第三話 宝探し……か?
「東北東……?」
「赤い木の実……リンゴですかね?」
「流石にそれは安直じゃない?」
「や、やっぱり?」
「大分情報が少ないですね……」
テーブルの上に置いてあった紙にはそう書かれていた。何か謎解きとか、そういう感じのものを勝手に想像していたが、毛色が全然違ったな。
しかし、これはこれで分かりやすいと言うべきか。確かに情報は少ないけど、指定の物自体は書かれている訳で。まあいくらでも受けてのニュアンスで変わりそうなものだが。
「とりあえず無難に考えると、この島の東北東にある島の、赤い木の実を探せって事だよね?」
「そう考えるのが普通ですね」
「モモ、これに魔法とかかかってたりしないか?」
「あー、何かしらの魔力はかかっているけど……多分期待しているものとは関係無いだろうねぇ」
「そうかあ」
「じゃあ場所を調べましょうか、地図地図……」
何か裏があるのかと思ったが、その可能性は薄いか。じゃあ書かれている通りに受け取った方が今は良いか。
実は旅館内の案内用地図には、この島周辺……というかここの群島の地図が載っていた。便利だなと思っていたが、必須の物だったとは。
「えっと東北東……島が多い。定規みたいなのある?」
「あ、これどうぞ」
「あるんだ……ありがとう」
「この島ですね」
この群島は3、40程の大小様々な島で構成されているみたいだ。ざっくりとした判断では分かりづらかったので指し示す物がないかと思ったら、クルトが30センチ鉄定規を取り出した。そんな物あるんだな。
目的地と思われる島は分かったので、善は急げと外に出る。やたら広いから外に出るのも一苦労だ。都心の駅の如く様々な方向に出口が用意してあったのも助かった。ふねも回収しておいたから面倒も少ない。俺達が出た所もそれなりに人がいたが、最初の時程では無い。
「まあ出遅れているよね」
「しょうがないだろ、巻き返せば良いんだし」
「あっ、あの島ですね。ここから見える距離ですね」
船に乗り込み、目的の島へと向かう。他の島へ向かうプレイヤーも多いが、同じ島に向かうプレイヤーも多い。目的の物まで同じかは知らないので、どうなるかな。
ちなみに向かっている島は遠目に見える分には普通の森の様な見た目だ。周りに見える島はジャングルぽかったり、草原みたいだったりする。植生やら海風がどうとかは言ってはいけない。
島は見える距離だったので、数分で着いた。
「何か、不自然に感じますね」
「そこらの普通の森を切り取った様な感じだからなあ……」
「ここから、赤い木の実を探すんですか」
「どんな生え方にもよりますけど時間がかかりそうですね」
「地図からすると島の大きさも中々みたいだし……」
おそらく地図の縮尺は正しいので、もし目的の実が1ヶ所しか無いのなら相当時間がかかりそうだ。そこらに群生しているなら楽だろうけど、流石にそんな事はあるまい。かかる時間を想像したのか、全員気が遠くなりそうな顔をしている。
「せめて大きさとか、生え方のヒントでもあれば良いんだけどね」
「赤い木の実と言っても様々な物がありますからね。木の実と言っても低木かもしれませんし」
「漠然とし過ぎですね」
「まあこの島がずっとこの雰囲気なら目立ちそうだけどな……一応聞くけどモモとクローナは心当たりある?」
「流石に無いねぇ」
「無いですね」
「ですよねー」
地道に探していくしかないか。とりあえずショウの提案により【空走場】で上から探せないかと使ってみた。まあしかし、それで見つかるなら苦労しない。島一面緑色で、赤のあの字も無い。そんな楽が出来たら世話無いな。多少地形による凹凸はあるみたいだけど、ヒントにもなりゃしない。一応はみんなに伝えておこう。
「どうだった?」
「いんや、何も」
「じゃあ歩いて回るしか無いですね……」
「2手に分かれた方が効率が良いですね」
「2パーティ分の利点がここで生きるか」
2パーティ分いるのだから、分かれた方が効率が良い。別に1パーティ分しかいなくても手分けは出来るが、何が起こるかわからないからな。連絡も普通に機能するから同じ場所を探したりなど、非効率な自体は起こらないだろう。分ける事については全員異論は無いようだった。
「まずはクルト君とアゲハちゃんだよね」
「どっちがどっちに行くかは後で良いとしてな」
「まあそうですよね」
「そうね」
「で……次はモモとクローナか」
「私は……ではマスターの方で」
「え、まあ良いかね」
「じゃあコトネさんもコウの方だね。役割は違うけど魔法職だし」
「では近接職の私はモモさん側ですね」
「人数からして僕もそう……それでクルト君達は……今そっちにいるからそれで良い?」
「あ、はい。大丈夫です」
「これで分けられたね。パーティの設定も大丈夫だし……地図の写しも出来てるから」
「じゃあ探すか」
ざっくり2つに分けたわけだが、あっちの方が戦闘力高い様な。いや回復役がいないから……あんまり関係無さそうだな。まあ目的の物がモンスターでは無いはずなので大丈夫かな。最終的には合流するんだし、何かしらの戦闘が起きるとしても持ち堪えられないという事は考えづらい。回復役のコトネさんもいる。クルトがいるなら武器の応急修理だって出来る。そう考えると、どうにでもなるか。
「連絡は、クルト君とアゲハちゃんよろしくね」
「はい」
「戦闘じゃ役に立たないからね。そのぐらいはしないと」
2手に分かれ、森の中を進んで行く。クルトとアゲハなら会話のニュアンスで誤解が生じる事も無いはずだ。
「それにしても普通の森だな」
「そうですね。赤い木の実……」
「上にあるかも知れませんし、地面に近い所かも……ちゃんと見てないと見逃しそうですね」
「木の背丈も結構あるからなあ……」
「気が抜けないですね」
進み始めてから数分、上下左右全てに気を配るのは大分疲れる。ショウ達の方も特に進展は無い様で、赤い木の実どころか、それっぽい物も見つからない。探索順路としてはちゃんと連絡し合えているみたいでそこは順調なのだが。
はー、どこにあるんだか。これで島の反対側とかだと面倒臭い。嫌がらせに近いレベルだ。
「…….きゃっ!?」
「え、あっ!」
コトネさんが声を上げたので振り返ると、数メートルはある蛇のモンスターが襲い掛かる所だった。そうか、そうだよな、モンスターも普通に出るよな。失念していたのは確かだが、この距離で、しかもクローナも気づかなかったとは。辺りを探し回っているプレイヤーに忍び寄って攻撃とは中々嫌らしい。
しかし、今の俺の体勢だと刀を抜いて攻撃してもコトネさんに当たる。このままではコトネさんにダメージが出てからじゃないと動けないし、動く時間も無い。
そう思ったら、クローナは左腕に巻き付いているナイフの1つを投げた。それは蛇の頭に突き刺さり、攻撃のモーションは完全に中断された。動く余裕が出来たので、首を刎ねる。今度はちゃんとドロップするか。まあここまで幻覚とはいかないか。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい、ありがとうございます」
「気づかなかった、クローナもナイス」
「全く気配がしませんでしたね」
「モンスターが出るのを忘れていましたね」
「宝探しというお題に思考が引っ張られていましたね」
「道中普通に邪魔が入ると思っていた方が良いか」
「とにかく気をつけて進みましょう」




