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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第八章 天は高く、奔走せよ
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第十九話 この前騎士団長と戦ったばっかりなんだけど


「うわとはなんじゃ、うわとは」


「いやいきなり現れればそう言いたくも……というか良く聞こえたな」


「耳は良いのでな」


「そういう問題か……?」


 いきなり現れたシャーロットに驚いたので、思わず声に出てしまった。それでも声量は小さかったはずだが……まあ聞こえてしまったものはしょうがない。シャーロットは今更そのぐらいで怒りはしないだろうし。

 シャーロットは窓から部屋の中へと降り、ソファへと座る。ついいつもの調子で菓子を出してしまったので、そのまま菓子を食べ始めた。まあ菓子自体は大したものでは無いから別に良いとして……話は聞かせてもらったと言うなら何か案があるという事のはずだが。


「それで?」


「ああ、模擬戦じゃな。それならほれ、この前の訓練場で行えば良いじゃろう。騎士団も1日中あそこで訓練をしている訳では無いからの。模擬戦1戦ぐらいなら余程長引かなければ使える余裕はいくらでもあるのじゃ」


「ええ、でもこの前だって使う時に手続きしたけど、結構面倒だったじゃないか」


 色々書かれた書類1束を渡され、あっちらこっちらに名前を書いた。シャーロットという王族のコネを使っても、そんな微妙に面倒な手続きをして短い時間使える……という場所だ。翌日に使えたのも時間の空きがあったという話だし、今から手続きをしたとしても、最短で明日だろう。そうさっと提案するものでは無いはずだが。


「その事でな、この先お主らで無くとも、探索者が使う機会もあるかもしれない。騎士団の訓練の合間で良いなら有効活用にもなる。訓練場の立地なら、最低限の信用さえあれば通しても構わないし、そもそも近くには騎士団がいる。それに多少料金を取っておけば貸す価値はあるはずだ……という事での。昨日手続きの簡略化、探索者の使用に関するあれこれが可決されたのじゃ。まあ公式に流布はまだなのじゃが……お主らで試しとなればこちらも都合が良い。あ、料金はいらんぞ。詰める事はまだあるらしいからの」


「そんな事になってたのか……随分と都合が良いな」


 経緯としては分からなくもないが、今の状況からすると都合が良すぎる。これで得するのはアポロさんだけ……いや、それは良いとして、これシャーロットは抜け出した口実作ろうとしてるよな。抜け出したんじゃなくて、サンプル連れてきましたよ、信用もありますよ的な。


「つまり、今すぐにでも訓練場を借りられるかもしれないという事ですね……!?」


「まあ確認してみないと分からんがの。まあ……大丈夫じゃとは思うが」


「それは良いですね……!」


「え、いやまだやると言った覚えは……」


「え……」


 確かに暇は暇だし、場所の都合もつきそうになっているが、模擬戦をやる事が決定事項になっている様な……あー、しゅんとしないでください。みんなもあーあ泣かせた見たい顔で、あ。


「お前いつからいたんだ」


「え、ついさっき普通に入ってきたけど」


「あ、そうなの……」


 いつの間にかショウが部屋の中にいた。気づかなかったのはどうやら俺だけの様だ。本当に気づかなかった……話がズレた。

 まあ勝手にやる事になっていたから訂正しただけで、実際によく考えてみれば普通に興味がある。PKじゃない対人戦の機会なんて中々無い。この前の騎士団長とのは色々制限あったし、夏イベの時のイプシロンさん以来だ。4次職になったし、多少は通用するはず。と思ったけど、イプシロンさんとアポロさんを比べるのは何か違う様な。


「まあやりますか……」


「ええ、そうしましょう!」


「それなら妾は話を通しに先にゆくぞ!すぐに来るのじゃぞー!」


 そう言ってシャーロットは出て行った……窓から。

 とりあえずチェスを片付け、王城へと向かう。門番の人は先日の時と同じ人だった上に、シャーロットのいつの間にか話を通していた様で、すぐに入れた。そのまま訓練場の方へと向かうと、シャーロットとメイドさん、騎士団長に副官さんがいた。


「来たか。久しぶり……という程でも無いか」


「この前会いましたからね……それで」


「ああ、2人にはこの書類にサインをしてもらいたい」


 そう言って騎士団長は1枚の紙を渡してきた。1枚で良いのか……前と比べたら断然楽だな。

 ウィンドウのイエスノーで簡単にいかないのは国の施設だからというべきか。まあ何にせよ名前書くだけだから楽ちんだ。

 一応書類の中身を確認しても、ここを借りる為の簡単な事しか書いていない。金額が書かれているが、上から消されているのはタイトルの末尾に試験用って書いてあるからだろうか。金額自体もプレイヤーから見れば大した額では無く、これなら借りたいというプレイヤーは多いだろう。俺とアポロさんみたいに模擬戦で無くとも、安全で広いスペースは需要がある。大概はモンスターとのエンカウントが少ない所で行うから。


「……うん、これで大丈夫だ。存分に戦ってくれ……と言いたいが、周りには最低限注意してほしい」


「あ、はい……」


「分かってます」


 騎士団長はどちらかというとアポロさんの方を見ている。まあ威力の高い技がある事は知っているのだろう。丈夫には出来ている様だが、破壊不能オブジェクトでは無いので壊そうと思えば壊せる。まあそれも含めて試験なんだろうな。破壊力の高いアポロさんと、一応何でも斬れる俺はぴったりなのか。


「では移動しようかの」


「それは良いが、シャーロット。お咎め無しにはならないからな」


「なん……じゃと……!」


 まあそれはそうだろうな。この程度の思惑がバレないはずがない。そこはまだ子ども……いやそれぐらいは察しているか。


「では私も端の方に……」


「いえ、団長は引き続き仕事を」


「……ほら、試験だから責任者として見届け……」


「シャーロット殿下で十分です」


「むう……」


 副官さんにそう言われ、騎士団長は一緒にトボトボと去っていた。大人は大変だなあ。

 気を取り直して、俺とアポロさんは訓練場の真ん中に、他のみんなは前と同じく端の方に寄っていく。


「あ、流石に『黒炎』は使いませんので」


「それはまあ。こっちは……『反剋』はそもそも使えないし」


「そうですね。ただ他のスキルは全て使い……使う可能性はあります」


「そうですね」


 アポロさんのエクストラスキルは3つ。その内2つは知っているが、状態異常回復の方については使う機会は無いだろう。毒ナイフとかは持っていないし、そも習熟していない投げナイフなんて使わない。すぐに躱されて斬られておしまいだ。最後の1つは知らないから要注意だな。ジョブスキルについては……確か今はサブジョブは『侍』のはずだから、把握済み。アポロさんは大体のジョブのスキルの概要は覚えているらしいから、使いどきは考えないと。他は……考えるとキリが無い。そもそも刀1本しか使わないって話だから、余程変な事をしてこない限り視認出来る。避けられない体勢という事はあり得るので、まあそれはしょうがない……こんなもんかな。


「じゃあ始めましょう……!」


 アポロさんは腰を低くし、抜刀の姿勢を取る。最初に使うのは確実に【抜刀】、【泡砲鋏(ヴィクリス)】を併用するかもしれないが、どちらにせよこちらに届く。速度では勝てないので、こちらは刀を抜き、構える。


「あ、開始役おらんの。じゃあ妾がやるぞー!」


「あ、お願いします」


「頼んだー」


「ンンッ……では、始め!」


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