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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第八章 天は高く、奔走せよ
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第十三話 灼熱の中で


「良し、これで動く分には問題無いね……ありがとう」


「いえ、これが私の役割なので。頑張って下さい!」


 コトネさんの回復が終わり、モモは自分の体の調子を確かめる様に動いている。クローナはポーションで済ませた様だ。

 ウリエルは動く気配は無く、息をつく暇があるのは嬉しい。だけどこのままゆっくり出来る訳じゃ無いから、素早く行動しないといけないな。


「それで、どうするんだ?無力化するって言っても色々あるし……」


「そうですね……」


「元に戻す方法はあるんでしょうか?クローナさんの時みたく……」


「いや話が通じないという意味では同じだけど、今のウリエルはミカエルに操られている状況だからねぇ……」


 まあミカエルが天秤を使った結果なのは流れからして理解出来る。問題はそれの解除方法なのだが、モモ達にそれは不可能らしい。


「それじゃあ仮に行動不能にしても意味無いんじゃないか?気絶させても目が覚めたら……」


「いや、永続では無いはずです。強い衝撃を与えれば多分……強いと言っても瀕死にする程は必要になるでしょうが」


「穏便には絶対に無理だろうね。そもそもあれは天使を諌める為の物で、従える為のものじゃ無いから」


「あれ、でも私達にも効きましたよね?」


「主に天使に対してで、一応には殆どの生物には効く……はず?」


「何だそれ」


 言いたくないけど、チートって言いたくなる代物だな。対象に条件があるならまだしも、プレイヤーにまで効くとは。ステータスの違いで効果が変わるとかも無いみたいだし、どうやって対策するんだか。

 ウリエルに関しては、結局戦闘、それも殺すのは不味いので瀕死で止めるという結構な条件付きだ。

 最悪なのは間違って殺してしまう事だ。モモ達からの心象は酷いことになるだろう。強敵相手に舐めプじみた事をしないといけないか……そういうやりごたえは控えめで……いや、やるけども。

 要するにNPC3人が死ななければ良いのだ。命の価値が路傍の石のプレイヤーが最悪盾になれば良い。そもそもモモ達はそう簡単には倒されない実力を持っているし、生き残る事自体は簡単だろう。こちらも1回や2回死んだところで走れば……多分間に合うはず。デスペナルティも2回ぐらいならバフ込みなら何とかなる。


「作戦はどうしますか?」


「え、あー……ガンガン行こう……ごめんなさい」


「あっ、いえ……」


 初めてコトネさんのドン引きした顔を見た。美人にそんな顔をされると割り増しでダメージが……そりゃあね、そんなざっくりした作戦は駄目だよね。


「まあとりあえず攻撃が通じるかの確認と……【貫牙剣(アウラ)】は最後の手段か」


「そうですね……あの状態のウリエルは大技しかして来ないと思いますので、なるべく一撃離脱の方が良いかと」


「分かった……まあ基本は遠慮無しで良いよな?」


「下手に加減すると普通に死ぬだろうね」


「了解」


 明確に弱点らしい弱点が無いのなら場当たり的にやるしかない。【貫牙剣(アウラ)】の使用は見送るとして、今回は何と『反剋』が使用可能だった。使えるだけで大分ありがたい。すぐさま対応する刀を取り出して構える。

 コトネさんは後方待機、モモとクローナと分かれ、3方向から攻めていく。普通なら2人のどちらかに注意が向くのだろうが、『反剋』を察知したのか、ウリエルが剣を向けてきたのは俺の方だった。


「避け……いや【抜刀】!」


 振り下ろされた炎の剣を真正面から受け止める。その重さは凄まじいものだが、『反剋』で相殺されているおかげで何とか張り合える。結構な賭けだったけど、何とか勝った。まあ纏っている熱のせいでジリジリとHPが減っているけど。

 ウリエルはそのまま俺を押し潰そうと剣に力を込めようとしたが、横からモモとクローナが近づいているのに気づいた。

 どう判断したのか、ウリエルはクローナに向けて剣を横に動かした。しかし、剣を持っている左手は土から生えた鎖により動きが止まる。モモの魔法によるそれはウリエルの熱量により数秒で溶け落ちた。しかしその数秒があればクローナはウリエルに接近出来る。クローナは鎚の形態で思い切り横に振り、ウリエルを吹き飛ばした。


「どうだ?」


「駄目ですね、直撃しましたが手応えが……強化などの効果はミカエルの天秤には無いはず。昔より大分強くなった様ですね……」


「悪いけど感慨に浸るのは後にしてくれ……ダメージは多少は入ってるよな?」


「ああ、すみません……ダメージはゼロでは無いかと。今のマスターなら直撃すればそれなりに、そも私の攻撃方法が完全物理なのが問題ですね」


「ああ、そういう……あ、来た」


 吹っ飛んだウリエルは話している間に体勢を立て直した様で、先の様に伸びた炎の剣を俺達の方に振り下ろしてくる。距離があるおかげで避けるのは容易く、左右に分かれて接近する。ウリエルはまた同じ様に剣を横に動かし、標的は今度は俺の方だった。


「ぐっ……このぐらい……!」


 『反剋』の効果が付いている刀を盾にしながら無理矢理近づいていく。

 効かないと悟ったのか、ウリエルは伸ばした分の剣身を消し、振り下ろす体勢を取る。しかし、ウリエルはもちろん俺やクローナを含める程の大きさの影が射した事によりウリエルの動きが止まった。


「この短時間でこれかよ……!」


 射した影の正体は、モモが魔法で作り出した津波だった。周りには水源も無く、並列で準備していたとしても、土の鎖を溶かされた辺りからの短時間でこれだけの規模を用意するとは。

 ウリエルは脅威度の順位を変更した様で、津波に向けて炎の剣を突き出す姿勢をとった。恐らくはそのまま熱量で蒸発させるつもりなんだろうが、そのままそれをさせるつもりはない。


「【ディケイブースト】!」


 ウリエルの左肩を狙い、刀を思い切り振り下ろす。相応の威力があるおかげでウリエルはそのまま地面に叩きつけられた。

 ダメージ量としては俺が出せる最大値に近いはずなんだが、左腕を切断するまでには至らなかった……まあ死なれちゃ困るんだし、やりやすいのは確かだけど弱ってるのか分かりづらいな。今のウリエルは表情無いし。


「マスター!」


「ああ、【空走場(アハルテケ)】!」


 このまま攻撃を続けても良いのだが、そうなるともれなくウリエル諸共津波に飲まれる事になる。流石にそれは自殺行為なので、合流したクローナをおぶり、空へと逃げる。

 ウリエルはそれなりのダメージを受けたせいか、起き上がるのに時間がかかっており、そのまま津波に飲み込まれた。


「これ効くか?」


「性質自体は物理的な炎に近いのと、これは魔法による水なので効きはしますね……多少」


「それなら良いけど……うわ、煮立ってる」


 空中からウリエルがいた辺りを見ると、湯気が立ち、泡が出ている。

 そして、次の瞬間には直径10メートルぐらいの水が一気に蒸発した。その勢いで残った水も引いていき、その中心には地面に剣を刺したウリエルが立っていた。

 纏っている炎は小さくなるどころか、一回りおおきなっており、腕辺りまでだった薄い黒い炎は全身に広がっていた。


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