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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第八章 天は高く、奔走せよ
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第十二話 天秤


「ミカエル……何故ここに、とは言うまでもありませんか」


「ああ、最初からお前など信用しておらん。絶えずお前が何をしているかぐらいは把握させている。悪魔風情に裏切り者、果てには外来種までとはな」


「裏切り者とは酷い言われようですね。元々の役割から外れ、強権を振りかざしているのは貴方達でしょうに」


「絶えず把握しているとは気持ち悪いですね。ストーカーという言葉ぐらい覚えているでしょう?」


「どうとでも言え。そのお陰で1度に3体も始末出来る機会を得た。何よりお前ら如き、今更どうでも良いのだから……むしろ私がここまで足を運んだ事を光栄に思うべきだろう」


「足を運んだ……飛んで来た癖にねぇ」


 ああ、言っちゃうんだ、それ。モモの挑発的な言葉にぎょっとしながらも、今も空中に浮いている金髪の男に注意を向ける。

 ミカエルかあ……超有名所、詳しい定義は知らないが、大体リーダー的な位置のはずだから世界観関連のボスと言っても差し支えないはず。とりあえず、死力を尽くしたとしても今ここで倒せるはずが無いよな。出来たら色々と怖いわ。

 当の本人は俺とコトネさんに興味も示さず、主にウリエルと話している。外来種とはガブリエルも言っていたはず。どういう意味だっけかな。

 そういえば現れた時に何の気配も無かった。状況的にモモ達も薄くとはいえ警戒はしていたはずだし、流石にそういうシーンですとは思いづらい。もしそうなら杞憂なんだが……分からない事だらけだな。最優先はモモ達、特にウリエルを死なせない事だけど。


「さて、一応聞くが、こちらに恭順する気はあるか?」


「いえ、全く。私は死ぬまでお姉様達の味方です」


「まあそうだろうな……しかしだ、私の天秤の力を忘れてはあるまいな?」


「……ッ!!?」


「させると思うかい!?」


「出来ると思うのならしてみるがいい」


 急に流れが変わった。ウリエルは何かを思い出したのか顔を青ざめ、モモとクローナは戦闘体勢をとった。それをにつられて俺も刀に手をかけ、コトネさんも杖を構える。

 ミカエルの神器は手に持っている天秤なのは分かる。しかし能力が分からない。天秤は乗せた物の釣り合いをとる事で重さを量るための物だとは知っているが、それがどう戦闘に、ウリエル達が警戒するレベルの物になるのかが分からない。直接的に攻撃に直結しない武器はなあ、他のゲームをしててもサンプル数が少ないから予測しづらい。


「……お姉様の様に私からも神器を奪う気ですか?」


「声の震えが隠せていないぞ、ウリエル。1度神器を与えられた天使が神器を失うと……そこの裏切り者は運が良かったのだろうな。まあ安心すると良い。特に代わりもいないからな、奪いはしないぞ、奪いはな」


「『アイシクルマジェスタ』!!」


「ハアッ!!」


 ミカエルが天秤を肩ぐらいまで上げ、何かを口にしようとした途端、モモが大規模な魔法を発動し、クローナが武装を展開してミカエルへと迫る。

 ミカエルのソレは、発動させては不味いものだとは判明したので、刀を抜いてクローナへと続く。モモが出した氷塊を足場にしてミカエルとの距離を詰めるが、よく確認すると氷塊が直撃したはずのミカエルは無傷だった。

 クローナは既にミカエルの目前で展開した武器を振りかぶっている。しかし、ミカエルはそれを意にも介さず余裕の表情で天秤を掲げている。


「『トレメンドゥム』」


「ぐぅ!?」


「ぐえっ!」


「きゃっ!?」


 ミカエルがそう呟いた瞬間氷塊が砕け、地面へと叩きつけられる。声がしたので後ろにいる3人もそうなのだろう。

 起きあがろうと力を込めるが、体がびくともしない。俺より力があるはずのクローナさえも体勢を変える事すらままならない様だ。

 重力……いやそういう感じじゃないな。それだったら地面に多少なりともめり込むはずだが、体のみが上から押さえつけられているのだろう。一体どういう事なんだ。


「……ふむ、害獣の力か。まあどうでも良いな、お前らが蔓延ったところで、支障は無い……ではウリエル、『タキカルディア』」


 ミカエルがそう言うと同時に、ウリエルの体が炎に包まれた。一瞬ぎょっとしたが、よく見ると実際に燃えてはいない様だ。左手の持っていた炎の剣はさらに激しく燃え、若干黒も混じっている様な炎へと変わっていく。熱気は少し離れたこちらまで届き、まるでサウナの様だ。


「ウリエル……!ミカエルッ!」


「妹の手で焼かれるのだ、本望だろう?まあどちらでも良いがな……精々踊るがいい」


 そう言い残し、ミカエルは瞬間移動でもしたかの様に目の前から消えた。同時に体の自由もきく様になったが、それは良い事だけでは無かった。


「うおっとぉ!?」


「くっ……ウリエル!」


 体の自由が戻ってからゆっくりと起き上がったウリエルは、炎の剣をこちらに向けて振り下ろした。剣身を延長するかの様に剣からは炎が噴出し、危うく俺とクローナを焼くところだった。すぐに注意を払っておいて良かった。

 攻撃をしたウリエルはすぐに第2撃を放つ事は無く、光の無い目で正面を向いている。体を覆っている炎を変わらずウリエルを包み、剣に薄ら見える黒い炎はだんだんと体の方へと広がっている様な……とにかく、正気では無い事は確かだ。恐らくはクローナの時に近いはず。


「ウリエル……!」


「クローナどうする?」


「……とりあえず無力化するしかない、と思いますが……」


「下手に攻撃する訳にもいかないし、中途半端に加減するとこっちが死ぬか……またこっち……!」


「2度目は……『アイシクルマジェスタ』」


 ウリエルがまた剣を振り上げこちらへと攻撃しようとする。しかしモモが氷壁を出してそれを防ごうとしたが、ウリエルの炎はそれを意にも介さず蒸発させた。

 その熱量たるや凄まじい……だが問題はそこでは無い。数メートルクラスの氷塊が蒸発するということはそれだけの水蒸気が一気に発生するということだ。詳しい定義は知らないが、この現象を水蒸気爆発と呼んでも差し支えは無い筈だ。


「〜〜〜ッッ!!?」


 視界は真っ白、吹き飛ばされたせいで天地が何処かも分からない。HPはゴリっと減っていてやばい。

 モモのあの魔法は悪手だったのかと思ったが、あの位置だとウリエルの炎が掠って面倒な状態になっていたかもしれない。流石にこれでモモやクローナが死ぬという事は無いだろうけど、一体どうなっているやら。

 衝撃が落ち着いたので急いで体勢を立て直し、ポーションを飲みながら状況を確認する。

 爆発によって辺り一帯の元々少なかった木は残らず吹き飛び、更地になっていた。爆心地は陥没しており、遠目だがその中心にはウリエルが変わらず立っていた。

 みんなはどうなっているかと目を凝らすと、クローナはモモを支えながら移動しており、コトネさんは倒れて動かない。

 とりあえずは、コトネさんの方へ向かった方が良いな。


「コトネさん?コトネさん!」


 近づいて呼びかけてみたが返事が無い。肩を揺すってみても返事が無い……完全に気絶状態になっている様だ。ポーションじゃ気絶はどうにもならないからな。いつでも運べる様にしておくとして……どうするかな。


「マスター!」


「クローナ、こっちに来たのか……そりゃそうか。モモは大丈夫か?」


「ああなんとかね。コトネに治してもらおうと思ったけど……起こさないといけないか」


「え?」


 モモはそう言うと手をコトネさんの体に当てる。気絶を回復させる魔法でもあるのかと思いきや、手からバリッと電気のエフェクトが出てコトネさんが飛び起きた。


「きゃっ!?あの……もう少し方法を……」


「ああ、悪いけど……とりあえず回復してくれるかい?」


「えっ、はい!」


 コトネさんが切り替えて、モモに魔法をかける。

 ウリエルに目を向けると、こちらを向いていたが何かをしてくる気配は無い。多少は息を整える時間はあるかな?


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