第二話 世界に触れる
気が付くと噴水の前に立っていた。自分の体をよく見ると麻っぽい服に胸あたりに革鎧を着け、腰の横にロングソードをかけたいかにも初心者といった格好だった。周りはそれなりに賑わっていて、俺と同じような恰好のプレイヤーが多いので初心者だと分かる。初期装備はこれ1種類だけだがすぐに変えられる機会があるのだろう。
この最初の町の名前はアインシアというみたいで、武器屋などもあるにはあるらしいが、この町と周りのフィールドはチュートリアルみたいなものなので初期装備で事足りるらしい。なので品揃えが鍋とか日用品に偏ってきているそうで。うーん、世知辛い……そこをリアルにする必要はあったのだろうか……?
「急いでいるわけでもないし、とりあえず町でも回るか」
始めた時期が近いなら早めにレベルを上げて友人と合流しようとしただろうが、実際には半年も差があるので気長に進めていこうと思う。やはり話題になるだけあって、細部の作りこみがすごい。噴水に近づくと細かい水しぶきを感じるし、空を見上げれば現実とほとんど変わらないような雲が流れている。住人であろうNPCも、プレイヤーには上にプレイヤーネームの表示があるのだがそれがなければ区別がつかないぐらい人間味がある。歩いてみても体を動かす感じがとても自然だ。
ここは最初の町なので都市という程ではないがそれなりに広さがある。俺がやったことあるゲームの中には町という表記でもほぼ村みたいなことがあって、初心者プレイヤーが町からあふれるみたいなことがあった。まあ1月後ぐらい後にアプデで町らしくなっていたが建造物がコピペしたみたいだったな、あれ。そんなことを考えながら町をうろついていると2番目の町に行く側の門に着いた。
「町も見たし、そろそろレベル上げでもするか」
そうして町を出るとそこには見渡す限りの草原が広がっていた……目を凝らしてみると、ちらほらとプレイヤー達がモンスターと戦っているのが見える。それを横目に見ながら進んでいると前方に小さな角が生えた兎がいた。その兎もこちらに気づいたらしくうなりながらこちらを窺ってくる。モンスターであるせいなのか結構凶暴だなこの兎。こちらも剣を抜くと兎が飛びかかってきた。試しと思ってわざとダメージを受けようかなと思ったが、そういや回復アイテム持ってないわと思い出したので、飛びかかってきた兎を蹴る。
「ギュッ!!」
「よし」
うまいことタイミングが合い、カウンターよろしく兎が吹っ飛んでいく。カウンター判定されたのか、この程度だったら大丈夫なのかは分からなかったが俺のHPは減っていなかった。さすがに蹴り1発では倒せないみたいでよろよろと兎が起き上がる。2回目の攻撃をさせる気はないので、剣を突き刺しとどめを刺した。刺した所から赤いエフェクトが出て、兎が粒子となって消えていく。それを見届けるとそこに残ったドロップアイテムを拾う。
「アルミラージの肉か。まあ順当な感じだな」
最初のフィールドのモンスターなので、ドロップアイテムとしてはこんなものだろう。この兎、角とかドロップするのかなと思いながらインベントリに肉をしまう。
「流石に兎1匹じゃギリギリレベルが1上がるぐらいか」
倒した経験値でレベルが上がったので取得したステータスポイントを割り振る。
Name:コウ
Level:2
Main job:剣士
Sub job:なし
HP(体力):10000
MP(魔力):100
SP(技力):120
STR(筋力):120
VIT(耐久力):110(+2)
AGI(敏捷):130
DEX(器用):110
INT(知力):100
LUC(幸運):110
武器:初心者の剣
所持金:1000G
とりあえず必要そうなステータスに振ってみた。刀を使うので、相手の攻撃を受けずに避けるスタイルなのでAGI多めで振っていく。あとは期待を込めてLUCに少し振ってみた。これ以上はほとんど振る予定はないが後々何かしら役に立ってくれるとありがたい。
ステータスを振り終えたので辺りを見回してみると、右側の方にモンスターらしき影が見えたので近づいてみる。その影の正体はファンタジーの定番、ゴブリンだった。よくある緑色の肌で子供ぐらいの背、手には棍棒を持っている。普通に小走りで近づいたので、あっちも気づいているみたいなのでこっちに向かってきている。だが一般的なゴブリンのイメージを崩さず、棍棒を振り回しながら向かってきているので完全に的だ。
「グギャッ!!」
とりあえず右手に持ったその辺で拾った石ころを投げつけるとゴブリンの顔面に当たった。怯んでいるので足を払ってやると案の定転んだので、剣で頭を刺してやると赤いエフェクトを噴き出しながら粒子となっていく。
「流石に兎よりは経験値あるな。というかそこら辺の石ころでもダメージ判定あるのか……すごいな」
俺がやったことのあるゲームは、大概フィールドはフィールドでしかなく「石ころ」というアイテムを手に入れない限りこんなふうに相手にダメージを与えることはできなかった。石ころ1つまでこの世界にちゃんと存在しているのはそりゃ話題になるわけだわ。
「さて、この調子でレベル上げてくか〜」
そうしてマップをうろつくこと数時間。兎やらゴブリンの集団やらを撃破した結果がこちら。
Name:コウ
Level:12
Main job:剣士
Sub job:なし
HP(体力):10000
MP(魔力):180
SP(技力):280
STR(筋力):340
VIT(耐久力):220(+2)
AGI(敏捷):410
DEX(器用):250
INT(知力):100
LUC(幸運):120
武器:初心者の剣
所持金:1000G
AGIなんかは最初の四倍ほどの値になっているが、試したところ速くはなっていても4倍には全然届いてはいない感じがする。VITはダメージを受ける気がないので試しようが無いがSTRも数値通りに上がっている感じはしない。まあ数値通り上がってしまうとカンストする頃には1つのステータスが数千ぐらいなるみたいなので事故防止とかだろう。今のところポイントは適当に振っている。このゲームのジョブの一部は就くのに条件があるが、その条件にステータスは関わってこないみたいだ。だから、VITが100のタンクやDEXが100の生産者も可能らしい。だからといってそれを実践する奴がいるとは思えないが。あとはこのゲーム極振りは一応システム上はできるらしいが、そのスタイルでやっていくのは不可能みたいだ。なんでもSTR極振りした奴がモンスターに攻撃しようとしたら反動で腕がはじけたとか、AGIに振った奴は本気で走って躓いたら紅葉おろしになったとか。多分どちらもVITが足りていなかったのだろう。そういう訳で特化型はまだできても、極振りスタイルは現実的ではないようだ。まあ俺はそこまでステータスを尖らせる気はないので縁遠い話だ。
「っていうかすげえ時間が経ってるわ。ログアウトしないと」
町で時間潰したのがいけなかったのか、晩飯の時間が近づいているので一旦ログアウトするためにアインシアまで戻る。このゲームは宿屋もしくはアインシアは噴水でできるらしい。宿屋は料金が発生する代わりに時間経過でHPなどが回復するとか。クランを作って拠点を持てば宿屋要らずみたいだが今の俺には関係の無い話だ。金も無いし、HPは減ってないので噴水でログアウト。