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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第八章 天は高く、奔走せよ
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第十六話  これ以上ない相手


 現実では少し肌寒くなり、上着を持っておいた方が良い……というぐらいの気候になった今日この頃。学校では定期試験が終わり、また大手を振ってゲームをプレイできるようになった。もちろん日々課題は出されるので、それが終わってからの話だけど。


「終わっ……たー!!」


「ん?ああ、終わったんだ。お疲れさまー」


「おめでとうございます……それなら後1つでしたっけ?」


「そうだな……はー、やっとだ」


 終わったというのは、4次職の条件、1人でこなせるものの事だ。ついテンションが上がり、談話室に入るなり、そう言ってしまった。部屋にいたのはショウとコトネさんだ。ポーションが並んでいたから試作品かな……ベルフェゴールは相変わらず寝ていた。

 レベル90に到達するのも大変だったし、何より数が多い。刀だと相性が悪いモンスターもいたからな。大体【貫牙剣】で対処出来たから良かった。本当に便利だな。飛ぶ系のモンスターも【空走場】で何とかなったし。  そもそもコツコツやるものだからなあ……先にレベルが90に到達したから、その後の経験値が無駄になった。

 とにかく、これで1つを残して条件は達成した。問題は残りの1つだが……それは相手も場所も伝手があるから何とかなる。アポをとって……近いうちに出来るだろう。






「まあ、まずはおめでとうと言っておくかの」


「ああ、ありがとう」


 翌日、俺の前に座りケーキを食べているのは第3王女のシャーロットだ。

 4次職就職の為の最後の条件は、「近接戦闘系4次職のNPCもしくはプレイヤーと1対1の戦闘を行い、力を証明する。」というものだ。力を証明するというのが中々アバウトで、判断基準がよく分からなかった。知り合いの4次職に聞いたところ、NPC相手にしろプレイヤー相手にしろ割と真面目に戦えれば勝っても負けても達成出来るそうだ。プレイヤー相手でも良いなら割と緩いと思ったが、真面目にという点が中々引っかかるらしい。条件が達成出来なかった事例があったりしたとか。それに対して NPC相手なら余程お粗末な戦いにならない限り達成出来たという。話を聞いたイプシロンさんやアポロさんもその戦闘では負けたが、達成して4次職に就いたようだ。

 結局はNPCを相手にしてもらった方が確実という事なので、昨日シャーロットに頼み、場所と相手である騎士団長の予定を空けてもらった。翌日になったのは意外だったけど。団長なんだから忙しいはずだろうに。

 そして何故かシャーロットもここにいる。アポは許可証という形で昨日貰ったし、シャーロットがここにいる理由は全く無いのだが……まあ王女様を使って色々した対価だと思えば安いものか。トリモチさんのところのケーキだって最近割と買える機会が多かった。そのおかげで最近現実で洋菓子を食べる機会が少なくなっている気がする。これは果たして大丈夫なのか……食事じゃなくて菓子だから大丈夫かな?

 話を戻して、今日の用件だが、そろそろ屋敷を出た方が良いという時間になった。ちなみに場所は王城に併設された訓練場だ。


「ふう、食った食った」


「お行儀が悪いですよ?」


「この場ぐらい良いじゃろ……そうじゃ、姉上じゃなくてもナタリーでも良いのではないか?」


「い、いやそれは遠慮しておきます……そも予定空けてもらってるんだし」


「そうかの」


 騎士団長の方が弱そうだと思っているわけでは無い。メイドさんの方だと、戦闘スタイルからして条件を達成出来ない気がするのだ。力量差があるせいで何も出来ずに終わり……なんて事は普通にあるだろうし、それで条件を達成出来なかったなら時間の無駄だ。それなら普通に戦闘になる騎士団長の方が余程良い。あと何か普通に怖い。

 雑談を終え、いよいよ移動する。そういえば、王城に行くのは久しぶりだ。最後に入ったのは、土地神の件の報酬の時だから……2ヶ月ぐらい前になるのか。まあ別に入る事自体何かある訳でも……いや入れる事自体凄いか。普通入れるもんじゃないもんな。そもそも入った事のあるプレイヤーがどれだけいるのか。そう考えると割と伝手とか凄い事になってるわけか。えっと経緯としては……コトネさんのおかげか。後で拝……むのは違うから、何かしら考えておこう。


「さて、こっちじゃな」


「改めて広いな、ここ」


「まあ城じゃからの。それに色々と……あるのでな」


「色々?」


「それは秘密じゃ」


 ニュアンス的には、物というよりかは仕掛けかな。こういう所によくある脱出用の地下通路とか、避難所とかそんな感じだろう。

 それより気になる事といえば、屋敷に住んでいる全員が後ろにいる事だ。


「何で全員いるんだ?」


「そりゃあ、見たいからね」


「見なくて良いだろ……負ける気でやるつもりは無いけど、普通負けるだろ」


「が、頑張って下さい!」


「それは、まあ、うん……」


 コトネさんの応援はありがたいけど、これで俺が勝ったら逆に騎士団長かやばい事になる。いやエクストラスキルを使えば多少可能性はあるだろうけど。普通は持っていないものを使うのは何か違う気がするし。『反剋』に至っては使えるか分からない以前に、今回使うべきでは無い。


「まあこっちは暇潰しだけど」


「はっきり言うなあ……」


「私は、あなたの戦う姿をまだ見てませんから」


「ああ、そういやそうか」


 ウリエルはあの時正気じゃ無かったしな。ガブリエルの時だって死にかけた所に駆けつけたって感じだし、あの時は普通に弱かったし。

 まあ見る事自体は止めようが無い。負ける可能性が高い試合を見られるのは恥ずかしいが……力量差があるのは瞭然だから、無様を晒さなければまだ良いか。騎士団長なんてモモやクローナみたいな特別なのを除けば、最強格に位置するはずのNPCだからな。

 とりあえず条件さえ満たせればそれで良いのだから、胸を借りるつもりで全力でやれば良い。

 訓練場の敷地に入ると、騎士団長ともう1人が立っているのが見えた。


「姉上ー!連れて来たぞー!」


「ああ、ありがとうシャーロット」


「えっと、この度は時間を割いていただき……」


「いや良い。コウには恩もあるし、普段世話になっている……シャーロットが」


「ああ……」


「このぐらいであれば、お安い御用だ」


「ちなみに騎士団長はその分仕事をしなくて良いと思っています。実際はそんな事はありませんが」


「えっ、そうなのか!?」


 何か一気に印象が。流石妹におつむが弱いと言われる人だ……正直に反応するのは不味いと思いますが。

 そんな騎士団長の心情をバラした人は副官のジキルさんだ。前に1回会った事がある。


「うぐぅ……と、とりあえず始めようか……」


「よ、よろしくお願いします……」


 仕事が減らないと聞いた騎士団長は一気にテンションが下がっている。これで勝てる可能性は……流石に無いか。何しろ、訓練場の真ん中で向かい構えた瞬間に空気が変わった。そこにはさっきまでの抜けている人の印象は全く無く、凛とした女性騎士がいた。

 こちらも切り替え、真剣に刀に手を置く。少し離れた所には審判役としてジキルさんがいる。


「それでは両者……始め!」


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