第二十三話 簒奪者に応報を 三
痕跡を追って辿り着いた場所は、木々に隠れた遺跡だった。夏イベの時の様な仕掛けは無さそうな、とりあえずフィールドの一部としての要素しか無さそうな場所だ。
「ああ、ここまで来れば気配で分かる……ガブリエルだ」
「え、本当にか?こんな事する奴だったっけ……1度しか会ってないけど」
「……とりあえず行きましょう」
ガブリエルがいると知り、神妙な雰囲気になる。特にクローナとウリエルの纏う空気が変わった。まあ色々あるからな。
空気が変わるのはしょうがないものとして、遺跡の中へと入る。やはり遺跡その物自体に大した要素は無い様で、シンプルな構造が続いていた。そして出た場所は広間……謁見場……何か違うな、とにかく広い部屋に着いた。
広いとは言え、誰がいるかは分かる。中心には4人、ガブリエルとメイドさんが倒していた天使と同じ顔の天使が2人、そして寝かされているシャーロットだ。
「やっと来たか……!」
どうやらガブリエルさんは、既に怒髪天を衝くばかりのご様子で、今にも攻撃して来そうだ。沸点が低そうなのは覚えているが、待たされたぐらいで……何かあったんだろうか。
「はあ、天使様とあろうものが、随分と低俗な真似をするもんだねぇ」
「久しぶりですね、カシエル。盗んだ神器の調子はどうです?アスモデウスに聞いた限りだと、出力頼りの様ですが」
「駄目ですよ、お姉様。盗っ人の自覚が無いのですから……どうせ私が生きているから、その後始末を押しつけられたとかじゃないですか?まあそれで誘拐という手を使うのはとても尊敬しますけど」
煽りよる。モモはともかく、神妙な雰囲気だった2人まで煽るとは。もう少しシリアスなやり取りをするのかと思っていた……いや、話し方にめっちゃトゲがあるわ。煽るというか、普通に貶しているだけだなこれ。
その煽りを受けたガブリエルの方は、やはりその辺の耐性は低い様で、下を俯きながらプルプルと震えている。これで高血圧とかでぽっくり死んだら爆笑もなのだが……ギャグアニメじゃ無いんだし、流石にそんな展開は運営にメールを送るレベルだ。
それにしても、側にいるシャーロットを見張る役割なのか、天使2人が無反応で、それも面白い。1人プルプルしているのに、何をするわけでもなく立っているだけだ。まあ機械的なのは予想つくけども。
シャーロットの方は意識が無いのかずっと横になったまま動かない。外傷らしい外傷も無さそうで、眠っているだけだろうな。あちらからすれば餌以上の意味は無いから大人しければ良いのだろう。最優先はシャーロットを取り戻して安全を確保する事だ。
「ほら、何とか言ったらどうだい、カシエル?」
「……ッ!私は、ガブリエルだ!!」
反応するのはそこなのか。あちらはあちらで拘りがある様だが、悲しいかな、こうして完全に敵対している時点であんまり興味は無い。推測できる過去の事情やら因縁やらを考えると、相容れる要素が無い。
「お前らさえ、きちんと死んでいれば……私がこんな事を……!」
「そんな事言われましてもね」
「そちらだって、こちらの事に大した関心を持たなかったせいですし。後いつまでガブリエルを名乗る気なんです?この数千年ずっと鬱陶しいんですよ」
その瞬間、太めの紐が切れる様な音が聞こえた。場の雰囲気による幻聴では無く、実際に聞こえた。まあガブリエルの堪忍袋の尾が切れる音だろう……仕様なの?
ウリエルの言葉にいよいよ耐えられなくなったガブリエルは水を纏い始めた。
「挑発し過ぎなんじゃないか……?」
「このぐらいは言わせてもらいたいものですよ……特に間違った事を言ったつもりはありませんし」
「それはまあ、そうだけどな」
「それに、これだけ言えば、あの王女様の事もマスターの事も眼中に入らないだろう?」
「あー、なるほど……」
「という訳で、頼みます」
「分かった、そっちも気をつけてな」
「ええ、遅れは取りません……!」
クローナが武器を構え、ウリエルも炎の剣を出す。確かに前より剣の迫力が落ちているな。
モモも俺達にバフをかけるなどして、いつでも動ける様にしている。俺の役割はまずシャーロットを救出する事だ。
「……てやる……!殺してやるぞ!!」
「一々セリフが三流っぽいのどうにかならないかな……」
「分かりやすく程度が知れるので良いのでは?」
「ほら、来るよ!」
ガブリエルを囲んだ水が震えた後、無数の刃を出して爆発した。多少距離があったのと、全方位攻撃のおかげでこちらに来る水の刃の数が少なかったので簡単に避けられた。3人も問題無く避けている。
近くにいるシャーロットは大丈夫かと目を向けると、控えていた天使2人が抱えて奥の部屋へと移動しようとしていた。巻き込まれていないのはありがたいが、逃がすわけにはいかない。3人が反撃し始めたのに合わせ、天使達を追いかけ始める。
クローナはともかく、モモとウリエルは攻撃が派手なせいで余波が凄い。ガブリエルも冷静では無いせいで、こちらにも攻撃が飛んでくる。半ば暴走してるんじゃないのか、あれ。
「っとと……あーもう、【空走場】!」
天井の破片は落ちてくるわ、敵味方問わず外れた攻撃や余波が飛んでくるせいで普通に走るだけじゃ全く前に進めない。【空走場】ならば通る道の自由度が格段に上がる。
障害を掻い潜り、天使が入った扉をくぐる。天使2人は特に慌てた様子も無く、こちらに背を向け歩いていた。
「ナイフ……いや自信無いわ」
こういう場合は投擲武器の方が確実だろうが、生憎数十メートル離れた狙った所に当てる自信が無い。シャーロットは肩に担がれているので当たる確率がそれなりある。投げナイフを取り出そうとするのを止め、一気に距離を詰める事にした。
「【フラジャイルクイック】……!」
シャーロットを安地に運ぶ必要もあるから、VITは最大限減らしても問題無い。姿勢を低くして一気に走り出す。
「【滝割り】……!」
シャーロットの担いでいる天使の右半身を狙い、刀で切り上げる。攻撃は理想通りに当たり天使を切り裂いた。シャーロットは傷つく事無く天使の肩から落ちたので、片手で受け止める。
もう1人の天使は何処からともなく簡素な直剣を取り出し、こちらを切りつけようとしてくる。
「【刺突】」
体勢は崩れているが、刀は届く。天使の剣がこちらに届く前に、天使に俺の刀が突き刺さる。スキル込みのせいか、若干弾け飛んだと形容するに近い事になったが……まあ倒せたので良し。
「まあ、大丈夫……か?」
シャーロットの状態を確認するが、外傷は無い。それ以上の事は分からないので、とりあえずは外に出るしか無い。
しかし、来た道はいつの間にか瓦礫で塞がれており、このまま何処へ続くか分からない通路を進むしかない。
「外行けっかな……?」




