第二十話 思ったよりやばかった
「【抜刀】」
「【朧流し】」
予想通り、アポロさんはスキルを使って接近してきた。こちらもスキルを使って受け流す。アポロさんは返す刀で追撃してくるが、今度は距離を取ってその攻撃を避ける。
やっぱり受けた感じ、速度も力も負けてるな。見えはするけど、競り合いは完全不利。とりあえず腕の1本でもとれれば御の字か。
「【泡砲鋏】」
「うわ、【貫牙剣】、【朧流し】」
アポロさんは離れたこちらを追わず、エクストラスキルを発動した。攻撃が距離関係無いの本当に狡いなあ。相応に消費はあれど、効果時間が長いのもあって、随分と強スキルだ。まあ俺も他人の事言えないけど。【貫牙剣】はなあ……最近斬れない物ちょくちょく出てきたけど。
その後もアポロさんは距離を離しながら、続けて斬撃を放ってくる。遠くからチクチク攻撃されては敵わないので、向かってくる斬撃を受け流すなり、避けるなりしながら距離を詰める。
「【刺突】」
「ふっ……!」
攻撃速度が速い【刺突】を使ったのに危なげなく避けられた。ここで【朧流し】でも使ってくれたら良かったのに……そう上手くというか、アポロさんは馬鹿じゃないか。
【朧流し】は受け流すだけで刀自体は衝突する。衝突するという事は俺の刀の刃が触れるという事で、直接ダメージにならない【貫牙剣】は効果を発揮し、相手の刀が斬れる。まあ【貫牙剣】は基本初見殺し強めだからなあ……分かっていればアポロさん並みだと対処出来ているし。俺の技量のせいでもあるけど。
「返します……【刺突】!」
「【朧……うぇっ!?」
反撃とばかりに同じ様に攻撃してきた。こちらの攻撃が当たらないなら相手の攻撃に当てれば良いと、【朧流し】を使おうとする。しかしそれも予測済みだったのか、途中で軌道を変えて、俺の刀も避けた。
これには少し驚いたが……無理矢理避けたせいでアポロさんの体勢は少し崩れている。こちらもきちんと構えられていないが、このままいい様にされていては敵わないので、スキルの発動を止め、刀を振り下ろす。まあそんな攻撃がまともに当たる訳も無く、アポロさんの装備の一端を斬るに留まった。
「ふう、危なかったですね」
「1たりともHP減らせて無いんだけどな……」
「刀の刃を避ける事自体は可能ですが……打ち合いができないのは初めてなので、中々に厄介ですね」
「別に打ち合いしても良いんですけど」
「まさか」
「ですよねー……」
それで、はいそうしましょうとか言い始めたらびっくりだ。戦闘で相手の武器の刃を避けるなんて中々に曲芸の様な感じがするが、それを可能に出来ているから凄い。完全に色々と劣っているんだよな。
無駄話をして時間を食って困るのはこちらだけ。考えるのもそこそこにして、攻撃を再開する。
俺の攻撃は掠る事はあれど、致命的な1撃を与えられる気配は全く無い。掠ると言っても、HPの減りは殆ど無いだろう。そもそも減っているのかどうかという所だ。
アポロさんの攻撃も視認は出来、致命的なものは避けられている。しかし、刃に触れなければ良いとばかりに的確に刀の腹に当てるなどして完全に適応されている。お陰で見る間にこちらの切り傷は増え、HPも少しずつ削られている。
やっぱり、武術か何かをやっているのか、素人目にも分かるほど刀の扱いがとても上手い。俺のゲームで鍛えたなんちゃって剣術が通用する訳も無く、というか通用したら困るのだが、どんどんと癖を読まれて対処されている。
実際に戦ってみると、本当に差が凄いな。これだと、まともな切り傷を与えられるだけでも御の字かもしれない。それでも流石に腕の1本ぐらいは取りたいものだが……出来る事は奇策ぐらいしか無い。
「【空走場】!」
「やっときましたか……!」
空中に足場を作る事での3次元戦闘……これならアポロさんも慣れてはおるまい。3次元と言っても、体の位置をずらしたり、踏ん張り所を増やすのがだけど。
飛べるモンスター相手ならまだしも、人型、それもプレイヤー相手には対応するのにも時間がかかるはず。
まあ時間がかかると言っても、即興程度で良いのなら、すぐにどうにかしそうなのがアポロさんの怖い所だが。
とりあえずやり難さを感じてくれている間にダメージを与えないと。
「何で対処出来るんですかね……!?」
「宝探しの時に、同じ事をしていたでしょう……!」
「え、うわ、覚えたのか……いや見ただけで!?」
うーわ、目の前で披露してたわ。そりゃ思っていたより上手くいかないはずだわ。まさかそんな事になるとは思わなかった。仲間内でこうなると予想するのは無理だよなあ。
こうなると、今全部出し切るしか無い。
「【滝割り】!」
「くっ……!」
「っ!?いやいや……」
一気に踏み込んでの浅くとも確実に一撃を与えられるはずだった切り上げは、曲芸かと見紛う様な変則的なバク転により避けられる。アポロさんはどれだけ引き出しがあるのやら……どうすりゃ良いんじゃ。
アポロさんはそのまま俺との距離を離した。追撃しようかと思ったが、接近する時にはもう体勢は整っているだろうし、一体息をつく。
「はあ……」
「一応言うと、私も攻め手には欠けていますよ」
「ええ……?あー、そういやHPは減ってるけど……」
致命的な傷は1つも無い。気休め……いや、そんな事を言う必要は無い。意外とこっちも対処出来ている?それならそもそも傷負ってないか。
「そちらのスキルの時間切れで勝つのは嫌なので……勝負をつけますね、【瞬測圏】」
「3つ目……!」
アポロさんの3つ目のエクストラスキル。分かりやすく変わった点はアポロさんの目の色が変わった事だけだった。拍子抜けといえば拍子抜けだが、それが逆に怖い。
先手を譲るのは不味いと思い、【フラジャイルクイック】でAGIをできる限り上げ、距離を詰める。
「【極刀】!」
スキルを発動すると同時に、刀身からエネルギー的なエフェクトが伸びる。攻撃力が強化されると同時に、このエフェクトは刀身扱い、つまり【貫牙剣】の効果が乗る。
そのまま刀を振り下ろそうとする。アポロさんも【極刀】を発動させてこちらへと振ろうと動いている。
アポロさんの一撃を避け、俺の振り下ろした刀はほぼ理想通りにアポロさんの左腕を切り裂いた。そして次の瞬間には自分の視界がずれるのを認識し、そのまま暗転した。
「あれ、避けたよな……?」
アポロさんの攻撃を避け、腕を斬り飛ばした。そして次の瞬間には……あれ、囮だったか?であれば追撃で決められたのも納得出来るけど、それなりに体勢が崩れたはずだからそれにしてはスムーズすぎる気がする。後で聞けたらきくか。
訓練場に戻ろうとすると、何故かアポロさんも現れた。
「あれ、何で?」
「腕が多少消し飛んでいたので、コトネさんでも時間がかかるとの事で、それでしたら1度死んだ方が速いと思いまして」
「ああ、なるほど」
来た理由に納得し、一緒に訓練場に戻る。まあ特に何も無く、そのまま手続きして終わった。シャーロットはメイドさんに引きづられていった……南無三。
「はい、反省会〜」
「まあレベルと経験と……いや全部じゃね」
「まあそうだよね」
「いえ、それでしたらもっと早く勝てるはずなので……」
「そうだとしても、大体の点で負けてちゃあな。そうすぐ埋まる差でも無い」
武術やってるなら、ゲームの経験で埋まるなら世話は無い。目標としては勝てるより、良い勝負が出来るという事にしておいた方が健全だな。
「俺としては敗因より、3つ目のエクストラスキルの概要が知りたいんだが……大丈夫です?」
「ああはい、【瞬測圏】の事ですね。ざっくり言うと、未来予測に近いです」
「はい……!?」
「え、実現可能なのそれ?」
詳しく聞くと中身は言葉に力負けしている様で、僅かに予測できる動きがずれて見えるらしい。アポロさんからすれば思考の補助程度な様で、場合によっては邪魔なんだとか。それに同じコンピュータ処理のモンスターやNPCならともかく、プレイヤー相手だと間違う事もしばしばあるとか。
シビアと言うか、慣れれば役に立つんだろうけど、扱いが難しいところだな。SPの消費も激しいらしく、最後に万が一があれば割と厳しかったとか。
「それで反撃あんなに速かったのか」
「体の動かし方が決めやすかったですからね……上手く嵌って良かったです」
「そうですか……」
まあ思う壺だったという事で。個人としてのプレイヤー最強に立ち合え、3つ目のエクストラスキルまで出せたのだから御の字としよう。とりあえずレベル上げだ。




