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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第八章 天は高く、奔走せよ
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第二十四話 簒奪者に応報を 四


 シャーロットを助けたは良いが、肝心の脱出経路が分からない。モモ達の戦闘の影響は凄まじく、瓦礫で来た道は塞がれているし、その内この遺跡が崩壊してしまうので、このままぐだぐだとしているとその下敷きになりかねない。

 何にせよ、早くここから出ないといけない事に変わりはなく、外に出られる事を信じて先を進む。


「分かれ道かよ……っと、本当に崩壊するんじゃないか……?まあ良いや、こっち!」


 遺跡を揺らす振動に冷や汗をかきながら自分の勘を信じて走る。分かり道が何箇所かあったので、どちらか決めるたびに不安になったがしょうがない。

 そうして走っていると、前方から光が見えた。人工の光では無いだろうし、そんな物がここにあるとも思えない。一段と走る速度を上げて前へと走る。


「窓か……あー、まあ大丈夫かな」


 光の正体は窓から差し込む陽の光だった。外の様子を見ると地面までは10メートルぐらいある。シャーロットを抱えている状況では安全に着地するには不安になる高さだが、幸い【空走場】の効果が後20秒程ある。これなら10メートルぐらいなら余裕で降りられる。

 うかうか出来る時間は無いので窓枠を乗り越え、足場を作り降りてゆく。地面に足をつけると同時に【空走場(アハルテケ)】の効果時間が切れた。


「良し、じゃあコトネさんの所に行かないと……あっち、あー……」


 辺りを見回してコトネさんのいる方向を確認する。遺跡に入る時に目に入った特徴的な部分が見えたので方向を確かめる事が出来たが、認識した瞬間に爆発するとは思わなかった。まあ戦闘の影響なのは間違い無いだろうが……方向は分かったので良しとしよう。モモ達が遺跡から出てくるのは時間の問題だな。

 気を取り直して、遺跡にはこれ以上近づかない様にしながら走る。すると、担いでいたシャーロットが身じろぎした。起きたのかな、自然に目を覚ますなら変な気の失い方はしていないのだろう。


「う、うん……」


「目が覚め……」


「ッ!?誰じゃー!降ろせー!妾を誰と心得る!?」


「痛ッ!痛、痛いって!」


 俺の背中側に顔がくるように担いでいるせいで、シャーロットからは俺の顔を見る事が出来ない。その為自分を運んでいる人物が誰かを認識できず、殴るなり蹴るなり好き放題暴れ出した。

 あ、ちょっと止めて、脇腹辺りを靴の先端で蹴るの止めて。走りづらい上に僅かながらHP減り始めたんだけど。


「俺!俺だよ俺!」


「うおー……お、お主か」


 一旦立ち止まり、シャーロットを降ろして落ち着かせる。本人からすれば必死の抵抗なのだろうけど、髪を引っ張るのは止めてほしいわ。


「暴れてすまんかったの」


「いやまあ、良いけどな。急ぎたいから、おぶりながら話すぞ」


「ああ、分かった」


 両手が塞がるが、起きた後に肩に担ぐのもな。シャーロットをおぶり、話すのに支障が出ない速度で走り始める。


「お主が助けに来てくれたのは分かるが、そも誰が妾を……そうじゃナタリー、ナタリーはどうなっておる!?」


「揺らすな揺らすな、メイドさんは生きてるよ。コトネさんが回復してるから大丈夫だ。後お前を攫ったのは天使だよ」


「そうか無事か……良かった……おおっ!?何じゃ!?」


「一際派手だな……」


 多少なりとも離れたはずなのに、後ろから凄い爆発音がした。モモの魔法でもこんな事にはならないだろうから、要因が重なった為だろうか。

 まだメイドさんの安否しか話していなかったので、ここでまとめて経緯を説明した。シャーロットの飲み込みは早く、流石は王女様と言うべきか。


「それでは、わらわは釣り餌という訳かの、不敬……天使に言っても仕方ない。まあこれが天使のする事かとは言いたくなるがの」


 あはは、シャーロットにまで言われてら。実際そうなので、このまま株を下げっていってほしい……既に下限値だけど。


「あ、ここか」


 見覚えのある道に戻ったので、それに沿って進むと血塗れの場所が見えた。天使の死体は無く、血も地面を染めているだけ……コトネさんが片付けたという事も無いだろうし、描写の関係かな。


「ここは……?」


「メイドさんが戦っていた所だよ、血は殆ど天使の物だから。さて、コトネさんは……いた」


「ナタリー……!」


 辺りを見回すと、少し離れた所に横になっているメイドさんと、それを見ているコトネさんがいた。同じくそれを見つけたシャーロットは、俺の背中から降りて走り出した。

 まあ先に行っても辺りにはモンスターの影は無いし問題無いだろう。俺も歩いてそちらへと向かう。


「ナタリー!」


「あ、シャーロットさん、大丈夫ですよ、眠っているだけです」


「お疲れ様」


「コウさん、そちらも……モモさん達は?こちらまで音が聞こえましたけど……」


「3人はガブリエルを引きつけてる。俺も行かないと」


「そうですか……あ、ショウさん達から連絡がありまして、言った先に同じ顔をした天使が十数体いたそうなんですが、倒してこちらに向かっているそうです」


「マジでか」


 十数体と聞いて一瞬焦ったが、倒した後だった。まああの2……3人だった。あの3人なら大丈夫だろうな。その内来るだろうけど、合流するのを待つより、先に行った方が良い……はず。


「うん……ここ、は……」


「ナタリー!」


「殿下、良かった……」


 メイドさんが目を覚ました。シャーロットに呼びかけられ、起き上がろうとするメイドさんをコトネさんが手で制する。

 とりあえず行方不明になっていた2人は無事に助けられた訳だ。後はガブリエルだけだな。


「お2人は……なるほど、ありがとうございます」


「いやいや、話は騎士団長が持ってきたから……そろそろ行かないとな。コトネさん2人をよろしく」


「はい、お任せ下さい」


「……いえ、それには及びません」


「あ、ちょっと……え?」


 メイドさんはすくっと立ち上がった。コトネさんは大丈夫と言っていたがここまで大丈夫とは……いやコトネさんも驚いているわ。結構な大怪我だったはずなのに、何で動けるのやら。


「え、ええと……」


「この辺りの魔物なら今の私でも問題ありません。あなた方は戦闘へと向かって下さい」


「まあ、天使の追加が来る可能性はゼロじゃ無いけどゼロに近いしな……」


「最悪妾がナタリーを背負えば……無理じゃ無な」


「それは、うん」


 シャーロットの筋力じゃあ無理だろうな。確かに回復役のコトネさんが一緒に来てくれればとても助かる。なのでメイドさんの提案はありがたいが、さっきまで重傷だったんだよなあ。どうするべきか。


「まあ戦闘はともかく、逃げるだけなら本当に問題ありませんので。殿下も天使が来さえしなければ、逃げ足は……」


「相当だからな。じゃあお言葉に甘えようか」


「……そうですね。気をつけてくださいね?」


「はい、分かっています」


 2人と別れ、モモ達がいる方へと向かう。メイドさんに大量の回復魔法をかけたのでMPは大丈夫かと尋ねると、俺とシャーロットが来る直前にポーションを何本か飲んだそうだった。多分長期戦にはならないだろうし、戦闘1回分保てば良い。

 途中で、並走するより俺がコトネさんを背負った方が早い事に気づいたので、その方式に変更した。

 遺跡があったはずの場所に戻ると、そこは瓦礫の山と化していた。木が薙ぎ倒されていたり、地面が抉れている箇所が道の様になっており、モモ達がどちらへと向かったのは分かりやすかった。


「凄い事になってましたね……」


「まあ予想はしやすいけどな……あー、見えてきた」


 前方には炎の波や氷や土の破片が飛び交っている。それに混じってキラキラと反射しているのは……ガブリエルの操作している水か?変に軌道が曲がる時があるのはクローナが弾いているのだろうか。


「……あれに参加するんですか?」


「しないとな、プレイヤーの1人としては……」


 さて死地に飛び込むかあ……最近多いような?


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