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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第八章 天は高く、奔走せよ
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第三話 空中戦


 先に攻撃したのは竜の方だった。口を広げ地面を砕きながら俺を噛み砕こうと向かってきた。まだ何もしてないので、俺に向かってきたのは偶然だろう。まあ軌道はとても分かりやすかったので、横に避ける事で難を凌いだ。


「ふう」


「思っていたより速いですね……」


「余裕のある内に動きを見れて良かったな」


 話には聞いていたが、想像していたより速かった。今までフィールドボスが普通に何とかできていたから見縊っていたな。というか、いきなり難易度上がりすぎじゃね?最後にしても、どうしてこうなったんだか。まあ脅威は実感できたので、気を引き締めていこう。


「『反剋』は?」


「……やっぱり駄目だな。予想通りだけど」


「そうそう楽は出来ないか……」


 頼みの綱という程でも無いけど、あるととても楽な『反剋』さんは今回もダンマリだ。使い所がなあ、本当の本当に必要な時ぐらいじゃないと使えない。いやまあ、雑魚にも使える相手はいるけど意味無いし。必要になって、使えたのは土地神とクローナの2つだっけ?少な。ゲームバランスはちゃんと考えられているという事にしておこう。



「グルルァ!」


「やっべ!」


 少し距離を離していたら、竜は熱線を吐いてきた。熱線というか、まさにビームといった感じで、ショウの後ろに隠れ、熱線も直撃したわけでも無いのにその熱量は凄まじかった。余波で若干ダメージを受けたんだが……直撃したら蒸発するんじゃねぇの?


「……!やっぱりキツいね……」


「こっちも攻撃しないとなっ!」


 スキルも発動していた様だが、ショウでもやっぱりキツいらしい。受け続けるのは難しいか。

 クローナは離れていたので、こっちに注意が向いている竜の後ろから攻撃を仕掛けようとしている。こっちも囮、竜が気づいてあちらに対処する様なら1撃与えるつもりで駆け出す。

 クローナにタイミングを合わせ刀を振るうが、両方に気づいていた竜は素早くその巨体を動かして避けた。そのまま前足を振り下ろしできたのでこちらも避けて、後ろへと下がる。


「……反則じゃね?」


「いや、あれぐらいは動くよ。はあ懐かしいね……2度と戦いたくないと思っていたっけなあ……!」


「フィールドボスにしては強すぎないか?」


 フィールドボスは関門ではあっても、先を阻むものでは無いと思うのだが。最低限の力さえあれば倒せるぐらいが丁度良い。

 厄介なギミックも無く、単純に強いタイプ。レベルが上の方になって出てくると純粋な技量を問われるから1番難しい類の相手だな。


「【貫牙剣(アウラ)】っと。出し惜しみ無しで行かないとな」


「死なないでねー」


「死ぬつもりは毛頭無いわ」


 避けられた後も攻撃を続けたクローナに今は注意が向いている。なるべく死角から近づいていくが、まあ先の例から多分気づかれてはいるんだろう。現に後ろ足を突き出され牽制された……が、そのぐらいでは止まっていられない。足の位置を見極め、飛び乗る。更に竜が動く前に胴体に移動する。


「【抜刀】!」


「グラァァァ!!?」


「こちらも喰らいなさいっ!」


「グラァッ……!」


 若干浅かったかもしれないが、良い感じに背中を切り裂けられた。いきなりのダメージに竜が驚いている間に、クローナが頭に大鎚の1撃をクリーンヒットさせた。痛そうだなあ、竜でも脳味噌が揺れたのか、少しぐらいついている。これは攻撃のチャンスと手当たり次第に竜を斬っていく。今までは妨害に徹していたモモも小規模だが攻撃系の魔法でダメージを与えてくれている。

 だが竜の方もずっと無抵抗のまま攻撃するのは許してくれない様で、数秒で立て直して、無闇矢鱈に暴れ回り、俺達を引き剥がした。


「痛て……ちょっと掠った」


「回復しますね」


「ありがとう……」


「まあそんなに上手くはいかないよね」


「でも多少は与えられただろ?」


「そうだね、これなら……まあ油断は出来ないか」


 雑な攻撃の割には結構なダメージを与えられたはず。血のエフェクトも止まっていないし、この調子なら何とかなるか……な?

 クローナはポーションを飲んだ様でまだまだ元気そうだ。コトネさんの魔法で少し減ったHPも回復したので、これで心置きなくまた近づける。


「じゃあ、第2ラウンドだ」


「あっちも暴れるのをやっと止めたみたいだしね」


 竜の方も、無闇矢鱈に暴れたお陰で、幾らか落ち着いた様だ。こちらとしては冷静さを欠いてくれていた方がありがたいが、何の秩序も無く暴れられるのは困る。しかし、竜の鼻息は荒く、心なしかこちらに向ける視線もきつい。

 もしかして怒っていらっしゃる?まあそうだろうなあ、いきなり斬られたと思ったら頭を思い切り叩かれて、ふらついている間に無数に斬りつけられたもんな。魔法も結構ぶつけられたみたいだし。うん、俺ならバチクソにキレるわ。

 竜は息を吸い込むモーションをとった後、こちらに向かって熱線を吐き出した。


「『グレイシアマジェスタ』」


「【ストッパブル】……!」


 だがモモの十八番の魔法で数秒防がれ、その間にショウの後ろに隠れたので難を逃れた。モモの魔法を挟んだ事でショウの負担も幾らかマシだった様だ。それにしても、熱線と氷なのに数秒防ぐとは……流石はモモか。

 竜は、反撃の熱線も大した効果が無かった事に怒髪衝天な様子で、口から火が漏れている。ショウの情報からしてそのまま吐いたりはしないだろう。


「あ、飛ぶ気だね」


「阻止……ああ、無理そうだな」


「じゃあよろしく」


「おう、【空走場(アハルテケ)】」


 竜は飛ぶモーションをしたので止めるべきなのだが、生憎こちらの体勢だと間に合わない。ならば飛ばれた時の行動をした方が早いので、エクストラスキルを使い身構える。

 火球を飛ばすのは、きちんとモーションがあるので、飛ばす事自体を妨害出来れば下に火球が行く事は無い。つまりは俺が空中で絶えず邪魔をすれば良い。何か失敗しそうな感じがするけど、やるしかない。うん、出来る出来る……多分。

 そして竜が飛び上がったので、こちらも足場を出して駆け上がり、竜の方へと向かう。


「グギャオ!」


「いきなり吐くな!」


 余程長距離の攻撃でないと届かない高さにまで飛んだ竜は、数瞬もおかずに火球を吐き始めた。思ったより動きが素早く、このままでは普通に天候をふざけた感じに変えられてしまうので急いで竜へと向かう。もう既に3発ぐらい放たれているので何とかしないと。3発ぐらいならショウ達も何とか出来るだろうが、少ない事に越した事はない。


「そらッ!」


「グルゥァ!」


 近づいた所で刀を振るうが、難なく避けられた。まあここは相手のテリトリーなので、予想外という訳でも無いが空中戦はきつい。飛び上がるぐらいは何度もあるけど、空中戦は初めてじゃないだろうか。慣れない事するもんじゃない。

 とりあえず火球を放つのを阻止する事が出来たので良しとしよう。


「グガァ!」


「熱線は吐くんかい……!【抜刀】!」


 すんでのところで放たれた熱線を避け、刀で斬りつける。【貫牙剣】の効果時間も残り少ないので、多少のダメージは与えておきたい。時間が経てばまた地上に戻るだろうが、また飛ばれるとクールタイム的に困る。


「グルルゥ……!」


「あ、ちょっ、引っかかったァ!?」


「ルァア!?」


 斬られた竜は身を捩り俺から離れようとした。こちらも折角詰めた距離を離されては叶わないので、思わず左手で竜の体を掴む。どうせ弾かれるだろうが、しないよりはマシという感じだったのだが、翼の根元、その辺りの鱗は鋭くなっており、左手が突き刺さって引っかかった。千切れはせず、そのまま竜から離れる事は無い……というか、エフェクトやら何やらのせいでグロ画像にモザイクかけたみたいになっている。いやまあ現実だったらそうなっているんだろうけども。変な事態にはなったが距離は詰められており、丁度良い感じに近くに翼がある。竜も振り落とそうとしているが、生憎こっちもどうやったら離れるのか分からない。


「【刺突】!」


「クルァァァ!!」


 翼の根元に刀を突き刺す。【貫牙剣(アウラ)】があるとはいえ不安定な体勢に片手では心許ないのでスキルで勢いを増す。そして深く突き刺さった刀を無理矢理動かし、翼を斬っていく。

 その効果は凄まじく、斬っている側の翼の動きは止まり、飛ぶ事が難しくなった理由は下へと落ちていく。確か落下ダメージはあるからもしかしたらこれで死ぬか?あ、俺も巻き込まれるわ。


「抜けろ……!あー、音がキモい!」


 刀をしまい、右手で鱗を掴み左手を抜こうとする。痛みはもちろん無いが、最低限ある感覚と音が嫌な想像を掻き立てるので気持ちが悪い。

 落下速度は思ったらよりも速く、もう少しで一緒に落下となるところだったが、何とか鱗から手が抜け、【空走場(アハルテケ)】で減速して地上へと降りた。若干地面をひび割れさせる勢いで落ちた竜は、落ちた直後は微妙に動いていたが、1分も経たずに動かなくなり、ドロップアイテムを落として消えていった。一時はどうなるかと思ったが、討伐完了だ……何か運が良かったな。


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