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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第八章 天は高く、奔走せよ
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第十七話 差は遠く


 開始の合図が出されたが、騎士団長は動かない。当然こちらも動いていない……というか動けない。素人目にも隙が無いとはこういう事か。

 攻撃を受けた事も、共闘した事もあったが、いざ目の前に立たれるとこうなるのか。何処から斬り掛かっても捩じ伏せられそうな気がする。ゲームとはいえ、中々にヒヤヒヤするものだ。

 しかしまあ、殺し合いでは無く試合なので打ちあわないと何にもならない。ここで下手に時間をかけるのはどうかと思うので、腹を括り少し深めに呼吸をする。


「ふう……【刺突】!」


「ふっ!」


「ぐっ……っとぉ!」


 スキルを発動して、最短で騎士団長へと刀を突き出す。しかし剣の腹で受け流され、そのまま首を狙って来た。避けられる、もしくは受け流され反撃が来るのは予想通りだったので体を逸らしてその一撃を避ける。まあステータス差が割とあるせいでギリギリだった。鼻先を掠めて前髪が多少斬られるという漫画みたいな事になったが、幸いダメージは無い。いやあ、ヒヤヒヤするな。

 すぐさま後ろに飛び、体勢を整える。追撃は来ない様だ。


「なるほど、斬ったと思ったのだが……あの時より成長している。やはり探索者は成長が早いな」


「流石に一撃でやられると困るからな……危なかったけど」


「こちらも出来れば日が暮れるまで剣を交えたいものだ」


「……多分その後普通に仕事をさせられると思いますけど」


「む、むう……やはりそうか」


 余裕があるな……そりゃそうか。エクストラスキル抜きならいつでも殺せるのだろう。あと仕事がある事は諦めてほしいものだ。


「それでは今度はこちらから行くぞ……!」


 騎士団長が剣を構え直す。先程のは見切れたけど、次はどうなるか。そもそも完全格上と戦闘するのがアレなんだよなあ……挑戦とはまた違うというか。でも、最近格上との戦闘多いんだよなあ、ありがたいと言うべきなのだろうか。

 騎士団長はスキルを使わず、こちらへと斬り掛かって来た。スキル未使用なのにこの速度か。避けるのは間に合わないので刀で受ける。カウンター系スキルで受けるべきだった……一撃がクソ重い。

 上からの攻撃だったのでこのまま押し潰されては敵わない。無理矢理剣を横に弾き、下から斬り上げる。ただ雑な攻撃になった為、これもまた刃が騎士団長に届く事は無かった。

 そこからは攻守を交代しながらの打ち合いとなった。俺の攻撃は難なく受け止められ、騎士団長の攻撃は本気では無くとも必殺に近い。本気では無いからこそ何とか負けない様に立ち回れているが……騎士団長がもう少し力を出したら普通に負けるな。思っていたより差が広い。さて、どうしよう。


「【ディケイブースト】!」


「ぬっ、いやこれぐらいなら……!」


 スキルを発動して、上段から思い切り刀を振り下ろす。いつもより多めに耐久値を削ったお陰で、騎士団長の体勢が少し崩れた。

 騎士団長の剣は両刃剣、押し込まれれば自分にも傷がつく。一瞬押し込めたので騎士団長の左肩に少し傷がつき、血のエフェクトが滲んだ。しかし、スキルの効果は消え、押し返され間合いを離される。


「ふう、少し驚いた」


「傷をつけられただけでも良しとするべきか……今更ですけど大丈夫です?」


「ああ、このぐらいは気にするものでも無い。傷がついて困る服など着ない上に、ポーションを飲めば傷は残らないからな」


「まあ……そうか」


 視界の端で副官の人が微妙な顔をしているが……どういう理由かな。下手に気を向けるとすぐに斬られそうだから考えるのは止めておこう。思考を切り替えないと。

 とりあえずAGIは同じぐらい、先程はぐらいの【ディケイブースト】を使えば一瞬ちからは上回る事が出来るけど……何回も使うと刀が折れるしな。ジョブスキルしか使えないし、騎士団長は内容ぐらい頭に入っているだろうから下手に使うと悪手だ。ここからどうするかな、目的の条件が漠然としているのがなあ。


「さて、行くぞー」


「あっ、【朧流し】!」


 少し考えるのに集中しすぎた。騎士団長が気楽に向かって来た事も反応が遅れる原因になった。スキルで何とか逸らしたが、体勢が崩れる。騎士団長は雰囲気を戻し、続く第2撃で袈裟斬りを繰り出す。体を捻り回転する事で何とか致命傷は避けたが、左腕を少し斬られた。

 体勢が崩れたまま体を捻り、剰え回転するとなると方向感覚が全く分からなくなる。騎士団長もそんなあからさまな隙を見逃す事は流石にしない様で、3撃、4撃と攻撃を繰り出してくる。

 こちらも何とか避けようとしているが、第2撃を無理矢理避けたせいで体勢がやばい。視界の端で攻撃の軌道が見えている為、擦り傷程度に済ませられている。ただ、攻撃が続くせいで割とテンパっているので状況のリセットが全く出来ずに無様に転げ回っている。後で色々言われそうだなあ。とりあえず早く何とかしないと。


「おりゃあ!」


「むっ……!」


 転げ回る間に腰から鞘を抜き、逆手に持つ。刀が剣に当たる様に調整し、弾いた後鞘で殴りつける事で騎士団長との距離を離す。数歩下がってくれればありがたかったのだが、1歩下がるだけで後は体を逸らす事で鞘を避けた。

 まあ1歩下がる時間を作り出せはしたので、地面を蹴り距離を離す。急いで立ち上がり、体勢を整える。騎士団長に目を向けると、もう剣をこちらに突き出して近づいて来ていた。刀と鞘を合わせ、何とかそれを受け止める。金属が衝突する鈍い音が鳴る。鞘も金属というか、丈夫に出来ていて良かった……若干罅が入っているみたいだけど。後でクルトに謝らないとな。剣を受け止めるなんて鞘の使い方じゃ無いし。

 騎士団長は即座に剣を引き、俺の腰あたりを狙う様に薙ぎ払った。しかし身を引いた状態での薙ぎ払いなら少し後ろに下がれば簡単に避けられる。追撃が来る前に鞘を差し直そうと焦るが、追撃は来なかったのでゆっくりとしまう事ができた。


「……流石にああなると仕留められると思っていたが……こう、言い方は悪いがしぶといな。割と急所を狙っていたんだが」


「それはどうも……目は良い方なんで」


「ああ、聞いている」


「誰から……?」


 うーん、ショウ……いやいや。まあ俺の戦闘風景を知っているのは結構いるし、伝わっているのは不思議じゃないか。


「さて、少し時間も経ったと思うのだが、そろそろ決着をつけないか?」


「あー……そうですね」


 横目でウィンドウを確認してみたら、20分ぐらい経っていた。もうそんなにか。ぶっちゃけ今の騎士団長の手加減具合だともっと時間がかかりそうなので、提案は有難い……どうせ負けるし。これ自体先達に胸を借りる様なものだ。


「では行くぞ」


「うっわ……やばい」


 騎士団長からの威圧感が数倍以上に膨れ上がった。重要NPCと言えども、仕様自体はあまりプレイヤーと変わらないはず。レベルで言えば10の差だし、スキルも大して変わらない。経験とかそういう奴か……凄いな。

 最後に無様を晒さない様に気合を入れ直し、刀を握り直す。

 次の瞬間、目の前に騎士団長の剣の鋒があった。仕様には無いはずの冷や汗を感じながら、頭を傾け、左耳を斬られながらも、刀を振るう。騎士団長はそれを半身になって躱し、突き出た腕を剣で断ち切った。結構丈夫な装備なんですが。

 腕を装備ごと斬られた事に驚いていると、首に騎士団長の剣が当てられた。


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