第十七話 鎧武者
いきなり、目の前の鎧武者と1対1の状況になってしまった。
「いやいや、どういう事……!?」
「どうしてこうなった……」
「破壊は……」
「無理だろうねぇ。頑張れマスター」
「ええ……」
ショウやアポロさんはほぼ同じ距離にいたはず。何で俺なんだ……?数センチ俺が近くにいたからとか?判定がシビア過ぎないか。ショウが盾をぶつけ、アポロさんが斬撃を放っても、壁はびくともしない。内側なら……まあ無理だろうなあ。
「戦イ終ワルマデ、破ル事、叶ワズ」
「うわ、喋った」
壁の方に気を取られていて、鎧武者が立ち上がりこちらを向いている事に気づかなかった。というか、話せるタイプなのか。深い設定があるタイプなのか、単にそういうものか……まあイベント中にそんなのはぶっ込んでこないか。鑑定するとモンスターなのは間違いなさそうだ。とりあえず理性がありそうだし、話を聞かないと。ルール確認は大事。
「えっと、戦い終わるまでとは?」
「……1対1ノ、尋常ナル対決ノ後、開ク。故ニ、我ト死合ウ他、無シ」
「なるほど」
とりあえず1対1なのは確定なのね。言い方からして試合ではなく、死合いみたいだから達成するか俺がデスペナを受けるかしか無いか。多分俺が負けたとしても他の人がまた挑戦出来るのかな?そういう事なら壁をどうにかしようとするのは意味無いか。
鎧武者は時代劇で観る様ないかにもと言った姿で、顔は確認出来ない。まあ人型なら弱点も同じだろうけど、防御力高そうだな……【貫牙剣】を使うのが早いか。
「……あと、相手が俺なのは?」
「結界範囲、最初ニ立チ入ッタノガ、オ主ダ」
「やっぱりそういう感じか……」
あれ、よく考えると、立ち位置によっては、コトネさんやクルトが……ある意味トラップだな。まあそんな立ち位置で近づく事は無いだろうからこんな事になっているんだが。運が良ければアポロさんが……しょうがないよな。
「あー……まあ頑張って」
「精々頑張るよ……!」
交代出来たら苦労しないから、やるしかない。気楽に行こう気楽に。
「準備ハ、良イカ?」
「ああ、待っててくれたの……大丈夫だ」
優しいな……優しいか?俺の返事を聞いて鎧武者は刀を抜き構えた。ざっくりとした分類は大太刀かな、見た目もまたシンプルな感じの日本刀だ。純粋な物理タイプだろう。
こちらも刀を抜き構える。スタイルが分からない以上、【抜刀】やカウンター系、特にタイミングがシビアな【居合】は中々にリスキーだ。普通に強そうだから気が抜けないな。壁はモモのバフを通さなかったから、支援は期待できない。
「イザ尋常ニ……勝負!」
「っ!【朧流し】……!」
鎧武者はそう言って、こちらに迫り、大太刀を振り下ろした。何とか体を動かし、スキルでその攻撃を受け流し、距離を取る。
予想以上に動きが速かった。受け流した感触からして、相応に力も強そうだ。ただ先のイプシロンさん戦で自分よりステータスが高い相手との戦闘は経験した。そんなに時間も経ってないからまだ体が覚えている……仮想だけど。
そう考えると、イプシロンさんよりは弱そうだな。まあでも楽観的にはならない。イプシロンさんと違い、気迫が伝わり、威圧感が凄い。
まあ他に関係無いプレイヤーもいない。出し惜しみは無しだ。どんどん使っていこう。
「【貫牙剣】」
「ホウ」
エフェクトが出ているから、鎧武者もこちらの変化に気づいた。しかしどんな効果が付与されたのかは知らないはずまただから、判明しない内に致命傷を与えたい。
「【刺突】!」
「甘イ」
「うわっ」
鎧武者は避けるでも無く、こちらの刃に触れる事なく大太刀で俺の刀を受け流し、反撃してきた。無理矢理体勢を崩して首を斬られるのは避けたが、右肩が少し斬られた。その程度で済んで良かったと言うべきか。
「あっぶねぇ……」
「フム、マア、ソウコナクテハ」
「初見で対処してくるのかよ……」
「マアナ、経験ノ成セルモノダ」
「知らねぇよ……!」
どんな経緯で、このイベントのお題やってるか分からない鎧武者の経験なんて知らないわ。エフェクトが出てるとはいえ、確実に対処してくるのは狡すぎないか……こうなりゃ『反剋』で一気に。試してみたら、判定アリだった。本当に基準がよく分からないな。
「『反剋』……あれ?」
「ム、魔法カ?コノ中デハ使エヌゾ。離レテ攻撃サレテハ敵ワンカラナ」
「そうですかー……」
まさかの使用禁止。そういう設定があるんなら、最初から言っておいてくれませんかね……まあ魔法を使う様には見えないだろうけども。ジャンケンの後出しに思えてくるな。
そうなると、もしジョブを魔法職にしているプレイヤーは確定で死ぬな。完全物理で戦えという事か。準備が整うまで待ってくれるぐらいには優しい代わりに、説明が足りなかった。
手札はあと【空走場】か。イプシロンさんの時と同じ様な感じになって来たな。流石に2連敗は避けたいので、何が何でも勝たないと。
「ソロソロ問答ハ良イダロウ。ココカラハ刀デ語ロウデハナイカ」
「ええ、ここまでチュートリアル扱い……?」
大太刀を構え直した鎧武者の気迫が増した。いやあ、大丈夫かなこれ。
「ハァ!!」
「【レストリジェクト】……!」
「ヌゥン!!」
「うわっ、ぐっ……!」
念の為カウンターのスキルを発動し、攻撃に備えたが、鎧武者の方は即座に体勢を変え、俺の刀の腹を捉える様にしてきた。衝撃で若干ダメージを受けた……スキルを発動しておいて良かった。
腹で受けたせいで耐久値がゴリっと削れたが、まだ折れていない。色々と認識が甘かった。普通に強いのは苦手なんだよなあ、一癖あるタイプの方がまだ楽なんだけど。
「フム、来ナイノカ?」
「やるよ、やるやる」
【貫牙剣】の効果が切れるまであと約2分。それまでにやらないと駄目なんだなあ。
「フッ!」
「ヌッ……」
そこからは相手の動きを注視し、刀を振っていく。相手の技量が高く、攻撃を誘って相手の大太刀を斬るのは無理筋なので、こちらから1撃を与えるしかない。
こういう戦闘は、先にまともなダメージを受けた方が負けると相場が決まっている。こうして考えると、そも武器の扱いが下手だなあ……上手な高校生って何だ……ああ、アポロさんか。
お互いに細かい傷が増えていく。状況は楽観的に見積もっても不利。
「ハァッ!!」
「ナラバ……!」
「やっべ……!」
刀を振るうが、いなされ、体勢を崩された。そのままだと体が2つに両断されかねないので、その勢いのまま転がり距離をとる。
「奇妙ナ動キヲ……ソウ上手クハイカヌカ」
「あっぶねぇ、死ぬかと思った……」
いやもう、どうにもならないな……肉を斬らせ無いとチャンスはやって来ないか。
「行クゾ……!」
「【ディケイブースト】、【居合】!」
相手の攻撃を避ける事は考えず、相手を斬る事だけを考える。そのお陰か、相手の刀を断ち切り、そのまま胴体に深い傷を残した。しかし、鎧武者の方もそのまま大太刀を振り切り、俺の左腕が斬られた。
「ヌゥ、マダダ!」
「まだ動くのか、【空走場】、そらっ!」
「ッ!グッ……」
鎧武者の横薙ぎを上へ跳ぶ事で避け、刀を頭に突き刺す。そして鎧武者は煙の様に消え、残ったのは傷跡がある兜だけだった。あ、結界も解けた。
やっと、終わっ……いやいや、その前に腕。回収して、コトネさんにくっつけてもらわないと。
「お疲……とりあえず腕だね」
「そうそう、コトネさん……!」
「は、はい!」
鮮度が命、新鮮ならそこまで強力な回復魔法じゃ無くてもくっつくんだ。それにアゲハもいてくれて助かった。装備を直してもらわないと。




