第二十三話 直接聞くのが1番早いけど
「コウさん、その素材集めを手伝ってはいただけないでしょうか?」
「デジャブ」
「え?」
「あ、いや何でもない……」
ログインしたら、コトネさんからそう頼まれた。昨日の今日で似た様な始まりだなあ。今度はコトネさんと素材集めか……まあ昨日と同じで、直近でしなければならない事が無いから別に良いんだが。今日も戦闘職のメンバーは出払っているみたいだし、今回はクルトやアゲハに頼むのは無理な話か。クローナとかもそうそう良いタイミングで戻ってくる事は無いだろうしな。まあ行くか。
「大丈夫だけど……何処に?」
「それは、例の群島の1つに薬剤に使える素材が豊富に群生していると聞きまして」
「へえ、そんな所があったのか……あれ、何かのお題になってるんじゃ?」
「いえ、それに関係無い島もいくつかあるみたいですよ」
「そうなのか」
てっきり全ての島が何かしらのお題に関係あると思っていたのだが、そんな事は無かった様だ。そんな島がある理由についてはついて……オマケとかそんな感じの認識で良いのかな。
「そうなると、船が必要に……持ってるのはクルトか」
「鍛冶場にいるはずですね」
「貰ってこないと」
鍛冶場に行くと、クルトは丁度休憩中だったので、すぐに船を渡してもらえた。早速2人で船に乗り、目的の島へと向かう。
話を聞いているのでもちろん島の場所も分かっており、大陸に近い側にある事もあってすぐに着いた。
着いた島の環境は森というかジャングルというか、足して2で割った感じだった。ありそうだが、実際にこんな環境ってあるのかな……あるとしたらどの辺なんだろうな。
「じゃあ素材集めを……モンスターが出るとかって?」
「小型のイノシシみたいなモンスターが出るらしいですよ。素材を食べるらしいので、見つけたら倒してもらえると……プレイヤーを見たら突っ込んでくるみたいですし」
「イノシシ……そのまんまだな」
まんま害獣みたいな扱いだな。荒らすというか、危害を加えにきたのはプレイヤーだけど。まあ余程環境を破壊しなければリポップはするんだし、倒しても問題無いかな。素材に関しては、皮とか肉とか、まあそのぐらいのものしか出ないらしい。何か特徴があるという訳でも無し、金の足しぐらいにしかならないそうだ。うーん、お邪魔キャラ。
採れる素材は、辺りを見回せばゼンマイやら何やらそれっぽい物がチラホラ見える。ジャングルでゼンマイがと思ったが、鑑定してみれば全くの別物だったから、気にしすぎか。島の端でこれなのだから、素材の量は結構ありそうだ。薬士系のジョブのプレイヤーにとっては宝庫だな。一応護衛扱いなので、あまり離れすぎない様に素材を採取していく。
「そういえばサブジョブ関係の調子はどうです?」
「はい、順調ですね。最近は作った物も売れる様になりましたし、質の良い物も成功率が高くなってきたので、お役に立てそうです……まあモモさんがいると影が薄くなっちゃうんですけど……」
「それはな……まあモモが万能すぎるからな……」
「サブジョブなので、本職に人にも劣りますし」
「それはまあ、そうだろうな……まあ順調なら……」
まあ上には上がいるという事で。モモは魔法で大体こなせるから、バフも状態異常もどうにか出来る。回復はコトネさん自身がどうにか出来るからな。まあサブジョブだから趣味の範囲で良いだろう。
素材を採取するのに集中すると、自然と話さなくなるから話題を振ってみたが、そこまで長続きしなかった……うん、素材集めに集中しよう。
気を取り直して見つけた素材を採ろうとしたところ、草の陰から出てきたイノシシらしきモンスターがハムハムと食べ始めた。こいつがそうか。
「【抜刀】」
「プギッ!」
「えっ」
早速倒そうと、イノシシに向かって刀を振るう。しかし雑に攻撃したとはいえ、それなりの速度があったはずなのに避けられた。まさか避けられるとは……舐め過ぎてたな。イノシシは反撃してくるかと思ったが、背を向け逃げ始めた。
「あ、こら……それ!」
その動きは素早く、刀では届かないので、久しぶりに投げナイフを取り出し投げつける。
「プギャッ!?」
投げたナイフは見事命中し、イノシシの動きを止めるに至った。イノシシのイメージらしく、真っ直ぐ逃げてくれて当てやすかった。
「鳴き声豚みたいだな……親戚だから良いのか?」
もがいているイノシシの所へ行き、とどめを刺す。ドロップ品は、皮と肉か。まあ売却かな。
それにしても、避けられるとはなあ。低レベルのプレイヤーだと倒せないのではないだろうか?まあ対処法は分かったし、十分に倒せる余地があるから良しとしよう。
「あ、ありがとうございました」
「いやそういう役割だから……あ、素材の方は?」
「……全然駄目そうですね」
「やっぱりか」
イノシシに食べられていた素材の方は見た目通り価値はほとんど無くなっていた。まあそうだよな、幸いそこまでレアでは無い素材らしいのでそこまで落胆しなかった。入手数が少なかったので手に入れておきたかったのだが……まあしょうがない。
気を取り直して、素材集めに戻る。そこからもちょくちょくイノシシのモンスターは出現した。気配も無く現れ素材を食べていたので何回か駄目にされたが、全て討伐しておいた。本当に害獣扱いだったな。とりあえず、コトネさんは欲しい分の量の素材を手に入れられた様で満足そうであった。
「はあ、良かったです!」
「結構量集めたからな……じゃあ帰ります?」
「はい、今日はありがとうございました……あっ、まだ少しだけ良いですか?」
「あ、何かありました?」
「旅館のある島では温泉か湧いているんですけど、そのお湯が溶媒に使えるという話を聞きまして、それも手に入れておきたくて……」
「それなら、行きますか。ここからだと少し迂回する程度で済みますし」
「ありがとうございます」
そういえば旅館の裏手の方に湯気が上がっていたな。話を聞けば、プレイヤーも入れるらしい。もちろん水着着用必須らしいが……まあ温水プールみたいなものなのだろうな。
コトネさんお目当てのその温泉もそこにあるそうで、旅館を通り、そこへと向かう。
しかし、時間が経っていたので忘れていたが、相変わらず従業員の人達に2度見される。モモ達NPC関係では無い事は判明したが、それはそれで理由が分からない。
「何故なんでしょうか……?」
「さあ、他のプレイヤーはそうじゃ無いみたいだし」
「どの方も忙しそうなので聞きづらいですしね」
「無理矢理呼び止めるのは……うーん」
「謎ですね」
「謎だなあ」
気になりはするが、実害は無いので無理矢理呼び止めてまで事情聞くまでには至らない。もし面倒事に発展すると目も当てられないし。ショウにも調べてもらったが、案の定ヒントすら分からなかった。まあ2度見されると言っても今回は3人すれ違っただけなのでやたら目につく訳でもないし。
2人でさっさと温泉を採取して、屋敷に戻った。あ、温泉自体は採る事自体は他のプレイヤーに迷惑をかけたりしなければ自由らしかった。




