第二十六話 様子見、知らぬ所の進展
それから数十分経ったが、進捗は無い。塔の調査は難航している様だ。こちらも龍の攻撃パターンは出尽くしたみたいで、避ける事に慣れてきた。まあ時間がかかっているせいで大分飽きてきたが。
そして、龍に対して未だに攻撃を続けているプレイヤーは何なんだか。検証という雰囲気でも無いみたいだし、デスペナになった気がするプレイヤーもいる。教会からまた来たのだろうか。確かに、何かの糸口になるかもしれないし、ギミックを解くまで倒せないと確定した訳でも無い。しかしだが、闇雲に突っ込んで行って、哀れに散っていく光景は中々に儚い。いくらプレイヤーとはいえ、命の無駄だな。装備も破損するだろうし、色々と無駄な気がする。
他のまだまともと思われるプレイヤーも暇すぎて龍の攻撃を避けるゲームをやっている者もいる。よく考えればそんなにまともじゃないな。その遊びをしているのが、そこそこレベルの高そうなプレイヤーだから予備動作さえ覚えていれば、避けるのは簡単だろう。まあ失敗して、直撃するとお陀仏だけど。
「何か連絡ありました?」
「いや無いね……今からでも行ってみる?」
「無駄手間になりそうな予感しかないけどな……そも人手が必要ならとっくに何かしらの連絡は来てるだろ」
「そうだよねー……」
何の生産性も無い時間が過ぎていくのは、中々に辛い。いっその事、更に離れて安全な場所に移ろうかと思ったが、急に塔が光り出した。
「何だ?」
「やっと何かが起こり始めましたね」
「どうなるんでしょうか……」
10秒くらいで、塔の方の光は治まった。治まった後は一瞬それだけかと思ったら、今度は龍の方が光り出した。しかも5体いっぺんに。光っているから霧の向こうでも分かりやすい。もしや強化されるのかと思ったが、下に流れていく様な光り方をしていた。デバフなのかどうなのか……いまいち龍と下の貝の関係も分からないな。
とにかく、今の現象からして、龍を倒せる様になった可能性が高い。もちろん周りのプレイヤーも気づいている様で、目をギラギラとさせて龍の方を向いている。
「やっと行けるかな……?」
「多分そうですね」
周りのプレイヤーはじりじりと距離を詰め、1人が走り出すと、ほぼ全員が駆け出した。凄い迫力だ、待ちぼうけをくらっていた反動か。龍の方は、光の影響か少しぐったりとしていて、プレイヤーへの対応が少し遅れた。そのせいで、大勢のプレイヤーの一斉攻撃をまともに喰らう羽目になった。
「ギャォォォ!!」
「おっ、まともに鳴いたな」
「普通あんなに攻撃受けたらああなるよね」
「何故か可哀想に思えてきますね……」
「じゃあ私も行ってきます……【泡砲鋏】」
「あ、頑張って下さい」
いきなり水を得た魚の様なプレイヤーに囲まれて攻撃されている光景を見ると、同情の様な感情が湧く様な湧かない様な。まあそんな事は気にせずに参加はするけどな。初動は遅らせたが、攻撃していかないと。
アポロさんも本格的に参加する様で、エクストラスキルを発動させて龍の方へと向かって行った。それと同時に斬撃も飛ばしたので、プレイヤーの視線がアポロさんの方へと向いた。こういう光景を見ると、有名人なのだという事を思い出すな。
「前!前!!」
龍もやっと立て直したのか、1番目立ったアポロさんへとブレスを吐こうとしている。軌道上にいるプレイヤーがアポロさんに気を取られているので、ショウが大声で注意を促した。俺達は既に軌道から離れる様に動いているが、振り返ってアポロさんの様子を見ていたプレイヤーは対応が遅れた。ショウが警告したおかげで、大多数のプレイヤーは難を逃れたが、それでも巻き込まれたプレイヤーは少なくなかった。
ブレスが今まで見たものよりも特大だったのもあるのだろう。そのブレスは散乱していた建物の瓦礫も押し流し、貝の表面が綺麗に見える様になった。
「高圧洗浄機みたいだな……」
「ゲホッゲホッ……実際そんなものでしょ。吐いてるの水だし。それにしても、目立つのも厄介だね」
「まあ自業自得と言えなくも無いけどな」
「戦闘中ですからね……あと、その」
「あ、もう大丈夫か。急にすみません」
「いえ、巻き込まれていたかもしれませんので」
無事に避けられたが、VITが高いショウはともかく、AGIもそこまで高くないコトネさんは危ないので、抱えて逃げたのだった。今のステータスだとコトネさんぐらいなら大して重さを感じないので、忘れていた。ショウ?ショウは若干巻き込まれてたよ。しかも余波の受け方が悪かったのか、直撃した訳でも無いのに吹っ飛んで俺達も追い越していったからね。装備で重量もあるはずなのに……ギャグかよ。
まあ死んでいながらセーフセーフ。アポロさんは反対側に逃げた様で、もちろん無事だった。俺よりステータスが高いから当たり前だね。強力になったとはいえ、ホーミング機能が無くて良かった。被害に遭うプレイヤーが増えすぎる。
「HPは?」
「ポーション飲んだから大丈夫。装備の耐久値も……まあ大丈夫かな」
「そりゃ良かった」
「威力が凄かったね……」
「会心の一撃か、変化したからか」
「出来れば前者が良いですね」
あれが通常攻撃だと厄介だな。会心攻撃なら、しょうがないという事にもなるけど。今まで以上にモーションに気をつけないといけないな。
派手なブレスのおかげで、雰囲気が切り替わり、プレイヤーも真面目な雰囲気になっている。今更だが、他の4カ所も戦闘になっている様だった。時折光ったりしているから、魔法か何かだろう。
烏合の衆ではいけないのは大体のプレイヤーが分かっているから、暫定の指揮役として、アリサさんが務める事になった。こういう時はトップクランのネームバリューは凄いな。
まあ指揮と言っても、タンクを始めとしたプレイヤーによるヘイト操作、その間にアタッカーが攻撃、ダメージを受けたらヒーラーが集まる場所に行き回復と、ざっくりしたものらしいが。そして、そんな事をしていられないと単独行動をするプレイヤーも中にはいる。強制では無いので、別にいる事自体に文句は言えないのだけど、大概そういうプレイヤーは普通に死んでいくんだよなあ……最後まで死なないなら凄いのだが。
ショウはさっさと集まって行った。
「じゃあコウさんも頑張って下さいね」
「ああ、コトネさんの方も」
コトネさんと分かれ、アタッカーが集まる集団の1つへと向かう。
「えっと、これどっちだって?」
「あ?あー、確か西側だったはず」
「サンキュ」
「いや別にな……うわ来た」
近くにいたプレイヤーにこの集団の動きを聞く。アタッカーは4つに分かれるので、どこへいくか聞いておかないとな。さて、まともに戦闘開始だ。どうせなら5カ所の内で1番に倒したいが……まあ俺1人が頑張っても仕方が無いので程々に頑張ろう。




