第七話 悍ましい叫び声
「じゃあ良いかい?」
「ああ頼んだ……【空走場】」
馬は少し離れた所でプレイヤーを蹴散らしている。プレイヤーが多いと言っても、馬の方向を見ているので後でこちらを見たとしても、何か足元にエフェクトあるなぐらいで済む……と良いな。モモにありったけのバフをかけてもらう。これで最低限何とかなるはず。
「それじゃあ、頑張ってね、気楽に」
「まあ挑戦するだけならタダだからな。気軽に行くわ」
流石にしにはしないだろうから、リトライ出来る余地はあるだろう。
助走をつけ、目標の馬の元へと駆け出す。今は少し落ち着いたのか、馬に近づくプレイヤーがいない。これならモモの煙幕や目眩し用の爆発に巻き込まれるプレイヤーはいないだろう……俺以外。馬は俺に気付き、向かってくる。他のプレイヤーと同じく蹴散らせると思っているのだろう。そして、馬が纏っている風の範囲に入ろうとした瞬間、俺と馬の周りで爆発が起きる。
「ブルルッ……!?」
「おわっ」
お、思っていたより規模がでかかった。まあ音と光だけの代物との事なのでダメージは無い。同時に煙幕も大量に出たので視界は煙と馬だけになった。
馬は流石に驚いた様で一瞬硬直したが、直ちに立て直し敵と判定した俺へと向かってくる。
しかしまあ、動揺していたのは確かな様で、心なしか風の威力が弱かった。それでも相当な威力ではあったので足場を作り踏ん張る。そもそも挑戦していたプレイヤーの中にも後1歩踏み出せれば馬に触れられたという者はいた。ならば足場を使って踏ん張り、近づけば触れられるはず……!
「そらぁ!」
近づいた俺から離れようと馬が避けようとするが、こちらの方が速い。俺の手が馬へと届き、首に抱きつく事に成功した。煙幕の方も治まった様で、プレイヤー達が驚いている様子が視界の端で見える。触れる事が出来なかったのだから当然だ。
「んぐぐ……!」
しかし、本調子に戻った様で風の威力がやばい。馬自体も振り解こうと暴れている。何だこのロデオレベル100みたいなのは。このままでは1分も持たずに吹き飛ばされてしまう。いや、ここからどうすれば良いんだ?特に何も無いんだが。首を掴んでいるのに精一杯で攻撃も出来ないし。そして特に何も思いつかず、モモ達の方へと吹き飛ばされた。
「おわー!!ぶへっ」
「大丈夫?」
「……ああ、何とか」
幸いモモが作ってくれた風によるクッションで落下ダメージを受ける事はなかった。あちこちで残念がるプレイヤーの声も聞こえる。馬は少し立ち止まり俺の方は窺っていたが、またプレイヤーが近づいてきたのを見て走り出した。
「残念だったね……どうする?」
「あれでも駄目でしたか。後をどうするか考えていませんでしたね」
「あれ?何だこれ」
左手に違和感を感じ、握っていた左手を開くと、そこには馬と同じ色の毛束が握られていた。鑑定してみると、あの馬の物だという事が分かった。
「いつの間に引きちぎったの?」
「いやそんな感覚は無かったけど……報酬?」
「とりあえず紙に近づけてみませんか?」
「そうだな……え、正解?」
お題の紙に近づけてみると、今まで通り淡く光り、文字が変化していった。
「あれ、捕獲扱いなんですね……?」
「まあ次に行けるんだから良いか」
「じゃあちょっと伝えてくるけど……良い?」
「良いんじゃないか?言った所でそうそうクリア出来ないだろ」
そもそも触れられたプレイヤーがいなかったからな。捕獲のイメージよりはまだ難易度が低そうとは言え、あまり変わらないだろう。ショウが伝えに行き、その後は船へと乗り込み次のお題を確認する。
「「北、動く根、人数分」……?」
「動く……まさかね」
「アレはやめてほしいですね……」
ショウとアポロさんの2人が揃って何やら共感している。一体どうしたのだろうか?
「ああ、島はすぐ近い所にあるみたいですね」
「でも、そろそろ良い時間じゃない?」
「じゃあ行くだけ行ってみて、時間がかかりそうなら一旦止めるか」
「様子を見るのは大事ですね」
寝食の時間を惜しんでプレイしているガチ勢には勝てないので、無理ないペースで無いとな。小学生もいるから遅くまでやるのはナンセンスだ。ここにいる全員がメンバーとしてカウントされているから揃った時に進めないと楽しめないしな。
そういう事でとりあえず全員で島へと向かう。地図で見ると近かったが、本当にすぐに着いた。ショウとアポロさんの顔が浮かないのが気になるが、まあその内分かるだろうし。
「着きましたけど……また森ですか」
「いや、少し先から開けているみたいですよ」
「とりあえず……行ってみよう」
木の間から見える光景を察するに、外周をいくつかの木で囲んでいるだけみたいだった。実際にすぐ開けた場所へと出た。
そこは簡単に言うと大規模な畑といったかんじだった。そしてそこには何かが所狭しと生えており、プレイヤーがあちこちでそれを抜いていた。そしてその引っこ抜かれた歪な形の……人参の様な物は悲鳴を上げている。引っこ抜いたプレイヤーや耳を塞いでいなかった近くのプレイヤーは硬直し、その間に人参は抜け出して、何処かへと走り去っていった。
「あー、やっぱりマンドラゴラとマンドレイクだ……!」
「最悪ですね……」
2人をしてこう言わせるとは。何となくそうではないかと思っていたが、名前はそのまんまなのか。違いがどうなっているのかは知らないけど、これまた違う方向で面倒な感じになってきたなあ。
「あー、とりあえず説明頼む」
「ああ、そうだよね……これはね」
ショウによると、これらは普通のフィールドに生息しているらしい。その生態は今目の前に広がっている光景そのままで、引き抜くと大音量で叫ぶそうだ。
それならまだうるさいで済むのだが、更に厄介なのがマンドラゴラの方だ。その叫びを聞いた近くにいる生物、特に引き抜いた生物は確定で硬直する状態異常をかけるらしい。少なくとも数秒効果は持続し、手の辺りが弛緩するとか。そしてその間に何処かへと逃げる様だ。マンドレイクはただ叫んで、隙あらば逃げる程度で済むらしい。
そして何より問題というか、厄介さに拍車をかけるのが、抜く前は全く区別がつかないらしい。どんなに鑑定スキルのレベルが高くても、どれがどれなのかは分からないのだとか。ちなみにマンドレイクは薬品系を始め様々な物に役立つ効能を持っているのだが、マンドラゴラはちょっと質の良い人参という評価だそうだ。差が凄い。
「はあ、なるほど。でもアポロさんなら走って追いついたりとかは……?」
「出来ませんね。私よりAGIの高い人ですら追いつけなかった様ですし」
「見た目からは想像出来ませんね……」
「それもあって、結局運任せなんだよね。声のせいでモンスターも寄ってくるから、運が悪いとそのままデスペナルティになるし」
「レベルを上げてもほとんど意味が無いのが困るんですよね」
「見分けられないのは厄介だよなあ」
「マンドレイクの効果は、無二だから質が悪いんだよね」
元ネタだと確か霊草だか何だかだったはず。それに準拠するなら納得だけどな。時間がかかりそうなお題なので、今日一旦中断する事になるのかと思ったが、モモとクローナに何かある様だった。
「どうした?」
「いや、それならすぐに済むと思ってね」
「人数分のマンドレイクを採れば良いんですよね?」
「いや外れを引くとだな……」
「私ら耐性あるから」
「は?」
ドユコト?




