第九話 予想は外れるもの
「それじゃあ頑張ってね」
「手伝ってくれよ……」
「流石に用事があるからどうにも……1人よりマシでしょ?」
「そうだけどさあ」
「じゃ、頑張ってね」
「はあ……」
「まあまあ、手早く終わらせましょう」
「やるしかないか……」
放課後、回り回って先生に頼まれて書類整理をする羽目になった。丁度一緒にいた琴音さんと2人でだ。翔斗と池田は用事、西田さんも用事だが、そもそも他クラスなので頼めない。内容はそんなに大したものではないのだけれど、一応な。他の友人も部活やら何やらで、俺と琴音さんの2人でやるしかない。確かに1人よりはマシだけど、量からして2時間ぐらいかかりそうだなあ……下校時刻大丈夫かな。
「えっと、これは……」
「あ、その下の欄ですね」
「ありがとう。次は、あ、電卓電卓……」
普通こういうのは学級委員とかがやると思うのだけどなあ、その当人達は忙しく働いているから押し付ける事も出来ない。通りがかったのが運の尽きか。特に行事も無いはずだけど、何であんなに忙しいんだか。この学校の特徴か?嫌な特徴だな……まあ気のせいかもしれないし。
最初は黙々とこなしていたのだが、慣れてきたのとただ作業をこなすのに疲れたのもあって雑談をし始めた。
「この前は災難でしたね」
「すぐ落ちるとは言え、頭から泥を被ったからな……まあけどお詫びも貰えたし」
「あのぬいぐるみは凄いですよ……!」
「そ、そう……最近はどう?」
「あ、はい。順調……ですね。サブジョブの方も作れる物が大分増えましたし、品質の良くなってきました……鋼輝くんの方はどうですか?」
「とりあえず90まではあと1レベル……けど必要な経験値がなあ」
「凄い勢いで要求量が増えていきますからね……」
何度も言うが、3次職になってからというものの、レベルを1上げるのに必要な経験値量の上昇率が半端無い。今となっては、2次職までの総経験値量でレベルが1上がるぐらいと言っても過言では無いだろう。
琴音さんは主に西田さんと、たまに俺と狩りに行く。イベントの時じゃないと意外と動くタイミングが合わなかったりするんだよな。
「そういえば、秋のイベントはいつやるんでしょうね?」
「あー、そういえば。まあその前に1周年の何かしらがあるんじゃないかな……多分」
「確定では無いですからね……まずはテスト勉強ですね」
「そうか、しないとな……」
定期的に立ちはだかるテストを倒さなければ、もれなく親から恐ろしい制裁を受ける事になる……ゲーム禁止はやばい。まあ我が家の場合、平均点を下回らなければそんな事にならないのだが。まあいつも通り勉強しておけば大丈夫だろう。
「……あの、鋼輝君は勉強の方は……」
「え?ああ、大丈夫……平均取れれば良いし、特に分からない所も無いし」
「も、もし何かあれば言って下さいね!勉強であれば自信がありますので!」
「いや他にも出来る事あるでしょうに……まあ何かあったら……」
「はい!頑張りますよ!」
うん、元気なのは良いんだけどね……人に教えるのはそんなに楽しいもなのだろうか。まあ美人の笑顔が見れたので良しとしておこう。いやあ役得、同じゲームをしてなきゃ関わりも無いんだし。
勉強に関しては、頼る事はほとんど無さそうだけどな。普通に申し訳ないと感じるのが大半で、それにただ聞くなら翔斗の方が余程気楽だ。
何より、今の所問題らしい問題が無いから現状に満足している。そりゃ良い点を取るに越した事はないが、そこまで高みを目指している訳でも無い……ぶっちゃけその時間でゲームをしたい。まだ楽が出来る今の内にゲームの時間を取っておきたいんだよな。3年後にはまた受験だし。
「そういえばこの前のは喜んでもらえた?」
「あ、万年筆の事ですか?はい、毎日使ってくれているみたいです」
「それなら良かった」
この前のプレゼント選びに苦心した甲斐があったというものだ。毎日使っているのなら気に入らなかったという事も無いだろうし。まあ娘からのプレゼントを喜ばない親はいないだろうしな。選んだのは俺なのが少しアレだけど……最終的な判断は琴音さんだし大丈夫か。何にせよ成功したなら良かった良かった。
「これも鋼輝くんのお陰ですね」
「いや俺は色を選んだだけだから……それも無難なやつだし」
「それでも、ありがとうございました」
「ああ、はい」
丁寧な人だな、というか丁寧すぎて逆に罪悪感が……大した事してないのに。
「あ、これで最後の1枚ですね」
「やっと終わりだ……2人でやったからまだ早く終わったな」
「じゃあ届けに行きましょうか」
「ああ、俺が運ぶよ」
「いや半分は……」
「いや大した量じゃないから」
「では……お願いしますね」
時間がかかっただけあって、厚みはそれなりにあったが、重さ自体はそれほどでも無い。
とりあえず周りを片付けて、荷物と整理し終えた書類を持って職員室へと向かう。頼んできた先生はすぐに見つかり、終わった事を伝えて渡すと大層喜んでいた……教師って大変だな。成績に色をつけてくれないかなと思ったが、このぐらいでそれをするのは無理だよなあ。とにかく、用事が片付いたのでこれで帰れる。
「あの、途中まで一緒に帰りませんか?」
「え、ああ良いですけど……?」
特に断る理由は無し。気になる事と言えばやけに琴音さんの気分が良さそうだが……何か良い連絡でもあったのだろうか、さっき端末をいじっていたみたいだし。まあ機嫌が良いなら特に気にする事もないか。
そういうわけで一緒に帰っている。最近は付き合いが長いお陰で話題も多くなり、沈黙が続いて辛くなるという事も無い……殆どゲームか学校に関してだけど。あ、そういえば。
「今更だけど、琴音さんは部活とかは?」
「部活ですか……中学の時は入っていましたけど、高校は特に予定は無いですね」
「なるほど……」
「あ、鋼輝くんは中学の時は……?」
「あー、帰宅部」
「そうですか、やっぱり趣味が出来ると自分の時間が欲しくなりますからね」
「部活を趣味に出来るなら別だけど……」
琴音さんも中々染まってきた様で……学業と両立出来ている時点で文句のつけようも無い。それを言うなら俺の方が……いやいや平均だから大丈夫。もう先輩面も……そもそも始めた時期が一緒だな。一定以上慣れれば他のゲーム歴なんてあんまりアドバンテージにならないし。
「あ、この道だな」
「そうですね、今日はお疲れ様でした、またあし……あ、今日もログインしますか?」
「え?あ、うん」
「では一緒に……」
「良いですよ、じゃあまた後で」
「はい!」
琴音さんと別れ、家に帰る。さて今日もログイン……あ、課題あるんだった。時間が時間だな……とりあえず琴音さんに連絡、そこまで量は無いのでさっと終わらせてからゲームだ。下手に後回しにして忘れて寝ると不味い。
琴音さんとの約束については素材集めだったし、後回しになっても大丈夫だったので良かった。課題はしないとお互いに困るからなあ。




