第二十四話 ハマグリ
時間が近づいてきたので、村へと向かう。ダラダラと過ごしている間にコトネさんやクルト、アゲハもログインした。モモとクローナも起きてきたし、アポロさんも戻ってきた。普通に全員揃ったな。
「まあ霧だよね」
「まあ元凶が出てくるとか言ってたからな。晴れる訳ないな」
「な、何となく薄くなった気が……?」
「気のせいじゃない?」
村へと着くともう見慣れた感じの、霧が漂っている光景そのままだった。クルトが霧が薄くなった気がすると言うので目を凝らしてみるが……その通りな様な、変わっていない様な。まあ誤差では無いだろうか、流石にこんな小さな変化を見逃した所で重大事が起きたりはしないだろうし、そも重大事は予告されている。
昨日のレイド戦と同じく、カウントダウンの事はプレイヤーにより周知されているみたいで、同じく大勢のプレイヤーが集まっている。この人数なら何があっても対処出来るだろう。
「あと何分だ?」
「あと5分だね」
「……やる事無いな」
5分はやる事が無いと大分長い。ただ待っているだけでは何にもならないので世間話をしながら時間を待つ。
そして5分が経つと、風が吹いているわけでも無いのに立ち込めている霧が揺れ始めた。少し離れた海面も動き出し、巨大な何かが浮上してくる様な様子を見せた。
「何が出てくるんだ……?」
「さ、さあ……とにかく待たないと」
海側の霧は元々見やすい様になっていたが、その巨大な物体が見やすい様に更に薄くなった気がする。それでも全貌は見えないほどが巨大で、下手をすると町1つ分ぐらいはあるんじゃないだろうか?浮上してきた物は平べったい形をしていて、真ん中の辺りは何やらゴツゴツしている。
「これは……凄いねぇ」
「初めて見ました……」
モモ達も初めて見るのか。まあ長く生きているという設定なだけだし、陸地の外に関してはあんまり詳しく無いみたいだからな。
その巨大な何かが浮上してから数分が経ったが、それ以上の変化は見られなかった。近づけばもう少し分かるのだろうが、この状況で近づくのはなあ。
「どうする?」
「うーん、近づかなきゃ始まらないけど……どうしようか」
「下手近づいてデスペナになるのは嫌ですからね」
「あ、大型船が近づくみたいですよ」
確かに数隻の船が近づいていく様だ。先頭のは……確かポールスターの物だったっけか。霧が薄くなったお陰で他の船もよく見える。後ろのは他の大手クランの物だな。まあ率先して行くよな。他のプレイヤーもそれに触発されて船を出して移動し始めている。
「みんな行ってるみたいだし、行こうか」
「そうですね」
大多数の流れに任せて、俺達も向かう。危険度は未知数だが、まあ船を任せれば逃げられるだろうし、クルトとアゲハも一緒だ。
船を近づけて行くと、巨大な何かの詳しい見た目が分かってきた。
「2枚貝……?」
「そう見えるな……あさり?」
「上にも何かあるみたいですね」
「建物……に見えますね」
スケールが大き過ぎるが、貝だった。中心部には建物が無数にあり、さらにその中心には塔の様な物もあった。さながら町みたいだな。
「ああ成る程、蜃気楼って事かな?」
「霧だっけか?」
「そこは解釈の範囲内じゃない?」
そういう事なら霧の元凶はコイツで確定か……もしかしてコレ倒すのか?流石にでか過ぎるような。まあまだ判断を下すには早いか。プレイヤーが集まったとしてもどうにも出来ない物を用意するはずないよな。
最初に動いたポールスターを始めとするクランのプレイヤー達はもう上陸(?)している様で、どういう事になるかはその内分かるだろう。俺達も上に上がり、船をしまう。初めて見たが、大型船をしまう収納アイテムもあるのな。1辺が2メートルぐらいあるが、妥当なのか?
「まあ町の規模だね」
「人っ子一人いないみたいだけどな……当たり前か」
実際に近くで見てみると、1つの町その物だった。長い間沈んでいたのだろう、それっぽい感じに海の生き物がくっついている。浮上した時に逃げ出せなかったのか、そこらで魚がピチピチと跳ねており、何とも言えない。中には深海魚っぽいものもあるので結構深くにいた様だ。
建物をよく見ると、人工物といった感じがしない。何となく質感は珊瑚の様に感じるが、まさか正解という事もあるまい。鑑定が効かないから正体も分からない。鑑定のレベルが高ければ何か分かるかもしれないが……まあそこまで知りたい訳でもない。とりあえずここに人が住んでいたという事が無い事は分かる。
そんな感じで町の入り口でマゴマゴとしている間に、行動力のあるプレイヤーはどんどん町の中へと入っていった。探索してみないと何にもならないので、俺達も行くべきか。
「まあ入るしかないよね……」
「アポロさんはどうしますか?」
「そうですね……折角なのでご一緒します。どこで何が起きるかわかりませんし」
「クルト達は……」
「ここで待ってもらうよりかは、一緒に行った方が良いでしょ。ここに残るプレイヤーもそんなにいないみたいだし。余程の事が起こらない限り誰か1人は守れるでしょ」
「それもそうか」
余程じゃなけりゃ、誰かしらの手は空いてるよな。そもそもモモがいれば大体カバー出来そうだ。
今更だが、周りのプレイヤーからの視線が多いのに気づいた。2パーティ分の大所帯なのはまだしも、アポロさんに只者では無い雰囲気のNPCを連れていたらそりゃ目立つか。幸い話しかけてくるプレイヤーはいないが、視線が中々に面倒臭い。モモ達置いてくればよかったかな……いやそういう訳にもいかないか。フードでも……逆に怪しくなるな。町の外でプレイヤーネームが出ない仕様で良かった。名前を覚えられると厄介だ。
気を取り直して、町もどきの中へと入る。改めて見ても、材質や状況を考えなければ人が住めそうだ。
「ん、何かいるねぇ」
「え?あ、本と「【刺突】」……どうも」
「あ、いえ。つい反射で」
歩いて進んでいると、角からイベントモンスターが現れた。中で徘徊しているのか……まあアポロさんが急所に1撃で倒してしまったが。
「今のは南東側の海に出てくるレベルですね」
「じゃあ大した事は無いか」
「レベルの低いプレイヤーもいるだろうからね」
「でも角から来るのは驚きますね……」
ここの建物はやたらと丈夫な様だった。その後も何回かモンスターと遭遇した訳だが、モンスターの攻撃や外れた俺達の攻撃が当たってもびくともしなかった。最初は驚いたものだが、そういう物だと分かればすぐに適応できた。まあそも、モンスターと遭遇すると同時に大体アポロさんが倒してしまうので特に考慮する事も無いのだが。若干不安になる楽の仕方だな。
「うーん、どっちに行く?」
「あの塔の方か、外側付近を調べていくか……」
「けど、塔の方はもう誰かが行っていますよね」
「ここにいるプレイヤーの数からして、もうどこも調べられてそうだけどね……」
俺達が町に入ったのは、大分後続になってからだからなあ。1番乗りになる所はもう無いだろう。そうなると大した目的が無くなってしまうな。こういう時は。
「モモ何か分かるか?」
「うん?まあ生き物の上にいるって事と、ここの円周に沿って変なのが5体……いや1体?いやそもそも同じ括りなのかねぇ?まあそのぐらいしか分からないよ」
「そうかそのぐらい……え?」
そのぐらいって大分凄い事言っている様な。町の円周に沿って何かがいるって?分かってるでしょみたいな雰囲気で言わないでくれ……聞いておいて良かった。
「え、どうする?」
「ど、どうすると言われてもね……どうする?」
「私に言われても……でもそれなら大勢いるのに何もアクションが無いのはおかしいですね」
「そうだ……うわっ」
話していると、急に地面が、いや貝が揺れ始めた。モモがフラグ……いやそれは無いな、偶々か。一体何が起ころうとしてるんだか。




