第二十二話 簒奪者に応報を 二
「じゃあ呼びに行かないとな。外じゃなくて部屋にいてくれてよかったわ」
「ああ、よろしく……ほらベル、起きて起きて」
「うーん……分かったよ〜」
ショウがベルフェゴールを揺さぶって、目を覚まさせる。そういえばババ抜きしている時も騎士団長がいる時も寝っぱなしだったな。両手で脇を支えて立たせているのを見ると、歳の離れた妹を世話しているみたいだな……全然似ていないけど。俺もさっさと呼びに行かないとな。
モモの部屋に2人ともいるみたいなので、ドアをノックするとすぐに出た。
騎士団長が来ていた事は気づいていた様で、事情を話すとすぐに協力してくれる事になった。何かあると踏んで、していた作業をキリ良くしてくれていたみたいだ……ありがたい。
「それで、手がかりは?」
「何にも、な」
「まああのメイドまで行方不明になったなら、相当な事態だろうさ」
モモからの評価も高いな、メイドさん。それはそうだろうな、それが厄介さの証明になっているのはアレだけど。
「とりあえず現場を探した方が良いでしょうね」
「手がかりがあるとすればそこぐらいだろうからねぇ……」
「じゃあ、僕と……アポロさんはここに残るよ。コトネさん達の連絡要員として。まあ連絡取ろうと思えば取れるけどね……」
「大人数で探すのも目立つし、意味無いからな」
ショウとアポロさんにシャーロットの痕跡を探す能力は無い。俺ももちろん無いが、プレイヤー1人ぐらいはいた方が良い……はず。
とりあえず屋敷の方はショウ達に任せ、3人で外に出る。シャーロットはどうなっているかは知らないが、そもそも最初は王城から出たのは間違い無い。モモ曰く、MPを馬鹿ほど使った詳細な探索系の魔法でシャーロットの痕跡を探し、それを辿っていけばどこへ行ったかは分かるだろうとの事だ。
ちなみにその魔法はプレイヤーが使えたとしても数秒程しか持たないとかで……やっぱり総量凄いんだな。
「とりあえずは屋敷の方には向かってるみたいだねぇ」
「変な気紛れとかは起こして無いって事か」
「そうなると確実に事件である事が明確になってきますね」
屋敷があるのは王城周りの高級地、通りは広く、裏道らしい裏道も無い。多少入り組んでいたりする道はあるが、日の当たらないという事は全く無い。
「あー……速度が上がった」
「え、追われたって事か?」
「ああ、人数が増えてるから……速度からしてメイドに抱えられたってとこかね」
「いきなりだな……」
高級地との境に近い為か、場所は人通りは少ないとは言え、豪邸が乱立している事に変わりはない。まさしく白昼堂々と言った感じだ。
痕跡を追って行くと、相手を撒くためか高級地の外に出て、入り組んだ裏道へと入っていった様だ。更に痕跡を追って進んでいく。
「ここだね」
「ここ……何も無いな」
「ご丁寧に……というよりは、不意打ちを食らってどうにもならなかったってところだろうね」
「相当な手練れのはず……でしょうが……?」
「どうした?」
クローナが何やら疑問に思うところがあった様だ。どうしたと聞く前に、体を柔らかい壁が通る様な、気色の悪い感触がした。
「うぇわぁ……」
「ああ、さっきのまでのよりもっと細かいやつさ……害は無いよ」
「あったら困るんだよ……それでどうだ?」
「犯人は天使の連中だねぇ」
「やはりですか」
「はい?」
天使?天使というと、宗教とかに出て来る翼の生えた感じの人……実際には翼はあれど、よく分からない形をしたものらしい……いやそういう事じゃ無いのは勿論だ。少し理解するのが面倒だっだもんで。
「お腹いっぱいなんだけど……」
「そう言われてもねぇ。あっちの考える事なんて知らないよ」
「シャーロットを攫って何の利点が……素性がバレたとか?」
「あちらからすれば生き残りの子孫というのは厄介でしょうが、ここまでする程では……」
「じゃあ……」
「とりあえずはこれを追った方が色々と早いと思うけどね」
「そりゃそうか。一旦戻ろう」
「そうですね」
屋敷に戻ると、玄関にコトネさん達がいるのが見えた。もう戻って来ていたのか。その方が話が早いから助かる。
事情はショウ達が既に説明していたらしく、こちらの情報を話せばすぐに動ける状態になっていた。
「なるほど、天使が……」
「ウリエルさんは何か心当たりはありますか?」
「いえ、何も。あの連中がこの様な事を行う意味が……」
ウリエルも心当たり無いかあ。それなら、先と同じく急いだ方が良いので、持っているアイテムを確認した後、モモの魔法を頼りにフィールドに出る。
探している騎士団長に連絡を入れるべきかと考えたが、そも連絡方法が無かった。魔法で何とかならないかと聞いてみたけど、どうやら1つ2つ工程が足らないらしい。目立つ事は出来ないから、伝え様が無いのでもしまた屋敷に騎士団長が来た場合に備えて、クルト達に伝言を頼んだ。
「それで、どっちだ?」
「あっちだね、やっぱり痕跡があからさまだ」
「下級でしょうか?」
「いや、あのメイドを抑え込むなら下級だと目立つ数必要じゃないかねぇ」
移動中にモモとクローナの会話が聞こえたが、何かさらっと新情報が聞こえた気がする。下級という気になる点について聞いてみると、天使にも色々あるらしく、数頼みで作られたのが下級、もうちょっと質が良いのが中級、更に質が良いが数がとても少ない上級がいるとか。ちなみにクローナやウリエルは最上級らしい。現ガブリエルのカシエルは上級だとか。まあ由来は違うらしいけど、悪魔も普通にそういう階級はあるみたいだし、聞けばそこまで驚く事じゃ無かった。
そういった話を聞きながら、フィールドを走って行くと、いきなりモモが止まった。
「どうした?」
「痕跡が途中で分かれた」
「ええ?」
「まあ薄いけど王女様とメイドの気配が乗ってるから、正解は簡単だけどねぇ……」
「痕跡を追わせているなら、する意味が無いか」
そこに思いつかない馬鹿という事は無い。狙いはまあ低確率だろうが、こちらの分断かな?わざわざこうしたって事は、大した手間では無いのだろう。
「まあ外れの方に行く必要は確実に無いだろうけど……」
「では、私とショウさんで確認しに行きます。私達なら大概はどうにかなるでしょうし……」
「そうだね……じゃあ」
「ああ、頼んだ」
何かあっても安心の2人だ。攻防揃っているし。モモがショウ達に分かれた方の痕跡の方向を教え、残った5人で先を急ぐ。その先はまた痕跡分かれているという事は無かった。
「ん、こりゃあ不味いね……」
モモが何かを探知した様で、走るスピードを上げた。とりあえず倣って走って行くと、前方に実際にはエフェクトだが、血の海と形容できる惨状が広がっていた。
周りには翼の残骸があり、確認できる限りには同じ顔ばかりなので、モモ達が言っていた天使なのだろう。やっぱり天使って人工的な感じなのかね。
そして血の海の中心には、荒い呼吸をしながら片膝で立っている血塗れのメイドさんがいた。モモが探知したのはこれか。
「だ、大丈夫ですか!?」
コトネさんが思わず駆け寄り、メイドさんの状態を確かめる。ここでメイドさんはようやく俺たちの存在に気づいた様で、一気に崩れ落ちた。
「全部中級だねぇ……この数はいくら何でも厳しいはずなんだが」
「しかし怪我の具合が酷いですね……」
「途中で目を覚まして、捨てられたとかですかね」
「それで追って来たからこれってか」
クローナによると、この前のウリエル以上に酷い状態らしい。コトネさんがポーションを併用しながら回復を行なっている。
「殿下は……この先に……」
「分かりました。とりあえず回復を……」
「すみ……ません……」
コトネさんの返事を聞き、メイドさんの体から力が抜けた。流石にしにはしない様だが、コトネさんがかかりっきりになってしまった。
「後で追いかけますので、コウさん達は先を……ショウさん達にも連絡しておきます」
「ありがとう、じゃあ行こう」
どんどん人数が減っていってるが……大丈夫かな。
更に走って行くと、見えて来たのは古い遺跡の様な場所だった。




