第五話 新顔は灰汁強く
9月も半ばに差し掛かったある日、突如ショウに呼び出された。それも屋敷に住んでいるプレイヤー、NPC全員。まあ絶対、必ず……という訳では無いみたいだが、そもそもこういう自体がショウにしては珍しい。
今日はまだ1度もログインしていなかったので、何があったかは分からない。飽きたという事は全く無いが、特に用事が無くてもプレイしない日ぐらいはある。
とりあえず暇は暇なのでログイン。用件は書いていなかったが、そういう事はよくある。それに、ふざけた話だった事は無いし、文面からして真面目な内容だろう。
「うぐっ……何でずり落ちてんだ……?」
ログインすると、いきなりベッドの下へと落ちた。昨日ログアウトした時、雑に飛び乗ったせいか?厳密には寝てる訳じゃ無いから寝返りとかはしないはず。まあ起きたせいか。
ショウは談話室にいるそうなので、階段を降りる。すると玄関の扉が開きコトネさんとアポロさんが入ってきた。
「あ、コウさんこんにちは」
「ああ、ちなみにどこに?」
「2人で素材集めに行ってました」
「なるほど」
モモとクローナは外出中みたいで、今屋敷の中にいるのは、俺たちの他にはクルトとアゲハ、後は呼び出した張本人のショウぐらいか。3人で談話室に入ると、案の定全員いた。
しかし、おかしいというか、目立つ点が1つ。鎧を脱いだショウにピッタリとくっつき、スヤスヤと寝ている女の子がいた。大分小柄で、クルトぐらいの年に見える。緩いウェーブのかかった紫色の髪に、厳密な定義は知らないが、服はゴスロリとカテゴライズして良いのだろうか。目には隈があり、肌も少し白いため不健康そうなイメージが強い。頭の上にネームが出ていないから間違いなくNPCだろう。キャラの灰汁が強いからただのNPCでは無いのは当然か。
「あ、やっと来たね……」
「……どういう状況?事案?とりあえず警察……じゃねぇや、衛兵呼ぶ?」
「わー、やめてやめて。本当にやめて……!」
ふざけて言ってみたが、思っていたより効果抜群。さて、どういう事なのか事実を聞かないとな。とりあえず椅子に座ると、女の子の方は騒いだせいなのか目を覚ました。
「うーん……どうしたの、マスター?」
「あ、ベルフェゴール、起きたの?」
「やだ、ベルって呼んで?」
「……う、うん」
ショウは押しに弱かったのか。いや押しに弱いと言えるのかこれ。状況が変わったから一気に揶揄いづらくなったな。というかそんな事より、女の子の方はマスター、ショウはベルフェゴールって言ったよな?マジか、特大案件じゃないか。ベルフェゴールの方の、ショウへの態度は色々と気になるが、それはまあ最後の方で良い。
「……悪魔ですか?」
「う、うんそうみたい。怠惰に対応する悪魔のベルフェ「ベル」……ベルだよ」
「そ、そうですか」
アポロさんが若干トゲを感じる聞き方をショウにしたが、俺達の視線を気にもせず……というか眼中にすら入っていないのだろう、マイペースなベルフェゴールの態度に毒気を抜かれたようだ。
「何、敵?殺す?」
「敵じゃない、敵じゃないから。仲間だから、覚えてね?」
「マスターがそう言うなら……1、2……面倒くさい……しかも、あれ契約者でしょ?」
怠惰に相応しい感じに2人でカウントするのをダウンしたベルフェゴール。言動も見た目に合わず物騒だ。これで4人目、後3人か。1人は最後に分かる的な話だったから、一応3人で良いのか?
それにしても、この屋敷内に2人も集まるとは。しかもクローナもいるしな……まさかショウが連れてくるとは。運使いすぎてないか?
頭の中で整理したのは良いけど、とりあえずベルフェゴールは下手に関わらない方が良い手合いだ。それはここにいる全員が察した様で、中々どうして話を切り出せずにいる……と思ったら、ベルフェゴールのキャラの濃さを気にせず話を切り出したのはアポロさんだった。
「それで、どういった経緯で?」
「え?ああそれは……木に引っかかってて、気づかずに助けたら何日も食べてないって言ってたから手持ちの食べ物あげたらこうなった」
「ま、マジか……」
「む、むう……」
まあ同じ状況だったら同じ事をするだろうから何も言えない。これはチョロいと言って良いのかどうなのか。遭遇したのはともかく、契約したのはほぼ事故に近いな、これ。
「マスターのお陰で本当に助かったわ……正に運命と言っても過言じゃ無いわね……!」
「は、ハハ……コウの時もこんな感じだった?」
「え、どうだったかな……あれ、割とそうだったかも?」
よくよく思い返してみれば、きちんと契約らしい契約をした覚えが無いような。あの時は確か気絶していたし、ガブリエルとの戦闘を経て気に入られたみたいな感じだった。つまりは俺も同じく、半強制だったのか……いやショウの方が何か理不尽な気がするな。ちょっと世話しただけだもんな、罠に近い。
「まあ良かったな。これでお前もオンリーワン要素付きプレイヤーだぞ」
「灰汁が大分強いけどね……ここまで連れてくるのが大変だったよ」
「そうだろうなあ」
ゴスロリ少女だからな、色々目立つのはやむを得まい。まあ俺よりはマシだろうけど。俺の場合は装備ボロボロだったし。あの時の教訓を生かして、替えの服は常に持ち歩いている。ベルフェゴールの方は、ショウに反応するのはともかく、俺達の会話に入るのが面倒なのかまた寝ている。
さて、この後どうするべきかな。何があったかは分かったけど。ここらでモモだけでも帰ってきてくれると……本当に帰ってきた!?
いや玄関の開く音がしただけで、もしかしたらシャーロットかもしれない。この状況だと普通に可能性はあるし……と思ったら、音の主は真っ直ぐここに向かってきたらしく、ドアを開けて入ってきた。音の主はモモとクローナだった。2人は一緒だったのか。
「何か見知った気配がすると思ったら……あんたかい、ベルフェゴール」
「……なるほど、ショウさんが」
「うぅん……?折角寝たのに……って、アスモデウスじゃない、それに腐れ天使、何でここに……あれ、腐れ天使よね?髪染めた?」
「染めたという問題じゃないんですが……」
モモとクローナに気づいたベルフェゴールは、また起きて反応を示した。だが、その扱いたるや……クローナの呼び方も気になるが、髪染めたって……雑だな。
モモとベルフェゴールは何やら積もり積もった話があるみたいで、何やら言い争いが始まった。流石に同じ七大罪の悪魔なら興味というか、関わる事はするのか。
「まあ、頑張って下さい……」
「うん、そうするよ。とりあえず報告とかしないといけないからね」
「何かあったら言って下さいね」
「うん、ありがとう」
まあこれで、世界観関連は1歩前進か。見つけようと思っても見つけられるもんじゃないし、あんまり気にしない様にするか。




