第四話 ツェーンナット
「おーい、どうなった……って、まあそうなったよね」
「まあ何とか倒せたわ」
「凄いですね!」
「いや何かたまたま運が良かったというか……あ、これ治してくれる?」
「え?ひっ……!」
痛みが無いので若干忘れていた左手を治してもらおうと、コトネさんに見せると、引かれた。まあいかにエフェクトで描写が誤魔化されていると言っても、この状態だと逆に想像を引き立てる事になる。コトネさんもそうなったのだろうし、引くのはしょうがないか。まあすぐに回復魔法をかけ始めてくれたのでありがたい……元に戻るのか、これ?後はクルトに修理を頼まないとな。
そういえば、竜のドロップ品は中々の量だった。素材の山という程では無いが、多少積み重なる程度にはドロップしていた……サイズがでかいのもあるからそのせいもあるか。
「どうだ?」
「いや中々良いね。量も平均より多そうだし、それに……お、これは……!」
先にドロップ品を検分していたショウに聞くと、見た目通り中々の感じらしい。まあ初回なのでそのぐらいは出てほしい。でもこれで気を良くして調子に乗って周回とかし始めると地獄を見るんだろうけど。狙った素材は通常の物でも途端に出なくなって、代わりに最上品の素材が出たりするんだ。違う、そうじゃない。
ショウは何か見つけた様で、持ち上げた物を見てみるとショウの顔の大きさぐらいはある、鱗というよりは甲殻に近い感じの素材だった。
「何だそれ……逆鱗?いや、違うのか」
「古い甲殻ですか……」
傷はあるわ、他の鱗より目立つ見た目だわで、一瞬逆鱗とかそういう感じのを思い浮かべたが、鑑定を使ってみるとただ古い甲殻だという事が判明した。説明文を読む限りではそこまで特殊な素材という感じはしないけど、ショウの反応からしてドロップ率でも低いのか?
「そんなにか?」
「うん、そこらに出すだけでも結構な金額になるし、やたら硬いから使い道がいくらでもある。この竜のドロップ品の中では最上級では無いけど、十分当たりに入る物だよ」
「そんなにか……」
「それは良かったですね」
「はっきり言うと欲しいけど……まあ倒した要因はほぼコウだし、それに初討伐だしね。コウに任せるよ」
「私も、そこまで頑丈な素材は要らないので……」
「それはどうも……でも1個じゃな」
「まあ最低2個はね、必要なんだけどね……」
武器にしろ防具にしろ、余程稀少な素材でなければ1個で十分という事にはならない。とりあえず2、3個は必要になるからなあ。
まあ今使い道も決める必要は無いので、一旦保留だ。とりあえずドロップ品を回収して町に向かう事にした。
山脈を越えた先には鬱蒼とした森、更にその先には海が見える。その間には人工物が見えるので、あれが現時点での最後の町なんだろう。
「あれがですか?」
「そうだね、10番目、ツェーンナットだよ」
「はあ、ここまで来たか……」
「ここまで人の手が届いていましたか」
「まあ割と最近だけどね。あんたがあんなとこにいれば知らないか」
クローナも何やら感慨にふけているようだ。ずっとあの地下にいたからな。モモはまあ、あちこちを回っていた様だし、定住はせずとも、ここに来た事ぐらいはあるのだろう。まあクローナが知っている時代はここ以前に他の町も無かったのだろうけど。そこら辺は詳しく知らないので良いとして。
「じゃあ行くか……ここ降るのか?」
「いや安全な順路はこっちだね。狭いから気づかずにここを滑り落ちて死ぬ人が多くて……」
「時間がかかっても安全に行きましょうか……」
「そうだな」
俺には【空走場】があるけど、1人用だし。
ショウを先頭に正当な順路を進んでいく。道中のモンスターは中々に手強かった。序盤のフィールドボスレベルのモンスターがゴロゴロしていたので、まあ時間がかかった。倒すのに問題は無かったけど、とにかくタフだった。
そうして進む事30分。ついにツェーンナットへと着いた。
「はあ……着きましたね……」
「この辺のモンスター強いからね……さて、ここが一応最後の町、ツェーンナットだよ。まあ町というか村に近いけどね」
町の外壁は他と同等、もしくは多少分厚い。だが中へ入ると、道が舗装されていなかったり、簡易的な建物が多かったりと、ショウが言う通り確かに町と言うには些か足りない。ここ数十年だか数年だかに新しく出来たと言うだけあって、まだまだ発展中の様だ。生産職プレイヤーが本気出せば何か今すぐにでも体裁が整いそうな感じがするが、聞けばちゃんと計画やら諸々の兼ね合いがあるとかで、そこら辺はゆっくりと進めていくらしい。まあ当たり前というか、それに加えてフレーバー要素もあるのかな。
もちろんちゃんとした建物もあるけど、真新しい感じなのが新鮮だ。大体設定されてる建物なんて微妙に年月を感じさせる建物が殆どだし。プレイヤーメイドの建物なんて割と無い。
町を歩いているプレイヤーも、あの竜を倒しただけあって、強そうな人が多い。露店もレア度が高い素材やら装備やらが置いてあったが……素材はともかく、装備はここで売って売れるのだろうか。
「じゃ、僕は用事があるから分かれるけど……みんなは好きに回ると良いよ」
「またか、まあそうするけど」
「じゃあこっちはこっちで見ていくよ」
「では私もそちらに行きましょうか」
「そうか、後でな……コトネさんはどうする?」
「あ、私は……お邪魔でなければご一緒させて頂いても……?」
「大丈夫だけど」
ショウは忙しそうで、モモとクローナは別行動。そして俺はコトネさんはと一緒か、まあいつも通りで良いな。町の規模は小さいし、そこまで時間もかからずに見て回れるか。
「それじゃあ、何処から……いやテキトーで良いか」
「はい、何処に何があるのかも知りませんし」
初めて訪れた場所で、右も左も分からないから片っ端から見て行こう。そもそも暇潰しなんだし、掘り出し物があればとても運が良いレベル。雑に見て回っても良い物ばかりだったので、何かしらあるかもしれない。
売っている物は大体プレイヤーメイドで、テキトーに一式買ってアインシアにいるプレイヤーに与えれば、王都ぐらいまでは十分に辿り着けそうな性能だ。そんな事する必要も相手もいない。そういうプレイも否定はしないが、そこまで不釣り合いなのはあんまり好きじゃ無いし。
こうして見ていると、俺達の装備の方が若干良いな。クルト達様々だ。効果が面白い武器も多いけど……8割ぐらいネタなのがな。斬る判定のハリセンって何だ?
「あ、丁度1周したか」
「思ったより早かったですね?」
「道も入り組んでいなかったしな……」
シンプルな建物の配置の町だった。想定よりも早く見終わったし、集合予定の時間までは結構時間がある。今までの町と同じぐらいの時間を取るんじゃなかったな。
「あー、どうする?」
「そうですね……じゃあ海を見ませんか?」
「ああ、なるほど。そうしよう」
海自体はこれまで散々見たが、最後の町という事で少し雰囲気も違うだろう。どうなっているのかも興味がある。
実際着いたその場所は、特段絶景という訳では無かった。しかし、フィールドの最端というだけあって、達成感が湧いてきた。
「……とりあえず、分かりやすいゴールだな」
「でもまだまだやる事がありますからね」
「まず4次職、それに天使やら悪魔やら……本当に色々あるな」
「わ、私もお手伝いします!」
「それはありがたい」
コトネさんもとうに初心者を超えている。本当にうかうかしてられない。張り切って行こう……まあ明日学校だけど。




