第二十一話 お家チェーック
「アハハハハハハハ!」
ショウに昨日起こったことをかいつまんで説明したところ、折角先の町へ戻って行ったのに急いで戻って来た様だった。そして改めて詳しく説明したところこの有様である。
「笑いすぎじゃね?」
「い、いやだって、ひっ、どう行動したらそんなことにぶふっ、お腹痛い、騒動に愛されすぎじゃない?」
「別に観光してただけなんだけどな、その状況だったらお前だって助けに行くだろ?」
「そうだけどさあ……流石に王女様を助けることにはならないでしょ」
俺だってそうなるとは思ってなかったよ……巡り巡って大金と屋敷貰うしさ、今所持金6000万Gだよ?あるに越したことはないけど使い道が行方不明だ。まあ高い性能の武器とか買えばすぐ溶けるか。キニシナイキニシナイ。
「これから見に行くんでしょ?連れてってよ……もうクランとか作るのかい?」
「確か条件の1つは6人以上だろ?コトネさんやクルト達誘っても5人じゃないか」
「……アポロさんは?いや基本ソロだしそれはないか」
あの人の場合、クランに入るメリットが無いからなあ。クラン単位のイベントにも興味が無かった様だしな。
「す、すみません、用事が少し長引いちゃって」
「いや時間ぴったりだから大丈夫ですよ」
3人……ショウは勝手に来ただけだからコトネさんが来たので件の屋敷の場所へと進んで行く。昨日権利書と一緒に高級地の通行証と地図も貰ったのでそれを見ながら歩いて行く。高級地だけあってでかい家が多いなー。家っていうか豪邸だな、俺たちが向かっている屋敷もこんな感じなのだろうか?屋敷は大分王城に近いところにあった。案の定屋敷はとても立派なものだった。そりゃあ1人じゃ確実に持て余すな。
「……ねえ、あれ確かこの国の王女様だよね?」
知らない知らない、門の前で腕を組んで仁王立ちしている第三王女なんて知らない。なんでいるんでしょうか?公務とかあるんじゃないの?
「今日は少なかったのでな!頑張って午前中に終わらせたのじゃ!」
そうですか、お付きさんはこれで良いんですか?王女様の少し離れた所に立っているメイドさんに尋ねる。雰囲気が明らかにカタギじゃ無いんだけど……護衛とかそういう役目の人なんだろうなあ。自分がいれば公務を終わらせて多少なら外に出てもいいのだそうだ。やっぱり脱走するからいけないんじゃない?スリルがたまらないのじゃ、って子どものいうことじゃないでしょ。メイドさんすごい形相で睨んでますよー。
「ま、まあこんな所に立っていても仕方がない!わらわ自らが案内しようではないか!」
気にしてもしょうがないか、王女様を先頭に屋敷へと入っていく。まず入るとホールだった。アニメとかでよくみるけど実際に見てみると広いなあ、VRだけど。左は食堂の様でこれまたテンプレな長いテーブルが置いてある。白いテーブルクロスとか掛けて燭台とか乗っけるといかにもといった感じになるだろうな。その奥は立派な厨房だった。フランベとかできそう、プロの調理方法フランベぐらいしか知らないから、この説明じゃ多分伝わらないか。1階の反対側は化粧室と風呂場だった。
「うわあ、これは凄いですね!広いです!」
広いトイレ、広い風呂場、庶民には慣れない感じだな、コトネさんのテンションが急上昇しているからここは任せても大丈夫かな。
後は使用人室や客間だった。机の1つ2つはあったが引っ越しでほとんど持っていったのだろう。続いて2階だがほとんど普通の部屋だった。騎士団長が国王から下賜されたときに一通り調べたそうで大した仕組みもなく普通の屋敷だそうで。これで屋敷の中は大体回ったことになる。
「あの、あれはなんの建物ですか?」
全員でバルコニーに出て荒れた庭を見渡しているとコトネさんが頑丈そうなレンガで作られた小屋を見つけた。
「む?あれは……あれはなんじゃ?」
バルコニーの柵から身を乗り出した王女様が振り向きメイドさんに尋ねる。メイドさんによるとあれは鍛冶場の様で騎士団長の前の持ち主の友人の鍛治士が使っていたそうだ。金具や調理器具などを直していたようでその割には結構ちゃんとした設備になってるとか。
「うん、プレイヤーには大分都合の良い屋敷だね。大体の生産職は機材を置けば普通の部屋でも大丈夫だけど、鍛治士はそうもいかないからね」
せっかくなので後でクルト達も誘うか、借りるのではなく自分のスペースがあればレベル上げも効率良くなるだろうし。
「さて、案内もこんなものじゃの。姉上は使ってなかったがこの屋敷は良いものだったじゃろ?」
「確かに住む以外にも色々と便利そうだな……今更だが本当に貰って良いのか?」
「本当に今更じゃな、権利書も更新されておるし、正真正銘お主達のものじゃよ」
じゃあありがたく貰うとするか。プレイ開始1ヶ月もかからずに一国一城の主となるとは……コトネさんと連名だから半国半城?王女様はメイドさんにそろそろ、と伝えられ王城へと帰っていった。また来るぞー、といっていたがどうすりゃ良いんだ。
「いや改めて凄いね。敷地はもう少し広いけどトップクランと同じ規模だよこれ」
「コトネさん何かしたいこととかある?一応今小金持ちだし」
「う、うーんとやっぱり寂しいので家具とか置きたいですけど……あ、拠点にするならベッドとかですかね、あとは追々……」
町の中で宿代わりのセーブポイントを作るにはまずベッドが必要みたいだからな、まず必須なのはそれか。家具も下手なのを買うと部屋から浮きそうだからなちゃんと考えて買わないとな。2Dのゲームのハウジングとかだとてきとうに置いてごちゃごちゃしたまま放置したことがあるからな、どうせだからこだわってみるか、この屋敷に見合うものだと高くつきそうだが。
「ふむ、ベッドねえ……やっぱり2人で寝れるぐらいの?」
「そうですね、いつかは……え"。い、いいいい、いやそのそういう意味ではなくてでして、その……そう!この屋敷の部屋は広いので大きいベッドも置けるかなと思いまして!」
「ああ、確かにそれは夢がありますね、良いと思いますよ」
せっかくのゲームだからな、リアルでは中々実現できないことをしたいと思うのは普通のことだろう。それにそれを実現できる機会があるなら実践するべきだろう。キングサイズとかのベッドを置ける部屋がある家なんて、現実だったら家賃がいくらになることやら。確か生産職の派生に建築関係があったから家具とかも取り扱っているんじゃないか?NPCの店にも1件ぐらいそういうのはあるだろうし。
「ちなみに相応のベッドの大きさがあれば複数人でもログアウトできるんだよ」
「それなんの意味があるんだ?雑魚寝?」
「……ま、まあそうだね。クランの人数が多くなった時の部屋の節約とかだね…………チッ、ここまで言って気づかないか」
「ん?なんか言ったか?」
「イヤナニモ」
まあいいや、早速セーブポイントとして使いたいからとりあえずベッドだな。ショウは結局用事を中断して来たのでさっさと戻って行った。家具が売られている場所は縁がなく流石に知らないと言っていたのでPCAの建築部門の場所を聞きそこへと向かった。期待通り色々と家具が売っており、その中にはベッドもあったのでコトネさんとそれぞれ気に入ったものを購入した。大きいベッドがどうとか言っていたけれど結局は普通のサイズのベッドにしたそうだ。天蓋付きのやつとか値段が桁違いだったからな、誰用に作ったんだろうか。その後はコトネさんにベッドを任せ、俺はクルト達の様子をうかがうことになった。最初俺が配置した方がいいかと思ったが今のSTRなら全く問題ないから任せてくれと言われコトネさんに預けることとなった。
「ここが鍛治部門か、でかいな」
建物への中へと入り受付のNPCがいたのでクルトというプレイヤーがいるか確認してもらう。ログインしているのはフレンドリストで分かっているので作業中だったら申し訳無いが呼び出してもらった。
「コウさんどうしました?新しい武器ですか?今なら多少レベルも上がりましたよ」
そういやそろそろ装備とか更新しようかな。まあそれは追々すればいいのでクルトが借りている鍛冶場に入れてもらい用件とこれまでの経緯を説明した。
「コウさんって結構波瀾万丈ですよね」
「なんか知らないうちに大事になるんだよな……」
「それで……その提案はとてもありがたいですけど、いいんですか僕達なんかで」
良いも何も、ぶっちゃけて言えばこのゲームは半年経つため高レベルの生産職はほとんどがクランに所属していたり逆にどこにも所属しないスタンスだったりするため勧誘しようが無い。そもそもそういう生産職は自分の作業場を持っているだろうから屋敷に来るメリットが無いだろう。そういうわけで人となり
が分かっている2人の方が安心できる、良い装備も作ってくれそうだし。
「あ、けどまだぼくもアゲハも勉強中の身でして」
ああ、色々学んでいるんだっけ。じゃあそれが終わってからでも全然良いか。
「別に教えるのにここに所属する必要はないわよ〜」
そう話したのは扉の所に寄りかかった女性だった。どちら様?




