第六話 駆ける馬
3つ目のお題がある、北にある島の光景は一面に広がる草原だった。くるぶしぐらいの背丈の草しか生えていない、人工島にしか見えない感じだった。まあ多少起伏はあるので違和感が凄いという程では無いが、それでも自然のものには見えなかった。
「それで……あそこだね」
「今度は一目瞭然ですね」
「何か凄い事になってますね」
島はほぼ平らな為、遠くまでよく見える。全員が視線を向ける方向には、何か速い速度で動き回る生物と、それに吹き飛ばされる大量のプレイヤーらしき影が見えた。
まああれが目的の「駆ける馬」なのだろうが……思ったよりも激しい感じだな。島が広いお陰なのか、他を見れば同じ様な事になっている場所がいくつかある。プレイヤーが集まりすぎない様になっているのだろう……集まった所でどうにか出来るとは今は思えないけど。
「物凄い勢いで吹き飛ばされてる感じですけど……捕獲するんですよね?」
「捕獲って書いてあるからなあ……討伐ならひたすら攻撃すればどうにかなるんだろうけど」
「とにかく、近くで見てみましょうか」
1番近い所でも、シルエットでしか分からないので近づいてみる。馬の方は逃げ回っているだけみたいなので、近づいても逃げる方向がこちらにならない限りそこまで害は無いはずだ。
近づいてみると、件の馬はこう、イメージによくある茶色の馬……を更に逞しくした感じだった。筋肉が凄い。後は風を纏っている。デザインはシンプルだな。これが嫌いな人はあまりいない感じの。
「アハルテケを思い出すね」
「あれはもっと凄かったけどな……」
「そういう系統でしょうか?」
「エクストラモンスターはモンスターの特殊個体みたいな扱いが多いですからね……あんな感じだったんですか」
まあ目の前でプレイヤーを吹き飛ばしている馬はエクストラモンスターでは無い様だ……当たり前か。まあアハルテケの方が規模も凄かったから、下位互換の様なものか。
それでもプレイヤーを吹き飛ばす事が出来る時点で相当だけど。吹き飛ばされなさそうな、ショウより重そうなタンクが動きを止めようとするが、鈍すぎて普通に避けられている。あちらを立てればこちらが立たないな。
纏っている風のせいで魔法も何も影響を受け、その間に馬が体勢を変え見事に避けている。下手に大規模の魔法を使えば、島の別の場所に逃げてしまう様で、悪手にしかならない様だ。まあ魔法を用意している間に馬が吹き飛ばしに行くみたいだが。ほぼノータイムで発動出来るモモがやばいだけか。
「モモの魔法で囲めないか?」
「出来るは出来るが、そこまでやると強度がねぇ。そこも両立すると多少時間がかかるし……何より巻き込むよ?」
「ああ、それはなあ……呼びかけるのは」
「流石に色々と問題があるよね」
「それに目標の安全は保証出来ないし」
「こう、網みたいな感じでは……?」
「纏っている風が厄介だねぇ。あれさえ無ければ」
「うーん、そう上手くはいかないですね」
もちろん無傷で捕まえる必要は無いのだろうけど、それでも間違って瀕死になってしまうと困る。それに周りのプレイヤーを巻き込むと事件だし、モモの魔法に頼るとそれはそれで問題がある。まさか全てのプレイヤーが、凄い魔法だなあで済ましてくれる訳がない。もしそうなったら逆に心配になる。
「あ、知り合いがいたからちょっと話してくるよ」
「何か有益な情報でも仕入れて来てくれ」
「あったらねー」
ショウがそう言って離れていく。そういえば大人数なのとアポロさんがいるのもあって目立ってるな。まあ視線を外すと巻き込まれる可能性が高いのですぐに視線は外れるけど。今回は……アポロさんが動くとオーバーキルだな。
「どうしましょうか?」
「ちょっとちょっかいをかけてみるとか?」
「どうやって……あ」
ある魔法職が、馬の進行方向の地面を少し隆起させて転ばそうとした。意外にも馬の方は驚いていたみたいだが、タイミングが合わず即座に適応して避けていった。
「まあそうか」
「でも驚いていた様子でしたね」
「たまたまか、ヒントでしょうか……もっとギリギリなら?」
「発動のタイミングが厄介だねぇ。何より風が」
「やっぱりそれかあ」
兎にも角にもあの纏っている風が絶妙に邪魔らしい。魔力も関係している様で、やるとしてもその調整に苦労するみたいだ。
「うーん……うわ」
「『グランドシールド』」
逃げて来たのだろうけど、馬がこちらへと向かって来た。モモが土の壁を出してくれたので大丈夫かと思ったら、予想を外れて馬はそのまま直進、加速して壁を破壊した。
「きゃっ!」
「おおっ!?」
まさか砕いてくるとは。モモでも急造品だったのでそこまで強度は無いにしても。コトネさんは位置が良かったので自分で避け、クルトとアゲハは俺とアポロさんが抱えて避けた。なので、誰にも被害は無かった。
「危なかった……」
「ありがとうございました……本当に捕まるんでしょうか、あれ」
「いやあ、大変そうだな」
馬は多少したが、またプレイヤーが群がり、吹き飛ばされていく。今度は様子見をするプレイヤーが大分増えた。今のを見て、行き当たりばったりではどうにもならないと理解したのだろう。
レベルがどんなに高くても、ゴリ押しは不可能だし、作戦を立てなければ永遠に捕まらないだろうし。一旦散らばったので、とりあえず集まる。ショウも色々と聞き終えた様で戻ってきた。
「どう?派手な感じになってたけど」
「やっぱり討伐ならなあ……何とかなりそうなんだけど。そっちは?」
「捕獲自体に役立ちそうな情報は無かったよ。そも聞いた人が来てからはクリアしたパーティはいないってさ」
「ヒントも無しかあ」
とりあえず、捕獲の結果がどの様な状態にしろ、問答無用の早い者勝ちという雰囲気になっているらしい。難易度が高すぎて自分達がクリアするより、誰かをクリアさせて方法を確立させようとなっているとか。それならまだ気が楽だな。あんまり他所を気にしなくて良いのなら。
「それで、どうするんだい?流石にアレを拘束するに色々と厳しいけど。風で対抗するにしても、思い通りにさせない程度だよ」
「それは……まあ無いよりマシだろうけど」
中々どうして厄介な。捕獲という制限があるから、手札も限られてくる。本当にアハルテケみたいだ。下位互換でも十分に強いけど。クローナもステータスが高いと言っても、強いNPCの範囲を逸脱しないレベルだ。風を無視して押さえ込む事は出来ないし、翼を出してどうにかなる問題でも無い。というか、その方法は取れない。
「まあ僕は今回役に立たないかな……せいぜいちょっとした壁……も厳しいし」
「素早いですからね。でも軽くても……」
「私じゃ倒してしまいそうですし……」
「アポロさんはなあ、せめてどこまで弱らせて良いかのラインが分かれば」
「攻撃が全く当たらないので体力の総量も分かりませんしね」
当たりにくいだけで少し当たるとすぐに死んでしまう様な体力だと困るしな。何が役に立つかと言われると。
「やっぱりコウさんの【空走場】でしょうか?」
「あの風の中を踏ん張れるとしたらそれしか無いだろうね」
「だけど、色々厳しいぞ?いや目立つのはしょうがないとしても足場を作るにもな」
「使えるのがコウさんだけなので何とも言えないですけど、問題はそこですね」
足を起点にして作り出すものだから、1度体勢を崩されれば普通に吹き飛ぶ。しかも馬の周りの空気というか、風は馬側に主導権があるから足場を作れるかどうかも分からない。
「目立つ事に関しては、煙幕でも出すかい?」
「それは俺にも効果が……まあ馬にも効くだろうからどっこいか」
「後は風系の魔法で多少援護するぐらいかねぇ」
「まあそんな感じかあ」
他のプレイヤーにバレにくくなるならそれで良い。馬の注意を逸らして、一気に近づければチャンスはあるか。とりあえず触れることさえ出来れば色々と手はある。
他に特に思いつかないのでその方向で行く事になった。




