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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第一章 少年は舞台へ、歯車は揃いゆく
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第十八話 おすすめはチョコレートケーキ


「今回もパーティに入れてくださってありがとうございました」


「ありがとうございます」


「いやこっちも3人しかいないから十分に空きあるし、最悪ショウ外せばいいし」


 1パーティの上限は5人、戦闘職でボスを倒す必要があるのは俺とコトネさんだけなので戦闘でこう言ってはあれだが大して役に立たない生産職を入れても全く問題がない。更には俺のエクストラスキルのせいでボス戦がほぼヌルゲーとなっているので入れるデメリットが存在しないのだ。


「ええ、ひどくない?まあ合ってるけど……ああ、2人とも王都に着いたら言おうと思ってたんだけど工房借りるよりPCAって言うクランに入った方が良いよ」


 PCA?PTAみたいな名前だなそのクラン。ショウによるとproducer counseling association、直訳すると生産者相談組合で、高レベル生産者の有志による新人生産者への補助組織みたいな活動をしているそうだ。なんでもこのゲームの売りの1つである自由さが仇となり品質の高い装備を作る方法で煮詰まっていたり、そのコツを掴んだプレイヤーの中にタチの悪いのがいたらしく、色々と大きめの事件が起きてしまった。その反省を生かし必要最低限生産をしていくのに必要な知識やコツを教える場を作ろうという話になりPCAが作られたそうだ。

 ある意味PTAだったな。ちなみにクランリーダーは生産職のトップとも言われる人で、もちろん4次職、鍛治系統だそうだ。古参もいるそうだが基本的には初心者に門戸を開いているのでそれぞれの分野ごとにクランが分かれているようでそのクランリーダーは鍛治部門のPCAのクランリーダーでPCA自体の統括もしているらしい。真夜中などを除いて担当の人がいるのでクラン方針も相まって加入脱退は完全自由、そんな訳で王都に辿り着いた生産者は基本的にこのクランに入るのを勧められるらしい。

 ショウも初日組なだけあって知り合いで盾はなんとその人の作だそうだ、羨ましい。まあね、こっちには才能溢れる(?)クルト君がいるからね!いつか超えてくれると勝手に信じている。王都観光ついでにショウが場所へと案内し、2人とはそこで別れることとなった。裁縫部門はたまたま鍛治部門の隣でアゲハはそっちへと入っていった。その後俺達はどうしようかということがあったがショウがおすすめの場所があると言うのでついて行っている。


「で、おすすめ場所ってなんなんだ?」


「ああ、喫茶店だよー」


 喫茶店?なぜ?とりあえずついて行くとお洒落な喫茶店に着いた。うん、見事に女性ばかりだな、めっちゃ入りづらい。


「じゃあ入ろうか」


「た、楽しみですね」


 わあ、2人とも迷いがない。コトネさんはそも女性だから興味が湧くだろうし、ショウは進めるぐらいだから慣れてるのか。ショウもいるし3人ならまだ良いか。2人について行き店内に入る。中も現代風でお洒落な感じとなっていた。混んでいたがちょうどテーブル席が空いており、待つことなく席に着くことができた。


「それで、なんか話でもするのか?」


「いやいや、話もするけどここに誘った1番はここのメニューだよ」


 へえメニューねえ。そんなに美味しいのかな?


「ご注文はお決まりでしょうか?」


少し経つと注文を聞きに店員が来た。上にプレイヤーネームの表示が無いのでNPCか。おすすめはチョコレートケーキ出そうなのでそれを注文、ショウはチーズケーキ、コトネさんはモンブランにしたようだ。3分経つと注文した品が出てきた。ゲームなのかこの店なのかは知らないが3分で来るって速くないか。というか結構美味そうだな。


「まあとりあえず食べてから話そうか、時間が経つと味が落ちるからね」


 まあそれは分かるが……うっま、なんだこれうっま、うわーマジで美味いわこれ。今まで食った中で1番美味いんじゃないか?まさかVRでこんな衝撃を受けるとは……!いやほんと美味い、美味いしか出てこないわ、ウェアイズ語彙力。


「どう、驚いたでしょ、あ、美味」


「凄いですねこれ、今まで食べたモンブランの中で1番美味しいです!」


 俺の舌というか感覚がおかしくなったんじゃなくてやっぱり美味いんだよなこれ。一体全体どういうことなんだ?

「ここのオーナーはプレイヤーでね、生産系料理人系統4次職の『庖王』なんだよ。料理人系統の主目的は料理によるバフなんだけど、運営の遊び心なのか世界観設定のためなのか作った料理の味が高いレベルで整うんだよ。それが4次職ともなればね……」


 そうなのか……ステータス確認したら本当にバフついてら。思ったより低いのでショウに聞いたら味優先だからじゃない?とのことだった。んー、薬膳みたいな感じかな?良薬口に苦しみたいな。

 更にはそのオーナーだがリアルの職業が料理関係らしく、リアルの技術が割と影響するこのゲームだとさらに味を上げる要因となっているみたいだ。そりゃこの混み具合も納得……いやもっと混むんじゃないかこの味なら。


「いや今平日の昼間だからね、日曜の午後とかだと数百メートルの行列ができたことだってあるんだから。今回1席、しかもテーブル空いていたのは奇跡に近いよ」


 へー、そうなのか、確かに納得だわ。このスイーツ目当てでこのゲーム始めた人もいそうだな……何よりVRだからな食っても栄養は無いが逆に言えば太ることはない、量を食べても満腹中枢は刺激しないのでリアルに戻ったときに違和感は残るかもしれないが生活にほとんど影響はしない。ゲーム内通貨はリアルで稼ぐより余程早く貯まるのでスイーツぐらいの金額であればそこら辺で倒したモンスターの素材を売り払えば難なく数十個分を回収出来るため懐も大して痛まない。そりゃこんな人気も出るわ……あれ、コトネさん追加注文?アリなの?ああ、1回までならいいのね、じゃあ俺ショートケーキで。


「これは素直にショウに感謝だな。これは1回は食べないと損だわ」


「そうですね、まさかゲームでこんなに美味しいものが食べられるなんて感激です」


「あはは、そんなに褒めても何も出ないよ、いやほんとに。本当はクルト君達も誘いたかったけど5人だと流石に席が取れるかわからなかったからね、実際5人は無理みたいだし」


 外を確認するといつの間にか行列が出来ている。うーん、本当に運が良かったな。ちょっとずれてたら俺達も並んでいたのだろう。人が近づいてくる気配がするのでおそらく追加注文が来たのだろう、そう思って後ろを振り向くとパティシエ風の服を着た美丈夫が立っていた。


「お待ち!」


「……何やってるんですかトリモチさん、今忙しいんじゃないですか?」


「ハッハッハ、つれないことを言うじゃないか、ショウ」


あれ、知り合い?というか何故にトリモチ。


「あー、2人ともこの人がここのオーナー、トリモチさん。このケーキとか作ってる人だよ」


やっぱりそうなのか。ある意味テンプレというか、なんというか。


「この2人が噂のリアフレか?」


「え゛、噂?」


 何、噂って。ショウの友人だからか?いやでもトッププレイヤーの知り合いは色々といても自分はそこまでではないって言ってたしな。あいつはそういう謙遜はしない主義だしというか普通に自慢してくるし。


「あ、噂って言ってもアイツ……カリファが来た時に話してただけでな、エクストラスキル持ちの初心者の剣士と気概のあるヒーラーがショウと一緒にいたってな」


 何言いふらしてるんだアイツ。他のプレイヤーに広めてないだろうな、変な目立ち方は嫌だぞ俺。あれ、というかここに来たのか?確か……


「あのPKって町に入れないんじゃなかったんじゃ……」


 コトネさんも同じことを思ったのか先達2人に質問を投げかける。2人によるとPKが町に入れないというのは半分システム的なもので、その半分というのは衛兵もしくは住民に見つかると即座に専用の補正がかかった衛兵がやってきて牢屋にぶちこむそうで見つからなければ町に侵入すること自体は可能だそうだ。カリファはそれを利用して衛兵や住民に見つからずにここまで買いに来るという……一応王都だぞ、ザルなのかカリファがすごいのか、てかカリファも買いにくるのかこの店すごいな。


「店長ー!そろそろ戻ってきてくださーい!」


「ちょっと長くいすぎたか、んじゃ3人ともゆっくり……は無理そうだが楽しんでいってくれ」


そう言うとトリモチさんは厨房の方へと帰って行った。


「そういやショウ、話もあるって言ってたけど、どういう話だ?」


「ああ、そうだった、大したことじゃないんだけど、これからのことだけどね、今まではコトネさんもいたし勝手に方針決めてたけど王都に着いたしもういいかなって」


 そういえばVR初心者だったなコトネさん。確かにそろそろショウがいなくても慣れてきた頃か。ショウも先の町で色々と用事があるらしくレベルが上がったらまたパーティを組もうとのことだった。話は終わり、ケーキも食べ終え解散となった。早速とばかりに、ショウは先へと進んでいった。1人だけど進んで大丈夫なのか?タンクだからダメージを受けづらいから良いのか。



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