第二十一話 お買い物
えー、本日は……特段特に言う事も無い感じの晴れ。暑いには暑いのだが、ここ数日に比べれば1番気温が低いのでまだマシだ。
俺が今いるのは最寄りの駅前に向かっている。少し前に琴音さんに買い物に付き合ってくれという話になり、イベントも落ち着いたので今日という事になった。
一応10分前に着く様にしたのだが……あ、もういた。
「琴音さん」
「あ、鋼輝くん」
「待ちました?」
「いえ、来てから5分も経ってないので大丈夫です」
「そうかそれなら、行きますか」
「はい……!」
予定より早いが、早速駅の中へと入ろうとすると、何やら端末を見た琴音さんがキョロキョロを後ろを見ている。つられて後ろを見てみるが、数人通行人がいるぐらいで、特に何の変哲も無かった。
「どうしました?」
「あっ、いえ!何でもないです、行きましょう!」
「ああ、はい」
まあ、大丈夫そうなら良いか。改札を通り、電車に乗る。1本早いけどまあ、特に支障も無い。目的地は近所のでかいショッピングモールだ。人が多くない内にという事で開店時間当たりに行く。
「それにしても、本当に翔斗とかじゃなくて、俺で良かったんです?」
「は、はい」
ここまで来て何だが、翔斗の方が絶対にセンスあるはずなんだけどなあ。何回か参考にした事もあるし、その方が良いと思うのだが。今日買うプレゼントを贈る相手の琴音さんのお父さんのセンスが俺に似ているという話だが……そこまでしなくても余程の物を贈らない限り、喜ぶと思う。まあ琴音さんがその方が良いと思ったのならその方が良いのだろう。精一杯変な物をチョイスしない様にしなければ。
それにしても、この状況、男女2人きりで買い物……デー……いやいや、無い無い、電車に轢き殺されてしまえ。いや駄目だ、ありとあらゆる人に迷惑がかかるな。
というか、話題が無い。えー、話題話題……電車に乗って数分も経たずに会話が無くなってしまった。ずっと話していたいという訳では無いが、辛い感じの沈黙が続いている…‥あ、そうだ。
「そういえば、あの金額凄かったな」
「あ、そうですね。とにかく桁が凄かったですね……」
昨日手に入れた目がチカチカする程の宝の山、いつも大活躍ショウの伝手により鑑定してもらった。その結果は1億を余裕で越え、10億に届きそうなレベルだった。まさかそんな金額になるとはなあ……流石に予想外過ぎた。あり過ぎて逆に困るぐらいだ。配分はまだ決めていないが……まあ等分だろうな。所持金は偉いことになるだろうけど、それをしないと、持ち主不在のお宝が屋敷にある事になる。暫定だとしても持ち主を決めておけばまだ安心だ。
ちなみに、称号に関してだが、表示されていた番号は手に入れた順番では無く、規模の順だそうだ。現にあの時確認出来た相手達は5より若い番号だったそうだ。本当に俺達より多い所が4つもあったのかという感じだ。宝の中には金塊だけで無く、宝石もあったのだが、どちらにせよ、誰かが一気に放出したら事件になりそうな物だ。
「運営は合計でどれだけ用意したんだろうな……」
「量はともかく、他の人達もお宝を手に入れてはいるはずですからね……確か最低でも数百万ぐらいにはなっているとか?」
「金の価値とかが暴落しないのは、ゲームって感じがするけどな」
「まあ私達にとって都合が良い事ですし、そこは有難いですね……あっ」
「もう着くか」
電車のアナウンスが、もうすぐ目的の駅へと着く事を知らせる。ショッピングモールは目と鼻の先なので、ホームからでもよく見える。このショッピングモール自体は結構昔に建てられた物らしいが、数年前に改築したのでそんな歴史は感じられない。ショッピングモールに歴史を感じる必要性は特に無いので、まあそれは良いとして。
親に買い物で何回か連れられて来た覚えはあるが、中身はそこそこ入れ替わっているみたいだし、その記憶は特に役に立たないか。さて、迷惑をかけない様にしないとな。
「えっと、買う店は……?」
「あ、決めてます。えっと、何階かな……」
近くの案内板を見るが、大型のショッピングモールだけあって店の数が多い。ここなら大抵の物は揃いそうだが、目的の店がどこにあるのやら。
「あっ、6階でした。エレベーター……の方が早いですね」
「そういえば、何を贈るつもりで……?」
「それは、万年筆を贈ろうかと思っていまして……父は万年筆を集めるのも字を書くのも好きなので」
「ま、万年筆……そうか」
うん、全く役に立てなさそうな。俺が普段使っている筆記用具はシャーペンと百均のボールペンぐらいなんだけど。何をどうしたら役に立てるのか……翔斗の奴は何をどう判断して俺を推薦したんだ?割とこれ洒落にならない気がするんだが。まあ無難な物を選べば……大丈夫かなあ。エレベーターでその店へと向かうが、先行き不安過ぎる。
「あの、ありがとうございました!」
「ああいや……本当にそれで大丈夫でした?」
「はい、この色は父の所持品の中で、多いので」
「それなら良かったか……」
琴音さんの予算内の、これでもかと無難な物を選んだのだが、琴音さんには好印象だったらしくそれに決まった。ギリギリ面目躍如となった……内心冷や汗ものだった。
「じゃあ……あとどうするか……」
「では、あの、少し早いですけどお昼にしませんか?」
「え?あー……そうだな」
今の時間から家に戻ると、少し遅くなるか。ここで食べた方が普通だな。
「飲食店は何処……ん?」
「え?あっ!」
辺りに案内板がないか見回してみると、何やら急に動いた影が見えた。しかも見知った感じの影だ。流石に気になったので見に行ってみると、そこにいたのは翔斗と池田、西田さんだった。2人はともかく、西田さんまでいたのか。
「何やってんだ……?」
「あはは……」
「バレた……」
「す、すみません」
「急に見回さないでよ」
「いやお前が言うなよ……というかここ邪魔だな、とりあえず移動……あ、琴音さん大丈夫?」
「あ、はい。せっかくなのでみんなで行きましょうか」
この人数で通路で話し込むのは邪魔なので、近くのファミレスに入る。昼飯を食べながら事情を聞けば、翔斗は万が一俺のセンスが壊滅的だった場合の保険だったらしい。もちろん琴音さんの考えでは無く、池田の勝手な思惑だったらしいけど。いるなら翔斗で良かったんじゃ……まあ良いか。女子2人は午後に合流して一緒に買い物をするつもりだった様だ。まあつまりストーキング紛い……いやそのものをしていた事になる。
「本当に何やってんだ……」
「いや悪戯心でね」
「まあ終わった後だから良いけどさ……琴音さんは知っていたのか?」
「いえ、待ち合わせの時にいるのは知っていたのですが、まさか本当について来ているとは……」
「あの時か……」
あの時キョロキョロしていたのはそのせいか。琴音さんも知らなかったならまだマシか。全員知っていたなら酷いものだからな。
昼飯を食べたあとは特に用事も無いので解散した。流石にこのまま付き合う予定も無いし。翔斗と2人で帰る事になったので、ネチネチと文句を言っておいた。




