第十五話 あー、地味
「それで次は……?」
「ちょっと待って……「東、虎、討伐」だって」
「今度は討伐ですか」
「虎……どういう手合いですかね?」
とりあえず次の島へと移動する。ちなみに蝶を捕らえていた木の籠はお題の紙が変化した後は1人でに開き、蝶を解放した。どういう仕組みなんだろうかと思ったが、まあそこまで興味は無いし。更にはコトネさんが捕まえる様子を周りのプレイヤーも遠目にだが見ていたみたいで、パーティに回復役がいるところは早速試している様だった。まあこんな場所だから見られるのも真似されるのもしょうがない。逆の立場なら俺達もそうしたので、特に気にしない事にした。
着いた島はジャングルの様な感じの植生だった。まあ目的が虎だからな……サバンナにいる種もいるけど、これはこれでイメージ通りというか。
「じゃあ進もうか」
「どんな感じなのやら」
今度もあまりプレイヤーは見かけない……いや、いるにはいるけども。今回も簡単なのかどうなのかはまだ分からないが、よく考えればどうにかなるものばかりだったから、何とかなるだろう。
「あ、近く……いや向かって来ている」
「マジか、好都合だな」
モモが探知したのは、虎に近い形のモンスターだと言う、ならばお題のモンスターである事は間違いないので、全員武器を構えるなどして戦闘に備える。
数秒後、草をかき分け跳び出て来た虎は現実の物に近い姿をしていた。唯一違う点を挙げるとすれば、牙が黒かった事だろうか。虎が向かったのはショウの方で、真正面の攻撃を上手くいなして方向を切り替える。虎は少し離れこちらの様子を窺っているが……異常が生じたのはそれからだった。
「な、なんか引っ張られるんだけど?」
「私もです」
「こっちも……うわ」
いきなり武器が引っ張られる様な感覚が生じた。どういう事かと戸惑っていると、次の瞬間にはその感覚は強くなります武器を手放してしまった。手から離れたその武器はそのまま空中を漂い、虎の方へと向かった。俺の刀だけでなく、ショウの盾、アポロさんの刀、コトネさんの杖、クローナの武器は何とかしまう事が出来たみたいだった。
「ええ、ちょっと……」
「スパーク……磁力ですかね?」
「多分そうじゃない?というか、僕自身引っ張られてるんだけど……わぁ!?」
「うわ、面白」
全身金属鎧だからか、ついにショウまで空中に漂いはじめた。空中でジタバタもがいている有様は、こう……面白いとしか形容できない。スクショしとこ。
「……冷静に考えると不味いですね」
「武器が無いのはなあ」
「では」
「ああ、分かったよ。『アイスランス』」
「ぐぇ!?」
モモが試しと雑に放った魔法は、真っ直ぐ虎へと飛んで行ったが、間に移動したショウに直撃した。やっぱり盾として使う感じか……というか酷い扱いだな。
「あ、すまないねぇ」
「い、いや事故なんで……」
「そも鎧ならしまえるんじゃ?」
「あ、そうか……うぐっ」
鎧をしまったショウは磁力の影響から逃れた事により、落下した。頭から。珍しく抜けていたな。
「いてて……この状況だと、僕完全にお荷物だね」
「とりあえず、クルト達の所にな」
「そうするよ、頑張ってね」
ショウが所持している装備は全て金属が素材に使われているから、戦闘中は全く役に立たないだろう。
さて、下手に魔法を撃っても装備を盾にされる。かといって素手で戦うのはなあ。竹光とか用意しとけばよかった。虎の方は浮かせた武器をこちらへと向け臨戦態勢だ。逃げようにも流石に自分の武器を置いてはいけない。
「結局素手か……?」
「金属が全く入っていない武器が無いですからね……」
「模擬戦用は全部屋敷だからなあ」
まさか必要になるとは思うまい。そもそも刀身は金属では無くとも、柄が金属である物がほとんどだ。なのでわざわざそういう物を作らない限りこういう時に役立つ武器は存在しないだろう。クルトにも聞いたが手持ちに無いらしいし。
せめて、武器をしまえれば良いのだが、事にはどうにも出来ない。棒でも良いから装備出来る物があればスキルが使えるのだが。若干ステータスが高いクローナもいるし、多少はマシかな。
また自分達の武器を盾にされてしまうと敵わないのでモモは妨害の方に徹してもらう。少しでも動きを封じる事が出来れば多少は楽になる。
「拳士系統向きのモンスターですね……」
「それに器用だな……うわっ」
奪った武器を防御にも攻撃にも使ってくる。磁力の及ぶ範囲も広い様で飛ばした刀が向きを変え後ろから来る事もあった。
「とりあえず……【フラジャイルクイック】」
どうなるかは分からないが、地道に殴っていかないと。武器無しで戦うとかどんな縛りプレイ何だか。飛んで来る刀や爪による攻撃を掻い潜り、虎へと殴りかかる。しかし殴ろうとした瞬間に上からショウの盾が降ってきて盾に殴る事になってしまった。
「いってぇ!」
「ガァ!!」
「あっ、ちょっ」
「ふっ!」
流石に真正面から盾を殴るととても痛い。システムで軽減してこれとは現実ならどれだけ痛いのだか。しかもそれにより隙を晒してしまい、虎が噛みつこうとして来た。アポロさんの飛び蹴りによって何とか窮地を免れたけど。
それを受けた反応からして、磁力を除けば、ちょっと頑丈な現実の虎ぐらいなのかな?武器が無い代わりに体力が少ないならありがたいが。
「助かりました……」
「いえ、あれは痛いと思いますので……」
「結構速く動かせるんだな……」
浮かせた物の質量はあまり関係無いようだ。そうなるとクローナの武器が奪われなくて良かったな。質量による攻撃はキツい。
「とりあえず気をつけながら殴るか蹴るかしないと」
「時間かかりそうだな」
まあ、そこからは特に面白みの無い作業風景しか無かった。攻撃を掻い潜り、雀の涙よりは多少マシなダメージを重ねていくだけだった。
拳士系統であればまともなダメージを与え、まともな戦闘になるのだろうけど、無い物ねだりをしてもどうしようも無かった。今回はクローナが大活躍だった。武器無しならステータスが高い人物が役に立てる。
モモも小規模な魔法を使い攻撃を妨害してくれたのは助かった。拘束系の魔法のおかげでタコ殴りにする時間もあったりしたし……まあ、倒した後、武器の耐久値が大分減っていたのはしょうがない。
そしてとどめを刺したのは、クローナによる踵落としだった。まあ体力も減っていたし、決め手は決め手だろうが、順番的にそうなったのだろう。戦闘のみで1時間ぐらいかかった……あー、2度とやりたくない。
それに、クルトに応急修理をしてもらうのにも時間がかかった。それ用のアイテムもまあまあ多く消費したみたいで、費用もかかったし。宝を見つけられたとして、プラスになると良いんだけどなあ。




