第十二話 トッププレイヤー
「イプシロンさん、俺の手札大体知ってますよね?」
「エクストラスキルの事?攻撃用のと、移動用のでしょ?」
「そりゃ知ってますよねー……」
悪魔やら天使やらの件を報告する時に必須だったから、効果は知られているか。スキル名自体は教えていないけど、効果が知られている時点で意味無いな。こっそり使ったところで、【貫牙剣】も【空走場】もエフェクトが出るから普通にバレる。あとは『反剋』だが……知っているかはどうか以前に、使える可能性が微塵も無い気がするので、そもそも手札の内に入らない。
何処かでショウにイプシロンの情報でも聞いとけば良かったなあ。エクストラスキルを1つ持っているらしい事は知っているけど、それだと意味無いし。ここで手札を開示してくれたり……そんな優しいを通り越して馬鹿な人じゃないか。アポロさんだって、アレは対価だし。見合ってなかったけど。まあ今更考えても仕方ないので、勝つ方法を……3次職でいけるかなあ。
「……どうする?もう少し時間いる?」
「いや……大丈夫です」
まあ剣士系統のスキルは大体知ってるから、そこを気にしていこう。エクストラスキルは、大体初見じゃ無理だし。【貫牙剣】みたいな直接攻撃系じゃない事を祈ろう。
装備の確認も終わったので、せり上がった舞台の上へと上がる。すると舞台の中心、目線の高さぐらいの所に数字が浮かび上がり、カウントダウンが始まった。舞台の端にも、見えない壁的なのが出現した様だった。出れないが、抵抗も無いので、足場代わりに使う事は無理かな。実際にあると変な感触だなこれ。設定は……今は気にしなくていいか。
カウントダウンが10秒を切ったので、刀を抜いて構える。始まった瞬間に【抜刀】で距離を詰める手もあるが、普通に見切られそうだ。
イプシロンさんの方は普段使いであろう剣をしまい、別の剣を取り出していた。剣身に2本の黄、いや金色のラインが2本入ったロングソードだ。何かあからさまに威圧感があるような。
「えっと、それは……?」
「はは、それは始まってからのお楽しみだよ」
「今答えてくれると嬉しいなあ……!」
まあエクストラスキル関係か。気をつけないと不味いな。
そしてカウントがゼロになった。いきなりエクストラスキルを使うという手もあるが、そもそもお互いに様子を見合い、動かない。
「先手は譲るけど……?」
「んー……じゃあありがたく。【貫牙剣】!」
「うわっ!?最初から!?」
手札が知られているなら出し惜しみする必要無し。驚かせる事には成功したが、見合っている時に距離を取られてしまったせいで、避けられた。剣で受けてくれれば1番良かったんだけどな……欲を掻きすぎか。だが今の体勢なら次の攻撃を避けられないはず。刀の向きを変え、胴体に向かって振るう。イプシロンさんは剣を動かしたが、犠牲にするつもりなのか?交換する隙を作らせないつもりだが。
「【聖騎剣】」
「え?」
俺の刀とイプシロンさんの剣がぶつかる。すっぱり斬れると思いきや、大きな金属音が出た。つまり全く斬れず、普通の時の様に打ち合っている状態だ。よく見ると、イプシロンさんはオーラみたいなものを纏い、剣もそのオーラの様なもので覆われている。
「はあ!?何で……」
「大分賭けだったんだけど……勝った様で良かったよ……!」
「え、強っ……!」
全く状況が分からないが、引くわけにはいかないので鍔迫り合いに移行した。だが、いくら俺よりレベルが高いとしても有り得ないレベルでイプシロンさんの力が強い。モモのバフが一通りかかったとしてもここまではいかないはずなのに。STR特化のステ振りでは無いはすだ。
確かさっき、エクスカリバーと言ったはず。超有名どころだな、このゲームにもあったのか。まさしく騎士だな。しかし、有名すぎて逆に効果が分からん。この膂力も【貫牙剣】と打ち合えているのも訳分からん。
「んぐぐ……チッ!」
力の差が激しく、このままでは押し潰されそうなのでやむを得ず一旦後ろに下がる。まさかこうなるとは。
「一体どうなっているんだ……」
「……まあ良いかな。この剣はね、エクストラモンスターからドロップしたんだよ」
「え、ドロップ……?」
「結構特殊だったみたいでね」
「まあそんな感じか……打ち合えたのは?」
「破壊不可なんだよ。どちらの効果が優先されるか分からなかったから、ヒヤヒヤしたよ」
「マジか……」
エクスカリバーは星3だそうだ。星か、星の数なのか?星の数イコール強さでは無いはずだが、大体の目安にはなっている。という事はどうにもならないか?早速手札の1つは殆ど無効化されたんだが。
「1つ、良い事かどうかは分からないけど、今の打ち合いで多少ダメージは受けてるよ。あくまで壊れないだけだからね」
「そうっすか……」
ならありがたいが……それでもイプシロンさんに余裕があるのは、鞘のせいだろう。オーラの動きが鞘を起点にしてイプシロンさんを纏っているみたいだからな。剣とセットでドロップしたのは間違いない。エクスカリバーの鞘が伝説通り……は流石に無いだろうけど、それを由来とした効果があるだろうな。ぶっ壊れじゃね?わざわざダメージ受けていると言うなら、リジェネもあるんじゃ。
『反剋』も判定外だったし、後使っていないのは【空走場】ぐらいなんだけど。プレイヤーならゲームバランスの為に制限はあるはずなんだけどな。やり様はあるはずだ。
「じゃあ今度はこちらから行くよ……!」
「【朧流し】……!」
上段からの攻撃を、スキルを使ってなんとかいなす。それでも衝撃とダメージを受けた。動きは速いし、1撃が重すぎるな、まともに打ち合えない。距離を取らないと。
「……それ、どれだけバフかかってるんです?」
「ん?んー……2倍ぐらいだったかな?」
「2ば……!?」
どうせレベルは100だろうし、そのステータス、装備、ジョブ諸々含めて2倍かよ。全ステータス2倍は流石に……覚醒した主人公か何かですか。余裕はあっても油断はしていないだろうから質が悪い。こうなると舐めてかかってきてほしい。時間制限はあるだろうけど、何分なんだか。こっちも【貫牙剣】が切れると困る。
それからは、何度も打ち合う事になったが、お互いに分かりやすい傷を負わずにダメージを受けていく展開となった。しかし、イプシロンさんの方にはリジェネ効果があるので、圧倒的にこちらが不利。ステータスの差がありすぎて不意を突く事も出来やしない。
「……いや凄いね。これ使えば、ウチのAGI特化の近接職でも対処に苦労するのに」
「まあ目は良い方なんで……」
「あはは、ショウ君から聞いてるよ」
「あいつ、どれだけ話してんだか……」
「いやいや、それぐらいだよ?」
こうして話してるだけでも、イプシロンさんが有利になるんだよなあ。ポーションでも飲もうものならその隙にずんばらりんと斬られる。唯一不思議な点と言えば、スキルを使わない事か。わざとなのか、デメリットなのか。
もう面倒だな、雑いこう雑に。そもそも勝たなくても死にはしない。
「【空走場】」
「あ、使うんだ」
「【フラジャイルクイック】……【抜刀】」
1度刀を鞘に収め、イプシロンさんへと突撃する。足場を作り移動する事で多少なりとも面倒だと思わさせられれば良い。飛び上がり、斜め上から横にイプシロンさんの頭を狙いう。
「流石に狙いが分かり易すぎるよっ!?」
「分かってる!」
動きが直線的すぎたので、難なく防がれる。だが、そもこのぐらいで倒せるとは思っていない。防がれると同時に体を捻り、床にぶつかる勢いで上に作った足場を蹴る。
攻撃する訳でもなく、床に這いつくばったので、イプシロンさんは警戒したのか後ろに下がろうとする。
「とぉ、りゃあ!」
「うん!?あっ!」
クラウチングスタートの様な感じで、下がろうとしたイプシロンさんへ向かって駆け出す。攻撃する訳では無い、目的はその鞘だ。体勢を低くしたまま横を通り、鞘を奪う。思っていたより簡単に獲れた。固定していそうなものだったが……ブラフだったか?一瞬そう思ったが、イプシロンさんの纏うオーラが弱々しくなった。大正解だったかな。




