第十話 思わぬ合流
「南東はまあ良いとして……遺跡ね」
「大瀑布といい、どんどん大雑把になってる気がするな……」
「というか、人工物もあるんですね」
「まあ橋がある時点でな……」
「とにかく、行ってみない事には……あ、見えてきましたよ」
次の島へは割と距離があった。そこまでには微妙に島の端があったりして迂回しなければならない箇所がいくつかあったので、それもあって時間がかかった。こうして移動するのにも手間がかかるのはなあ。まあどうしようもない部類に入るからどうしようもないんだが。まあ目的地が分からないよりは断然マシか。
「今度はジャングルか」
「確かに遺跡はありそうだな」
「隠された遺跡の謎に迫る……的な?」
「何だそれ」
「いやほら、テレビでたまにやってるやつ」
「まあ謎もクソも無いと思うけどな……」
ネタは全員が分からないとネタとして成立しないと言うのに。分からなさ過ぎて滑りすらしなかったので、サラッと流そう。植生自体は特に目立った事も無く、たまに見つかる素材も見た事ある様な物ばかりで、大陸にある雨林フィールドとほぼ同じ様な感じだった。この島のメインはお題にあった遺跡だから、他の物に関してはオマケなのだろう。モンスターはまだ遭遇していないが、まあそれも特に変わりは無いはずだ。
「考えられるとすれば、罠が張り巡らされているとかかな?」
「まあ大体そのぐらい……モンスターが出る事もあるだろうけど」
「謎解きは……あるんでしょうかね?」
「では迷宮の様な感じでしょうか」
迷宮かあ……脳筋的思考で進んで行ったのを思い出す。あれは攻略方法としては酷かった。今回はモモがいるから大丈夫だな。あると決まった訳では無いが、そんな場所で1つも無いのは流石に考えづらい。
進んで行くと、人工物らしい塊が見えてきた。見た目は随分と年月が経っていて、ツタが生い茂っていた。まさにジャングルの中の遺跡といった感じだ。まあ見た目はともかく、問題は中の方だ。恐らく入り口であろうと思われる所はそこは塞がっており、しかもその前には5人のプレイヤーがいた。
「誰か、いますね?」
「あれは……イプシロンさん?」
「うわ、マジか」
「おや?ああ、君達か」
塞がれていた入り口の前に居たのは、イプシロンさんのパーティだった。この場合、イプシロンさんと取り合いになる訳か……?いや、複数ある場合がほとんどだったし、そういう可能性は……まだ分からないか。
「君達も……まあお題だよね」
「そうですね……それで、何故ここで?」
「まあ見た通りだよ」
そう言ってイプシロンさんは塞がれている入り口を指差す。よく見ると、2組揃わないと開かないという文言が書かれていた。そういう事か。というか、そんな事が書かれているという事は争う前提じゃないだろうか?
「そういう事ですか」
「そうそう、という訳でよろしくね……ああ、このメンバーは全員知っているから」
知っているとはモモ達の事だろう。クランリーダーであるイプシロンさんとパーティを組んでいるのだから他の人達も相当のプレイヤーなのだろうな。
「『戦王』のアキミチだ」
「『盾王』、エコ、よろしく」
「『殺王』のヒイロです……」
後の1人はサブリーダーのアリサさんだ。バランスの取れたパーティだな。全員4次職とは……流石トップクランというべきか。タンクの女性は、ツネさんが言っていた人だろうか?とりあえずこちらも自己紹介を1通り行う。競うにせよ何にせよ、自己紹介ぐらいはした方が良いしな。競う相手は増えないのだから、少し時間を使っても問題無い。
自己紹介をしている間に塞いでいた物はスライドして消えていた。これで通れる様になったな。
「じゃあ進もうか……一応分かれて探索した方が良いかな?」
「じゃあ……分かれ道があったらそこで」
「そうだね、そうしよう」
この先がどうなっているかは分からないが、今までが早い者勝ちになっている以上、協力したところでよろしい事はあまり無いだろう。途中で分かれた方が色々と都合が良い。
と言っても、いきなり分かれ道があったりはしない様で、しばらく一緒に行動する事になった。道中では予想通り既知のモンスターが出現した。
そういえば、イプシロンさんの戦闘を見るのは初めてだな。いつもポールスターの建物で話しているぐらいだし、フィールドで会った時は素材集めでいつもの装備では無かった。この前のレイド戦では両方別の所にいたからなあ。
出現するモンスターは数は多いが、雑魚ばかりなので手の内を知る機会は無いか。イプシロンさんの戦い方は見た目通り騎士然といった感じで、凄く様になっている。
「……あれ、どうやって習得したんだろうな?」
「騎士団関係のクエストもあるし、そういうのとか、まあ別ゲーでとかじゃない?」
「そりゃあ、そうか」
今時それっぽい技術を習得する機会なんていくらでもあるか。他のゲームの可能性を考えたらキリがない。もしかしたら我流でそれっぽく見せているのかもしれないしな。ああして様になっている時点で文句の付けようが無い。
それにしても、2手に分かれられる様な道が全く無い。分かれ道があっても、すぐに合流してしまう。下へ行く階段を見つけた時もほぼ同時だったし。
「入る時間ずらした方が良かったかな?」
「それ先に入った方が有利ですよね?」
「そうだけどね……」
このまま最後までこんな感じなのだろうか。モンスター以外の障害としては罠もちょくちょく仕掛けられているが、イプシロンさんの所の盗賊系統のヒイロさんと、モモの魔法により完璧に看破出来ている。モモの方が感知が早く、解除は無理矢理なのでヒイロさんが行う事で効率が良い。道中はその辺りはほぼ安全になっていた。
「こういう時にあなたは役に立ちますね」
「いつもは役に立たないみたいな言い方だねぇ?」
「そうは言っていませんが……?」
「また始まった……」
「ねぇ」
「え?あ、はい」
横から急に話しかけられた。話しかけてきたのはイプシロンさんのパーティのタンクのエコさんだ。今はもう面倒なので一緒に行動しているので、イプシロンさんの所と入り混じって動いている。だから至近距離で話しかけられるのは可能なのだが。そういえばイプシロンの所はヒーラーがいないな。一応アリサさんが使えるはずだろうけど、初級のものばかりだろうし。そこはやっぱりタンクと個々の技量でカバーという訳か?
「何か遭遇するコツとかあるの?」
「遭遇……あ、モモ達の事です?」
「あとエクストラモンスターとか」
「いやあ、これといった事は……全部偶々だし」
「そう……ありがとう」
「いや別に」
そのまますうっとイプシロンさん側へと戻っていった。意外とあっさりと済んだな。アレコレ聞かれると思ったが。故意に遭遇出来るなら大した物だけどな。改めて考えると結構な運を使っている様な気が……まあ体験出来るだけ良いよな。
そうこうしていると、遺跡の最奥地と思われる場所に着いた。




