第一話 水着で遊び、見えるは旅館
1日経ち、イベント当日……とはいかなかった。「イベントは明日だから今日は暇でしょ!?」という謎理論により、アゲハ主催水着お披露目会が開催される事になった。
村の海は霧が完全に晴れた事により、リゾート地と言っても遜色無さそうな光景となっている。アゲハと同じ事を考えたのか、水着装備姿のプレイヤーが大勢いた。しかも屋台みたいな物まであり、すっかり海水浴場みたいな事になっている。
何か屋台などの商売に関しては村も1枚噛んでいるらしく、ちゃっかりしているなと思わざるを得ない。水着という点だけ見ればリアルと大差無い様に感じるが、どのプレイヤーも半分ぐらいは武器を身につけているから、普通にフィクションだな。
後は、ステータスのおかげで現実じゃあり得ない動きをしているプレイヤーもいる。バレーボールかな、打った球が着弾して小さいがクレーターを作っていた。アニメみたいだな、アレが出来るのはテンション上がるわ。今までのゲームじゃこうはいかない。機会があればちょっとやってみたいな。
「じゃあ……どうするんだ?」
「とりあえず海行こう海。まだ替えてないしね」
「一応装備変えるのは一瞬だけど……まあ雰囲気がね」
「モモさん達もいますからね」
そういう訳で、船を出して砂浜から多少離れる。男組は外で水着に装備を変え、女子組は中で着替えている。プレイヤーはやろうと思えば一瞬で変えられるし、普通に着替える事も出来る。NPCはもちろん一瞬変える様な真似はそんな事は出来ないので、中で着替えるという訳だ。
「遅いな……」
「まあ女性の身支度だからしょうがないけど……」
「それでも少し……まあ綺麗な海を良く眺められると思えば」
「まあそれはな。というかここまで雰囲気変わるかー……クルトとアゲハは夏真っ盛りの海は初めて何だっけ?」
「はい。リアルじゃ機会が無かったですからね。まあこれも現実では無いんですけどな」
「遜色無いから、カウントして良いと思うよ」
海に行きづらい感じの内陸部に住んでいるそうで、今の所縁が無かったらしい。今の交通機関なら行こうと思えば行けるだろうが、シーズン外に行ってもアレだし、まだ小学生だからな。そも1人……アゲハと一緒だとしても小学生2人だけで行くには距離が離れているんだろう。
まあショウの言う通り遜色無い……いや現実以上に自由に動ける分こっちの方が良いのか?死んでも死なないし。
「コウさん達もリアルで行ったって言ってましたね」
「ああ……色々考えるとこっちの方が都合が良い感じがするけどな」
「まあVRだからね」
「あはは、そうですよね」
「終わったよー!今行くねー!」
「やっとか」
女性組の着替えは終わった様だ。結局雑談していたから待ったと言うほど待った気分にはならなかったな。
アゲハは年頃によくありそうなワンピースタイプ、他の4人は多少差異はあるけど、セパレートタイプの括りに入るはず……というか詳しく知らない。だが、思っていたよりシンプルだった。色は1人1色だし、あれだけ張り切っていたのだからもっと凝った水着が出てくると思っていた。凝った水着ってなんだろうな。
それにしてもモモとクローナのサイズがでかい。布面積のおかげで普通に健全だけど。全年齢対象万歳。
「えっと、こっちのは、どうでしょうか……?」
「え?あ、似合っていると思いますよ」
「そ、そうですか!」
「おやマスター、私には何も無いんですか?」
「ええ……まあ2人とも似合っているとは思うけど」
「何かおざなりですね……」
「しかもこっちはついでかい」
「そう言われてもな……」
まあからかい半分みたいな感じだったからまだ良かったか。そこまでは期待していなかっただろうし、この話を掘り下げるのはやめておこう。というか、そういうのはショウにも聞いてくれませんかね。ショウに目線をやると逸された。手慣れてるはずなんだけどな。まあこれで、遊ぶ準備は整ったという訳だ。
余程沿岸に出なければ、ここはモンスターも出ないみたいなので安心して海で泳げる。アゲハはいつの間にか浮き輪とバナナボートを取り出していた。存在は仄めかされていたが、本当に実在していたとは。そして、【空走場】を発動した俺がそれを引く事になろうとは。確かにモーターボート的な物は持ち合わせていないし、船で引くには些か大袈裟すぎる。絵面がよく分からない事になっていたが、まあ楽しんでいたから良しとしよう。
その後は……特に大した事はしていない。とりあえず、アゲハが楽しめた様だったから、良いんでは無いだろうか?
今度こそ1日が経った。遂に群島エリアが開放される。霧が晴れてからずっと行く事が出来ないか試しているプレイヤーがいたそうだが、結果はお察しだ。開放されていないのだから、当然だな。
今はギリギリまで近づいて待機しているプレイヤーもいるが、ほとんどは下手な事があるといけないので村辺りで待機している。そのお陰で村は昨日と同じく大盛況だ。群島にあまり興味が無いのか昨日と同じく遊んでいるプレイヤーもいる。
「前回2回よりも多いね」
「まあ、あれだけ告知してりゃあな。前回参加してなかったプレイヤーもいるだろうし」
「宝探しってどんな方式何ですかね?」
「1つ目の島に着けば分かるはずだから……もう少し待てばね」
「それもそうですね……」
告知には、最初訪れるべき島の位置が記されていた。このゲームの特性上、その島に行かずに他の島に行く事は可能だろうが、その場合宝探しのチュートリアルが受けられないので、その様な事をするプレイヤーはいないだろう。まあ少数派はいるとは思うけど、支障は無いはず。
「……そろそろ時間だね」
「じゃあ船の準備をしましょうか」
「どこもいっぱいだけどね……」
村の近くの海はどこもプレイヤーの船で埋め尽くされており、多少あった隙間に俺達の船を出す。最初に船を出せば良かったんじゃないかと思われるかもしれないが、来た時には既にこうなっていたのでしょうがない。
少し離れた所には、大規模クランの大型船が数隻見える。冷静に考えると中々の光景だ。現実だと、こんなに密集する事は無いだろうし、何より事故るだろう。
そして、時間となり、船が一斉に動き出した。俺達の所は大丈夫だけど、案の定あちこちで船のぶつかる音が聞こえる。そりゃそうだ。動きが速いのはもちろん大型船で、それに次ぐのは中型船だ。中にはそれに追い縋る小型船もいるが……結構無理しているんじゃなかろうか。
「まあ普通で良いよね?」
「急いでも良い事があるとは限りませんからね。1つ目の島で説明があるならそれぞれのプレイヤーにしていては恐ろしい時間がかかるでしょうし」
「この状況だと他の船を抜くのも危ないですしね」
全ての船が同じ方向に向かっているので、抜く隙間が無い。無理をして事故を起こす方が問題だ。こちらに影響を与えなくてもぶつかられた側に破損してしまうとそれはそれで面倒な事になる。まあそもそも、どの船も全速に近いのでこれ以上スピードを出す理由が無い。
そういえば、アポロさんはこの手のイベントはあまり拘らないらしい。もちろん一応上は目指しをするみたいだが、モンスターとの戦闘の方が性に合っているとか。戦闘が性に合っている高校生とは。
「あ、見えてきましたね」
「建物があるね、しかも結構規模が大きい」
「和風なデザインですね?」
「旅館……?誰が管理してるんだ?」
大分近づいた辺りで、島の詳細が見える様になってきた。予想とは大分かけ離れた光景だったが、一体どういう事なんだろうか?まさか前人未踏のはずの島に人工物があるとは。人がいるのか?




