第四話 迷い迷い
それから約40分程かけ、島の4分の1を探索を終えた。ショウ達の方も、滞っていたりはしないみたいだから、これで島の半分は探し終えたという事か。これで見落としがあったら目も当てられないが、まあ見落とした時点でしょうがないとしか言えない。
それにしてもここまで探して見つからないとは、本当に島の反対側にあるのだろうか?嫌らしい感じだな、もしそうなら悪意を感じるが。罠に近い感じがする。
道中は、蛇の他にも虫系統など様々なタイプのモンスターと遭遇した。その8割ぐらいは見知った感じのモンスターだったので、この群島の扱い自体は普通のフィールドと変わらないのだろう。厄介なギミックが無くて安心だ。
「あちらも順調みたいですね」
「アポロさんにショウにモモ……まあ不安が無いよな」
「失敗する未来が見えないですからね……」
あちらの心配をするのは杞憂というものだ。杞憂すぎて、俺達自身の心配した方が良いんじゃないかと思うレベルだ……いや、何にせよ普通にそうだろうけど。
そんな感じで、更に5分ぐらい進んだ時の事だった。クルトが順路の他に何か情報を聞いた様だった。
「えっ!あ、うん分かった……ショウさん達の方で、見つかったみたいです!」
「本当か!」
「じゃあ、早速向かいましょう!」
見つけたのはあっちだったか。まあ2手に分かれた以上その可能性は十分にあったからな。
それにしても話を聞く感じ、目的の物を入手して達成した訳では無さそうだ。わざわざ呼んだということは何かあったはずなので、気持ち急ぎ目に向かう。進む内に全力疾走とはいかなくてもマラソンレベルにまでスピードを上げた。余程本気で走らない限り疲れない。こういう時は現実基準で考えてしまう。流石にクルトはついてこれないのでクローナが背負っている……それでも俺より速いのは如何なものか。
「すみません……!」
「いえ、全く問題ありませんよ」
「足の速い生産職はいないだろうし、いてほしくないなあ……」
「それはそうですね……」
AGIにステータスを振っている生産職なんて最早ネタだろう。スキルの関係だとしてもAGIが必要になる事なんて無いだろうし。なるとしてもそれはエクストラスキルだな。ネタ振り生産職は戦闘職より酷い。そんな訳でクルトが謝る必要は全く無い。
距離は離れていたが、真っ直ぐ向かえたのと走ったお陰で10分程で着いた。
「あ、来た来た」
「どうなってるんだ……あれか」
「うん、そうみたい」
前方の方にある木、その天辺辺りには確かに赤い木の実が20個程成っている。見た目は……見たことないけど、林檎の1種と言われればそうなのかと納得するぐらいのものだ。最初に【空走場】で見つからなかったのは木の葉で隠れていたからだな。
しかし、高い所にはあるが、ショウ達が採れないはずは無い。何かしら妨害がありそうな要素も無いし、現に何人かのプレイヤーが普通に登っている。
「どうして採らなかったんだ?」
「あー、それはね……ほらアレ」
ショウが指さした先には、丁度木の実を採り終えパーティメンバーの元に降りてきたプレイヤーがいた。そのプレイヤーはその木の実を何かの紙……お題が書いてあった物と思われる物に近づけた。すると紙が淡く光った。それを見たパーティは方向を確認して何処かへと向かっていった。
「成る程、お題の紙が必要だったのか」
「分けたのは失敗じゃなかったけど、運が悪かったね。コウ達が見つけていればこうはならなかったし」
「まあしょうがないか……とりあえず採ってくるよ……俺で良いよな」
「はい、お願いします」
アポロさんの方が良いかと聞いてみたが、特に問題は無かったようだ。木の枝の配置も登りやすい様になっているし、周りには他にもプレイヤーがいる。エクストラスキルを使うのは危ないな。
「おっ、とっ、はっ……」
枝から枝へと飛び移り、上へと登っていく。身体能力が高いと曲芸みたいな事も出来る。いやあ、現実に近いと楽しさも跳ね上がるというものだ。プレイ開始から半年経とうとしているが、この感覚は未だに味わう時がある。
そんな感じで、3分程で木の実が成っている場所へと着いた。さっさと採ってさっさと戻ろう。
「えっと……まあこれで良いか。あ、すぐに成るのか」
どれも同じかと、1番近くにあった木の実を採るとすぐに同じ場所に同じ様に木の実が成った。まあ全員では無いとはいえ、大量のプレイヤーが来るだろうからリポップが速いのは当然か。一応ちゃんと手順を踏んで実が成ったし設定の範囲で済むな。
帰りは人がいない所へ飛び降りればすぐだ。これまたステータスのお陰で1たりともHPは減っていない。足に多少の衝撃はあったけど。
「特に問題も無かったですね」
「まあ1つ目だしね……他のプレイヤーも問題無かったんだし、僕達の時だけ何かあってもね……」
「そうだな……じゃあ早速やるか」
採った木の実を、コトネさんに預けていたお題の紙に近づける。その紙は先程他のパーティの時と同じ様に淡く光った。そして、書かれていたお題も文字も変化し始めた。
「えっと……「南南西、青い印の狼」?」
「今度はモンスターだね?」
「あ、更に何か浮き出てきましたよ」
クルトがそう言うので改めて見てみると、お題の下の方には、「討伐」と書かれていた。素材なら採取すれば良いのだが、モンスターの場合は討伐の他に捕獲もあるからな……まあ紙を近づけるなら捕獲は大分難易度が高いので流石に無いとは思うけど。討伐なら倒せば良いだけだから楽だな。全部でいくつあるのかは知らないけど、2つ目ではそこまで難易度は上がらないだろう。
「これならまだ楽だね」
「まだ油断は出来ないですけどね……攻撃が当て難いとか、見つけづらいとか……」
「ど、どうなんでしょうか……?」
「それにしてもこの紙、どういう仕組みなんでしょうか?」
「アスモデウス?」
「こんな場でその名で呼ぶんじゃないよ……まあ魔法の類だろうねぇ。精密に出来てる。用意したのはあの旅館の連中だろうね」
「そこまで分かるのか」
「まあ雰囲気でね。だけど、用意したのは旅館の連中だろうけど……仕組み自体は別の何かのはずだよ」
「別ですか?」
「さあ、そこまでは」
女将も場を借りたみたいな事を言っていたし、仲介業者みたいなものかな。そういえば、イベントは運営が用意した物だが、宝探しについてはアトラクションに近い。今まで体験したのは成り行きによるものだった。な
らこれの背景にも設定が用意されているということか。
「まあとりあえず次のに向かおうか。えっと南南西だっけ?」
「そうですね、地図を……あ、この島ですね」
「いやこっちじゃ……んん?」
この島から南南西には確かに島があった。しかし、そのすぐ近くにも島があり、どっちか分からないという事態が。
「えっと、これどっち……」
「あ、どっちもではないですか?ほらここ」
「あ、本当だ。橋かな?」
よくよく見れば、2つの島の間には線の様な物が描かれていた。橋だったら繋がっているという事であり、1つのお題で2つの島を使うという事なのかもしれない。
それならとりあえずは向かってみようという事になった。
「じゃあ向かおう……そういえばみんな時間は大丈夫?」
「はい」
「僕達も大丈夫です」
アポロさんはもちろんだろうし、俺も特に用事は無い。キリの良い時に聞いておかないとな。持ち物も最初に十分に用意してあったので、このまま次の島に直行する事に。




