第十四話 断ち切り
「不味いですね……」
「そうだな」
「いえ、ウリエル自身が、です。このままでは燃え尽きて死んでしまいます」
「え、そっちが?自爆みたいな?」
「自爆とは少し違いますね。元々ウリエルの力は出力の上限がありません。本人がどうなろうと、威力はいくらでも上げられます」
「自傷アリの能力かあ……」
「幼い頃は調節が効かずによく火傷していました……」
「え、あ、うん……それで、問題の時間は?」
「おそらく……あの状態だと10分程でしょうか」
「10分……短いというべきか……とりあえずモモ達と合流しよう」
「お願いします」
ウリエルもまだ動く様子は無い。猶予はあまり無いが、考える時間をくれるのは嬉しい。『反剋』の時間を引き伸ばすためMPポーションを飲みながらモモ達の方へと降りていく。大規模な魔法を使ったからか、モモのポーションを飲んでいるみたいだ。最大値を考えると焼け石に水の様な気がする……いや回復しとくに越した事はないか。
「あ、マスター……無事だったかい」
「少し驚いたけどな」
「余裕はあったろう?」
「まあなー……で、どうする?」
「端的に言うと、マスターに頼るしかないね。こっちは威力を上げたところで効きづらい、上げ過ぎるとウリエルが不味い事になる」
「そんでクローナは完全物理だから……まあこれ以上となると【貫牙剣】か」
「けど、それだと斬れ過ぎませんか?」
「そこなんだよなあ……」
倒すのが目的なら力任せに刀を振れば良いのだが、目的は無力化だからなあ。そんなに細かい調節は得意じゃないし、相手はもちろん避けるなりして動くだろう。やり直しがきかない状況……博打だな。
「……それでいきましょう。マスターがウリエルの体を真っ二つにしなければ、コトネの回復で何とかなるはずです……よね?」
「ああ、本当にすぐに対処しないと無理だろうけど……それはこっちがフォローすればいいか」
「せ、責任重大ですね……」
「こっちも斬り過ぎないか不安だけど……やるしかないか」
「大丈夫です。機会は私が何としても作ります」
「……自己犠牲とかは無しな?」
「はい……ギリギリ大丈夫か、と?」
「ふ、不安だ……!」
何をするのかは知らない……いや予測出来なくもないけど、1人助けて1人失うのは流石にちょっと。俺がちゃんと成功させれば良い話だが……腹括れば良いか。
「じゃあよろしく」
「まあ頑張るよ……【貫牙剣】」
「では私も……コトネもよろしく頼みます」
「はい、分かりました!」
モモにバフをかけ直してもらい、クローナとウリエルの元へと走る。ウリエルは近づいて来る俺達に反応し、刺突の体勢を取る。予備動作は強化された今でも分かりやすいが、それ相応の威力が出る為、過剰に避けないと普通に焼け死ぬ。
そして放たれた熱線は予想通り、俺に向かってきたので、前と同じく刀で受ける。ポーションは何本か飲んでいるが、それでも残りは心許無くチャンスは2度あるかは怪しいレベルだ。そもそも1度で成功させれば良い話……!
熱線を横に受け流しながら進んでいく。確かに威力は跳ね上がっている。しかし受け流す為の力は思っていたよりも少なく、減速する事なく近づける。
どちらにせよ先に辿り着くのはクローナの方で、ウリエルへと攻撃を仕掛けた。ウリエルは熱線を俺の方へと放出したまま手元を動かし、炎の剣でそれを受け止める。
「まともに当たったのに、びくともしないのかよ……!」
クローナも続けて攻撃するが、全く効いていない。接近しているため熱のスリップダメージが入っている。これ以上速度は出なくても少しでも早く近づく様に足に力を込める。
「【ディケイブースト】!」
そして熱線の根元である剣を一気に弾く。ここでウリエルは初めて炎の剣を両手で持ち、その炎の大きさは倍以上に膨らんだ。しかし炎の剣がこちらに振られる前に俺の刀はウリエルに届く。そこは良い、ここで重要なのはウリエルを仕留めずに重傷を負わせる事。どう斬れば良いかと思った瞬間、クローナがウリエルを羽交い締めにした。ゼロ距離にいるせいでクローナのHPが急速に減っていき、肌も焦げていく。まあ無理をすると思ったが、今は動きが止まったウリエルを斬るしかない。
ウリエルはクローナから逃れようと抵抗しているが、ここでモモによる様々な属性の拘束系魔法がウリエルを縛る。その殆どが熱のせいで数秒も持たずに消えていく。だが絶えず新たに発動し、結果的に拘束を可能にしている。
スリップダメージの感触に耐え、体勢を気持ち整える。そしてウリエルを袈裟斬りにする。ウリエルから大量の血のエフェクトが出て、炎の剣、纏っている炎共に消え失せた。
「コトネ!」
「コトネさん!」
「はい!」
ウリエルが崩れ落ち、羽交締めにしていたクローナがゆっくりと寝かせる。コトネさんはモモが運んできたので、呼ぼうと振り返った瞬間にはもう既に近くにいた。これまでそこまでMPを消費していなかったコトネさんはここぞとばかりに回復魔法を連発してウリエルにかけていく。
こちらはこちらでできる事は無いのでクローナにポーションをかけていく。モモは何やら魔法で傷口の辺りをわちゃわちゃしている……まあ縫合的な補助だろう。
クローナの方は思っていたよりも軽傷だった。HPは減っていたがポーションで何とかなるレベル、火傷もポーションですぐに治った。クローナによると、モモのバフは前提にあるけど装備のおかげだとか。後でアゲハに感謝しないとな……レア素材でも渡せば良いんだっけかな。
それから約10分、ずっと回復魔法をかけ、時にはポーションも使用していたコトネさんはウリエルから手を離し、息を吐いて脱力した。モモは鑑定系の魔法を使っているのだろうか、ウリエルをじっと見つめている。
「コトネさん、お疲れ様」
「はい……出来る事は全てしましたけど……」
「……どうだ?」
「んー……まあ体は大丈夫だね。精神の方も、確かあれは神器に干渉してのもののはずだから、1度止まれば問題無い……と言いたいけれどね」
「確信はありませんね……」
「まあそれはしょうがないだろ。あー……とりあえず帰るか?」
「そうですね。私も動くには問題ありませんし」
ウリエルを除けば1番の重傷であるはずのクローナは何でもなさそうに立ち上がった。実際のところ、殆ど問題無いの確かなのだろう。火傷自体はポーションで治っているから後は2、3日休めばいつもの調子ぐらいにはなるはずだ。
ウリエルをおぶり、人目につかないよう王都の近くまで移動する。流石にこのままで運ぶのは目立つので、何時ぞや使った荷車を走って屋敷に取りに行った。全速力での往復は若干きつかったが、まあ目立つよりマシだ。
そして荷車にウリエルを寝かせ、そういうクエストですよと装いながら屋敷へと到着した……まあついさっきも来た訳だけど。
1度来たのは伝わっているから、玄関にはショウと、ショウにひっついているベルフェゴールがいた。
「やあおかえり……何かまた凄い事になってるね」
「ああ……もしかしてずっと屋敷にいたのか?」
「いや1回野暮用で外に出たけど……ベルがね……」
「あれ、ウリエルじゃん、どうしたの?」
「ミカエルにやられたのさ」
「ふーん……よく生きてたね」
ベルフェゴールはそれだけ言うと、またショウに引っ付いた。まあショウ第一主義だから……にしても、興味が無さそうだな。ミカエルの脅威ぐらいはベルフェゴールも知っているだろうに……まあ良いや。
空いている部屋にウリエルを運び込み、看病出来る様に物を揃えていく。体自体はコトネさんのお陰でほぼ癒えてるから、後は目を覚ますまで問題が無いように世話をするだけだ。その役割は主にクローナで、サポートもコトネさんに頼むしか無いんだけど。快く引き受けてくれて良かった。
とりあえずはイプシロンさんとかに説明だけど……今回はショウについて行こう。ショウは体験していないし、まとめるのはショウにぶん投げれば分かりやすくしてくれる。




