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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第八章 天は高く、奔走せよ
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第八話 ハプニングぐらいある


「改めて、こんにちはー」


「あ、こんにちは」


「こんにちは……お久しぶりです」


 モンスター園を回っていたら、後ろに園長とも言うべきタルさんが現れた。ランダムエンカウントのモンスターじゃないんだから……全く気づかなかった。気配を消していたとかでは無く、単純にこちらが気を抜いていただけか。


「えっと、どうして後ろに?」


「知った顔を見かけたので話しかけようとしたんですけどー、どうせなら突然現れたら面白いかと思いまして。上手くいきました」


「は、はあ」


 特に大した考えは無い様だった。まあ驚かせたかっただけなのだから、そんなもんか。


「どうですかー、楽しめてます?」


「もちろんです、触れ合いコーナーはとても……!!」


「コトネさんならそう言ってくれると思いました、良かったー」


 あれ、スイッチ入った?久しぶりだなこれ……無意識なのか意識的なのかは知らないけど、話に花を咲かせながら邪魔にならない所へと2人は移動している。2人は良いとして俺は……確かここは通路が円形になっているみたいだから、とりあえず1周してくるか。

 水槽の手前にあるプレートの説明を読みながら泳いでいる水棲モンスターを見ていく。普通こういうのはあるとしても運営側が用意する物だからなあ、本当に凄いわ。プレートの説明も鑑定では分からない事まで書いてある。どれだけ力を入れたんだか。


「うわ、マジか」


 少し移動すると、夏イベの限定モンスターである足の生えた魚が泳いで、いや歩いていた。水中でもそんな動きなのか……いやそもテイム出来るのか。タルさんがテイムしたのか?色々面白すぎて、吹きそうになった。うーん、シュール。このゲーム、生息しているモンスターを集めるゲームだったっけか?

 そうして1周してみたが、若干時間がかかった様で、2人を待たせた様だった。


「あ、コウさん」


「あ、ごめん待った?」


「いえ、こちらこそいつもすみません」


「いやいや、待ちぼうけを食らった訳じゃないし」


「ごめんねー、彼女さんお借りして」


「えっ!?」


「いや、リアフレでして……」


「そうなんですか、てっきりー……失礼しま……した?」


 何故に疑問系?まあ水族館(?)に男女2人で……そうなるのも仕方ないか。コトネさんも衝撃を受けたのか硬直してるし、迷惑をかけない様にしよう。


「あ、そうだ。夏イベのレアモンスターってテイム出来るんです?」


「うん?あー……あ、足の生えた?」


「そうですね」


「うん、というか大体のモンスターは出来るよ。大きすぎたり、フィールドボスは今の所出来た試し無いけど」


「なるほど」


「ああ、一応言っておくとー、ここ辺りの子の殆どは私がテイムした子達じゃないから」


「じゃあタルさんは動物系……?」


「そうそう」


 ただの経験値もしくは素材用モンスターだと思っていたが、色々と活用方法あるんだな。想定より多くの事を知る事が出来た……役に立つかどうかは別として。


「折角ですから、案内しましょうかー?」


「それは嬉しいですけど、大丈夫なんですか?」


「うん、今の時間帯は暇だから」


「じゃあ、お願いします」


 そんな訳で、ガイドがついた。実はここは水族館だけでは無いらしく、少し進むと砂漠の様な部屋に繋がった。植生を調整するぐらいでどうにかなる環境は外でも大丈夫だが、砂漠などは室内でないと再現出来ないらしい。当たり前か。まあ数はそこまで多くないとかで、規模はそこまで大きくなくて済むらしい。


「でも、他の環境のフィールドへ連れて行くこともありますよね?」


「仕様のお陰で、普通の室内でも飼えるけどねー。あ、魚類は流石に地面に放りは出来ないけど、住んでいた環境に居させた方が調子が良くて、戦闘のパフォーマンスも良いから」


「あー、バフが付くみたいな」


「それに近いね」


 素人目にも分かる様に維持費はかかるそうだけど、入園料で意外と賄えているそうだ。客入りは上々という事か。

 次に案内されたのは、湿地の様な環境になっている空間だった。汚れない様にちゃんと通路が敷かれており、ガラスの柵もあるので対策はとられている。柵は身を乗り出すコトネが出来るぐらいの高さだけど、ここでそれをする人はあんまりいないだろう。


「環境の再現度が凄いですね」


「空気感まで、フィールドと同じ様な感じだ」


「ありがとう……と言っても、再現に関してはあんまり私関わって無いんだけどねー。魔法の検証が大部分だったから」


「検証ですか……」


 屋外かと見間違う様な空、奥行きも見た目程では無く、魔法による投影だろう流石に空間の拡張はプレイヤーはまだ無理かな。室内に屋外の環境を再現するという意味では、これは間違いなく成功だろうな。

 固定する為の道具なんかはプログラミングの応用出来る仕様だと聞いたが、全く分からん。日々改良が続けられているそうで……趣味人は偉大だな。

 その後もタルさんの説明を受けながら通路に従って歩いて行く。すると、離れた場所から1匹のカバらしきモンスターが猛スピードで近づいてくるのが見えた。


「あっ、ちょっとクーちゃん!ストップ!」


「あっ、泥が」


「あっ!」


 タルさんのテイムモンスターなのだろう、勢い良く向かってきたカバはタルさんの言う事をきちんと聞き、多少滑りながらも2メートル手前辺りで止まった。そこに関してはタルさんの教育が行き届いて良いのだが……ここは湿地帯、カバ程の質量の物体がいきなり止まった反動で泥水が跳ね上がり、それは柵を越え、俺達3人は頭から被る事になった。


「ごっ、ごめんね!最近構ってあげられなかったから……えっと……」


「あ、とりあえずそっちを……」


「ありがとう、ごめんね……!」


 カバの方は悪い事をしたと理解したのか、シュンとしている。こちらはとりあえず装備を変えれば体裁は何とかなるので、カバのケアの方をタルさんに優先させる。幸いこのゾーンはお客がいないので、こうしてゴダゴタしていても問題無い。

 予備の装備に変えるが、問題は汚れた状態のメイン装備だ。多少の汚れならその内落ちるのだが、ここまで汚れると汚れた状態の装備として保存され、洗わないといけなくなる。洗剤を使わなくても水でバシャバシャとすれば綺麗になるので、楽はらくなのだが。


「そっちは大丈夫?いやまあ大丈夫じゃないだろうけど」


「あ、はい。現実程の不快感は無いですし……何より事故ですから」


「ごめんねー、悪いけどこっち来てくれる?」


「あっはい」


 タルさんに案内されたのは、客用の順路では無い、言うなれば従業員用の場所だった。そこにはシャワー室の様な場所もあり、聞くと世話をする時に汚れるので、その際に使うものらしい。今にぴったりだな。

 折角使わせて貰う事になったが、裸になってシャワーを浴びる訳では無い。シャワー室と言っても装備を洗う用みたいなもので、そもそも裸になる仕様は無い。水着装備を着れば裸に近いけど。シャワーで装備の汚れを落としている間に、濡れたタオルで髪など汚れている部分を拭いていく。これで十分綺麗になるから楽なもんだ。一応コトネさんと同じ部屋にいる訳だが、まあ大した光景にはなっていない。

 ここには魔法を利用した乾燥装置もあるらしく、数分経てばあっという間に元通りとなった。


「いやあ、今回は本当にごめんね。まさかあんな事になるなんて。餌はテイムしている全員に毎日あげてるんだけど、構ってあげる時間も取らないと」


「いえ特に気にしていないので……それ、リアルの時間大丈夫です?」


「うん、何とかなる様にしているからね!そこは大丈夫」


「そうですか」


 どうすればそんなに時間を取れるんだか。まさかニートという事はあるまいし……まあプライベートに突っ込むのはマナー違反だ。

 タルさんは今は梟と黒い狼を連れている。レギュラーメンバーなのだろう、裏で待機していたのかな。気になる事といえば、狼の方がずっとこちらを見てくる事だが……何なんだ。しばらく睨み合いになったけど、特に何も無く逸らされた。

 そして、お詫びとばかりに色々とここのグッズやまあまあレアな素材を渡された。最初は固辞したのだが、タルさんからすれば渡した方が気が休まるのだろうから貰っておいた。


「凄いな、それ」


「はい、凄い柔くて触り心地も凄いです」


 コトネさんはお詫びに貰ったデカめのぬいぐるみを抱いている。若干語彙力がアレな事になっているが、楽しそうなのでまあ良いか。多少ハプニングはあったけど、色々と勉強になったな。


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