでは、お気をつけて」
「コトネさんも巻き込まれない様に距離を……まあここら辺なら大丈夫か」
回復役が攻撃が飛び交う中を動き回るという事態はあまり考えられない。絶対何処かで被弾して死ぬだろう。コトネさんならまずそんな事にならないだろうから無駄な考えだけど。
さて前方の戦闘だ。派手ではあるが、俺が入り込む余地はあるはず。というか、そうじゃないと完全にNPCオンリーのイベントになる。その可能性も無くは無いけど、挑戦はしてみるべきであろう。
ぶっちゃけ、炎やら水やら何やらが飛び交っている中に突っ込むのは割と怖い。そりゃ攻撃が当たって死んだ所で、次の瞬間には教会だ。そこは麻痺させようが無い上に、させない方が健全だ。とりあえずは楽しめれば良いので、楽観的に行こう。そもそもガブリエル1体なら負ける要素はあっても、モモ達が死ぬ要素かあんまり思いつかない。命はお手頃価格なのでさっくり突っ込んで行こう。
「ふう……【空走場】、【フラジャイルクイック】」
息を吐き、スキルを使う。【空走場】はギリギリでクールタイムが完了したので、再度使用。SPも何とかなるぐらいには残っているし、問題無い。移動の自由度無いとやばいからな。
そして、上げたAGIを使って一気に戦闘の起きている場所へと向かっていく。目指すのはもちろんガブリエルだ。接近して行けば誰かしら気づくだろうし、最初に気づくのがガブリエルで無い事を祈るだけだ。
攻撃が飛び交う中へ入ると、流石に全方位に目がある訳では無いので、カスダメを受ける。ダメージ量は少ないが、回数が多いので、気をつけなければならない。
ただすぐにカスダメの頻度は減っていった。横目で確認すると、モモ達の攻撃の仕方が変化していた……俺に気づいたかな。俺がガブリエルの視界から外れる様な攻撃に変わっているので間違いないだろう……あ、クローナと目が合ったわ。これでカスダメを気にしすぎる必要も無くなったのでありがたい。
モモ達の攻撃は変化したが、ガブリエルがこちらに気づく様子は無い。先と変わらず激昂しているみたいで、相手の3人にしか注意が向いていない。全方位では無くとも水による防御膜が貼ってあるので、何処からでもでは無いが、隙はある。
飛んでいるガブリエルに下から近づいていく。【貫牙剣】はまだ使わない、流石に小物臭くても天使と言うべきか、心臓や頭はがっちり守っている。そうなると取れても腕や足1本、その後は完全に警戒されるから手札は残しておいた方が良い……まあガブリエルは知っているか。覚えているかどうかは知らないけど。
「【抜刀】!」
水の防御の隙間を狙い、刀を振るう。もちろん致命傷は与えられなかったが、ガブリエルの右の翼を切り裂く事は出来た。
「ガァァァッ!?貴さっ……外来種がァ!」
「危なっ、いや……おっとっと」
翼を斬られた痛みにガブリエル顔が歪む。すぐさま反撃が来たが、想定よりも大分雑だったので体を逸らす程度で簡単に避けられた。
あれだな、俺の事は覚えていたみたいだけど以前会った時のスペックの想定で攻撃したんだな……成長を加味しない辺り、それらしいというか。
ならばもう1撃といきたかったが、流石にこの近距離だと反撃の密度が高く、それは叶わなかった。
避けるのに合わせ、ガブリエルから距離を離してモモ達の方へ。ガブリエルは俺が離れたのを確認すると、攻撃を止めて防御だけに集中し始めた。片翼をもがれた以上飛び続けるのは難しい様で、そのまま地面へと降りていった。
「あの状況で、翼1つなら上々だろうねぇ」
「そりゃ良かった。そっちも引きつけ助かった」
「私達だけでは決め手に欠けますからね……あちらも私達の手札はよく知っていますから」
お互いにやり方を知っている上に、ガブリエルとは何だっけ、出力差があるとかだっけかな。それもあって1対3でも釣り合うのか。まあ参戦する余地があるならやりようはいくらでもあるな。
クローナとウリエルは近接攻撃もあるからよく見ると体の各所に傷があった。ガブリエルの攻撃が止んだ時を見計らってコトネさんが回復し始めていた。ガブリエルの方は水の球体に閉じこもっているから、3人が少し息をつく暇はあるだろう。
「王女様はどうなったんだい?」
「ああ、傷1つ無く助けられたし、今は目を覚ましたメイドさんが見てるよ。何故か動けてるけど……大丈夫そうだった」
「それはまあ……そのぐらいは出来るだろうね。そっちが一段落してるのなら良いさ」
その後はショウ達についても聞かれたので、向かった先で天使に囲まれた事、こちらに向かってはいるが時間はかかる事を伝えた。思っていたよりベルフェゴールを頼りにしている様だ……範囲デバフだったか、確かに楽になりそうだ。
こちらも一応状況を聞くと、【忍耐】はまだ使っていないらしい。だが使わせずに倒せるという事は色々な意味で無い。1度見ているから死なない事は可能だろうし、時間がかかれば増援も来る。気楽にやれば良いな。
一通り話したところで、ガブリエルの水の球体が解かれた。肩で息をしているが、血は既に止まっている。止血をしていたのか。衣服が白なせいで血の赤が目立つ。
「随分と奇抜な格好になりましたね」
「殺す……必ず殺してやる……外来種如きが……!」
それなりのダメージを与えた事で完全にヘイトが向いているな。プレイヤーである事がそれを割り増しにしている様で、表情が中々に危機迫っている。
「余裕が無くなると本性が出やすいと言いますが……」
「根本的に「高尚な天使様」に合っていませんよね」
「理想と現実は違うという事を体現しているねぇ」
俺の攻撃が上手くいった事に思っていたよりお気を召したのか、3人は何処となく嬉しそうだ。どれだけ恨み辛みが……まああるだろうけど。直接的な要因なのか、色々天使の中でも一際だろうし。あとウリエルがめっちゃ笑顔だ。1番付き合いが長くならざるを得なかったせいなのか……少しは隠した方が良いんじゃないでしょうか。それ自体が煽りになっている気が。
「どこまでも……!『セカーレ』!」
ガブリエルも耐えかねたのか、無数の水の刃を放ってくる。こちらも即時解散し、それぞれで対処し始める。コトネさんはウリエルが庇った後、即座に後ろに下がったので問題無い。
俺とクローナが主に接近し、ウリエルとモモがサポートに回る。直前にバフをかけてもらってるいるから先程よりも自由に動ける。
「【抜刀】!」
「2度も食らわん……!」
真正面から刀を抜く。それは難なく防がれるが、それは問題無い。本命は上から降ってくるモモの氷塊……と見せかけてウリエルの炎の剣だ。
「小細工を……なっ!?」
ガブリエルはそれも読んでいた様で、水の防御膜を張り傷1つ無く防いだ。だが、背中にクローナの投げた投擲用ナイフが突き刺さる……小細工大当たり。一緒に近づいたくせに、見失ってやんの。
「この……!」
ガブリエルはナイフを投げたクローナの方へ向く……まだ俺が近くにいるのに。半ば自動っぽい攻撃しているからって俺を抑え込めると……あれ、まだ初対面の時ののスペックだと思ってる?マジで?
「せいやっ」
「ガッ、なあ!?」
蹴り一発、杜撰な防御の隙間を潜ってぶち込むぐらいは可能だった。刺さったままのナイフを足で押し込み、ガブリエルに更にダメージを与える。
「〜〜〜〜ッ!!『セカーレカタラクタ』!」
「危なっ!」
キレにキレたガブリエルがなりふり構わず全方位攻撃を繰り出す。こちらもなりふり構わず全力で離れる。
「ふう、危ない」
「思っていたより舐めきってたねぇ」
「こっちとしてはありがたかったけどな」
「さて、来ますよ……」
ガブリエルの周りを大量の水が渦巻く。さてさて、本当にリベンジだ。




